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2016.07.06 Wed UPDATE CULTURE

アートディレクター 森本千絵さんの書棚

アートディレクター 森本千絵さんの書棚

MJの連載「今月の本のハナシ。」。
毎回、各界の著名人が思い入れのある1冊について自身のキャリアや経験を交えつつ語っていただいているが、
ここMJPでは、本誌とはまた別な1冊(ないしは2冊)を紹介。また、スペースの都合上、入りきらなかったこぼれ話も。

今回のゲストは、日本で指折りのアートディレクターでありコミュニケーションディレクターであり、アーティストでもある森本千絵さん。
本誌では働く女性、MJPでは母親として選んだ本を紹介していただきます。

――大の映画好き、サウンドトラック版好きとして知られる森本さんですが、本の方はいかがですか?

本も好きですよ。暇さえあれば、しょっちゅう読んでいますし、ジャンルも絵本や写真集、本屋さんにある本は雑多に。

――中でも好きなジャンルは?

図鑑や地図を見るのが好きで、サーフィンをやっていたんですけど、忙しくて海に行けない時は代わりに地図を開いて行った気になったり。図鑑を見ながら、その土地の動物や植物を想像したり。昔は…これは映画ですが、『イントゥ・ザ・ワイルド』に刺激されてアラスカに行っちゃったことも(笑)。それで無人島でキャンプしたりなんかして。そんなふうに思いを巡らせる、身体は行けなくとも気持ちを飛ばすことのできる本が好きなんだと思います。

――(笑)、わかります。MJ本誌で新刊を紹介する時も、ついつい疑似体験できる本を選んでしまいますし。

いいですよね。絶景とか秘境とか。その流れでは、そこに行く時に使うであろうキャンプ道具や登山道具の本も大好きで、何ならカタログでも読むくらい(笑)。最近も(冒険家・写真家の)石川直樹くんが書いた『ぼくの道具』(平凡社刊)が面白かったなあ。あと、海もの山もの以外では図書館の本も。『世界の○○な図書館』とか、そのへんの系統もよく読みます。いずれは図書館のデザインもしてみたいんです。

――偶然にも(見本誌として持参した)6月号では『世界の不
思議な図書館』(創元社刊)という本を紹介しています。

これはまだ読んでいないですね。今度、買ってみよう。

――小説はあまり読まないんですか?

読みますよ。それこそ平積みのベストセラーから古本屋さんで買った昔の文庫本まで。作家さんでは吉本ばななさんが好きで、近作では『花のベッドでひるねして』が心に響きました。平たく言うと家族の話で、私自身、結婚して母親になったことも大きいと思います。ちなみに、この(6月号で原田知世さんが紹介していた)『きみが住む星』(文化出版社刊)も昔、夢中で読みましたね。

――逆に読まない本は?

食もの、料理ものです。結婚後、お料理ができないと思われているのか、やたら人からいただくんですけど(笑)、なぜだか興味が沸かなくて。私にとっては刺激がないです。

――今回、本誌のインタビューでは、児童文学の体裁を取りながら「大切なものは、目に見えない」など示唆に富んだ大人向けの言葉が並ぶ『星の王子さま』(岩波書店刊)。

ちょっとだけ目線を変えた発想が日常生活を豊かにしてくれる日比野克彦さんの『100の指令』(朝日出版社刊)を紹介していただきました。

仕事柄なのか、体内に入れたら終わりっていう本より、もっと自分の目線や考え方が変わる、変えられるような。図鑑や地図もそうですが、好奇心を何かしら刺激して、心に残る本に魅かれるみたい。もちろん「私は」というだけで、料理が心に残る人はそれで全然、いいと思いますけど。

――先の2冊は「好奇心を刺激してくれる本」、「考え方の支えになった本」というテーマでしたが、こちらMJPでは?

まずは「その考え方を自分なりに形にし始めた本」です。私自身、初めての絵本となった『おはなしのは』で。子供のころ母親が聞かせてくれた話を物語にして絵本化したものですが、この絵本を描き終わり、エディトリアルに入っている間に私自身の妊娠がわかって。レイアウトの立場になった時に出産。企画が始動した当初は、まだ母親というものを体験してないから、やっぱり難しいかなと思っていたところ、途中からは本当にやりやすかった。だから、母親から私に、そして子供へとバトンをつないだ本でもありますね。

――森本さんの会社名は「goen゜(ゴエン)」。文字通りご縁と言いますか、まさにそんなことが起こるんすね。

「こんなものがあったらいいな」と思い仕事をしているとよく起こるんですよ、こういうことが。映画や本など生活からアイデアを得ることもあれば、仕事で考えていたことがプライベートに影響を及ぼすこともあるので、不思議ですよね。

――そしてもう1冊。

こちらも昨年、吉永小百合さんと二宮和也さんが親子役を演じた映画が公開された『母と暮せば』の絵本。

この絵本は、臨月でもうじき予定日という時に1日1枚ずつ、1ヵ月ほどかかって必死で絵を描いたもので。描き終わって、いざ入稿という時期に出産を。原爆で子供を亡くした母親の話でしたから非常にヘビーな作業でしたが、それだけに思い入れの深い1冊になりました。この時も自分が母親になるということで命について考えながら描きましたし、それまでは頭で考えても本当の意味ではわからなかった親の子に対する思いもすごく理解できた。そういう意味では「自分が子供から母親になった時に完成した大事な本」です。

――では最後に「人生に影響を与えるような1冊」というと大げさですが、そういう1冊なり1本の映画、音楽であれば1枚に出会うには?

30代の読者であればまだしも、20代になるとものを買わない世代と言われていますから、ぜひご縁が訪れるようアドバイスを。

見つけようと思うと難しいけど、動けば何かしら必ずに見つかると思うんですよ。逆に言うと、自分から動かないと何も見つからない。先ほどの“ご縁”にかこつけると『母と暮らせば』で文を書かれた山田洋次監督とは、私が(山田監督の)『男がつらいよ』の大ファンで。シリーズの中から私が好きな作品を選んだある映画祭を聞きつけた監督が突然いらっしゃったことがきっかけでしたし。そこで今の主人とも出会い。人生の1冊というのとは全然、関係ありませんが(笑)、ともあれ動け、行動しろってことですかね。

おはなしのは記事内
おはなしのは

森本千絵著
講談社刊
1800円

著者自身による手描きのイラストと切り貼り、そしてCGでまとめた独特のファンタジー世界を、独創的な「おはなし」とともに、初めての絵本に。

「かつて母が私に聞かせてくれていたことのように、話をつくってみました。ぜひ親子で」

 

母とくらせば記事内
絵本 母と暮せば

山田洋次、森本千絵著
講談社
1800円

原爆で亡くなった息子が、3年目の命日に亡霊となって母親の前に。

楽しい日々を過ごす2人だったが、息子のかつての恋人に話が及ぶと…。
「戦争の話ですが、山田監督ならではのユーモアもあり暖かな話です。こちらも親子で感じてください!」

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