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2016.08.12 Fri UPDATE CULTURE

今月の映画のハナシ。新海 誠『君の名は。』

今月の映画のハナシ。新海 誠『君の名は。』

未知との出会いに好奇心を持っている限り、人間は〝思春期〟だと思うんです

自分のための物語だと思ってもらえたらうれしい

『秒速5センチメートル』や『言の葉の庭』など、映像美と心をつかむ切ない物語で日本のアニメ界のみならず、映画界に新風を巻き起こす新海 誠監督。今月、満を持しての新作『君の名は。』がついに公開される。
物語は山深い田舎町に住み、都会への憧れを募らせる女子高校生・三葉が、都会で暮らす男の子になった夢を見ることから始まる。一方、東京に住む男子高校生・瀧も行ったことのない山奥の町で自分が女子高生になった夢を見る…。思わぬ「入れ替わり」に気付いたふたりの運命を描く注目のエンターテインメント作。本作に監督がかけた想いを聞く。

「『君の名は。』は’14年の7月ごろに企画書を提出したのがスタートでした。その段階では自分の作りたかったもの、自分が観たかったアニメーションを企画書に込めた感じでしたね。今回の物語には、いくつか発想のもとになったものがあって、最初に思ったのは、まだ出会っていない少年と少女の物語というところですね。お互いをまだ知らないけど、いつか出会うべき相手、つまり運命の相手がいて、それを知らずに別々の場所に住んでいる…そんな物語にしたいというのがありました。もうひとつは小野小町の和歌です。『夢と知りせば…』で有名な“君のことを夢に見たんだけど、夢だと分かっていたら、目を覚まさずにずっと君を見ていたかったのに”という大意の歌がありますが、夢での出会いがまずキーでした。あとは、男女入れ替わりを描いてみたかったということもひとつです。古くは古典の『とりかへばや物語』や映画『転校生』や漫画『ぼくは麻里のなか』など新旧の作品を観たりしました。
その後、企画が上がり脚本が決まり、絵コンテを書き始める中で、音楽を担当していただいた野田洋次郎さんとやりとりを進めていったんです。最初、音楽をお願いする方を決めるタイミングで、好きな音楽はRADWIMPSだと話したら、本作の川村元気プロデューサーが連絡をとってくれたんですね。それでお会いして脚本を渡したんです。洋次郎さんは「RADWIMPSは結成10年を迎えて新しいフィールドに興味があるんです」とおっしゃってくださいました。そのとき、脚本を読んでもらったイメージで何曲か書いていただいたものが、『前前前世』や『スパークル』という歌モノの曲になっていて、とにかく、それが本当に素晴らしかった。最初に聴いて震えました。これをどう活かせばいいのか、それを考えながら、絵コンテを書きましたし、それぞれの歌モノの曲が結果的にはクライマックスになっていきました。
今回、ビジュアルの部分ではキャラクターデザインを(『あの日見た花の名前を僕たちはまだ知らない』などの)田中将賀さんにお願いしています。田中さんとは以前CMでごいっしょしたのですが、彼の描くキャラクターは抜群にキャッチィでアニメ的魅力に満ちています。そして、作画監督を引き受けてくださった安藤雅司さんの力も大きなものでした。安藤さんは作画監督として『もののけ姫』などを手がけられた、ジブリのど真ん中にいた方。日本の深夜アニメを代表するエッジの鋭い画を描いてきた田中さんの画を、安藤さんがどう描くのか、キャラクター表現の醍醐味があるとも思いますね。
また声優陣も本当にこれ以上はないという方々に演じてもらえたと思っています。瀧役の神木隆之介さんは、いつもニコニコして、僕の作品が好きだということを語ってくれるんです。でも、その見方が分析的で、架空の人物をいかに実在するように演じあげるかということを常に考えている、根っからの役者なんだと思いましたね。そして、三葉役の上白石萌音さんも天性の才能のある方だと感じました。セリフも全部覚えてきていたし、キャラクターが喋るリズムやテンポを身に付けていて、完璧な状態で臨んでくれました。それに感動しましたし、声がキャラクターそのもの。だから、僕にとってはもう彼女が三葉ですね(笑)。
僕は今回の作品に限らず、あらゆる思春期の人たちに向けて作品を作りたいと思ってきました。ただ“思春期っていうと10代だけなの?”と言われるかもしれませんが、未知なる世界との出会いに好奇心を持ち続けている限り、ひとは思春期なのだと思っていて。例えば、5歳で思春期を迎える子もいれば、60代で思春期の方も当然いて、僕は43歳ですが、まだまだ思春期だと思っています(笑)。『君の名は。』がそういった人たちの心に響き得る作品であってほしいし、自分のための物語だと思ってもらえたらうれしいです」

PROFILE
1973年2月9日生まれ。長野県出身。’02年個人制作の『ほしのこえ』でデビュー。’04年の『雲のむこう、約束の場所』で初の劇場長編作品に挑む。その後、『秒速5センチメートル』(’07年)、『星を追う子ども』(’11年)、『言の葉の庭』(’13年)は国内外で圧倒的反響を呼び、多数の賞を受賞、熱狂的なファンを生む。本作は6作目の劇場公開作。

 

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(C)2016「君の名は。」製作委員会

 

『君の名は。』
千年ぶりとなる彗星の来訪を1ヵ月後に控えた日本。田舎町に暮らす女子高校生の三葉は都会に憧れ、憂鬱な毎日を過ごしていた。彼女はある日、自分が都会に住む男子になる夢を見る。一方、都会に住む男子高校生の瀧も自分が女の子の身体で田舎町に暮らす夢を見る。果たしてふたりの未来は…。

原作・脚本・監督:新海 誠、音楽:RADWIMPS、声の出演:神木隆之介、上白石萌音、長澤まさみ、市原悦子ほか。8月26日[金]より全国ロードショー

 

 

図2

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