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2016.12.09 Fri UPDATE CULTURE INTERVIEW

今月の映画のハナシ。映画監督 安齋 肇『変態だ』

今月の映画のハナシ。映画監督 安齋 肇『変態だ』

『変態だ』は3部作。
今回は雪山が舞台で、次は漁村、
最後は宇宙だそうです(笑)

みうらPと喧嘩しながら
初めて挑んだ映画監督

 青春時代、強引に入部させられた部活をきっかけにミュージシャンを目指した“ある男”。大人になり家族とごく普通の生活を送っていた彼は、ある秘密を隠していた…。’16年末、みうらじゅんの短編小説を原作に、満を持して公開されるロックポルノ映画『変態だ』。シンガーソングライターの前野健太が、濡れ場やSMプレイとアブノーマルな痴態を120%本気で魅せる意欲作だが、その監督に抜擢されたのは、みうらの盟友・安齋 肇。初めての映画監督にどんな心境で挑んだのだろうか。

「この映画は元々ね、みうらじゅんっていう人がプロデューサー的な立場で進めていた企画なんです。彼から『ポルノを撮らないか?』って初めて原作を渡された時は、そりゃあタイトル見て断ろうと思いましたよ(笑)。でも、本を読んだら、主人公が追い詰められて変態に向かっていく感じに共感できたし、引き受けてみたんだけど…このみうらプロデューサーが難敵でした(笑)。
 この映画は『スター・ウォーズ』の最新作と公開時期が近いんだけど、彼に言わせれば『お客さんは《SW》を観るか《変態だ》を観るか決めるんだよ。製作費とか関係ないんだよ!』と。普通に説教するんですよ、僕4つも年上なのに(笑)。いつも打ち合わせは居酒屋なんですけど、提案してはダメ出しの繰り返し。焼酎3杯目までは真面目に話しているんだけど、5杯目過ぎると喧嘩になって、8杯目くらいからはまた仲直りして抱き合ったりしているらしいです。全然覚えてないけど(笑)。
 企画段階で出演が決まっていたのは、前野くんとウクレレえいじさんくらい(笑)。あとのキャスティングはみんなで決めました。中でも、月船さららさんと白石茉莉奈さんはこの映画に欠かせない存在で、前野くんとの3人のスケジュールはギリギリまで粘って合わせてもらったんです。そこの粘りは変態ですから。前野くんも素晴らしい変態ぶりでした。白石さんとのセックスシーンはもうちょっと長い接吻が見たかったけどね。本人たちの判断で10分くらいでギブアップが出ちゃいました(笑)。
 ロケもすごく楽しかった。ワンシーンでオファーしていた宮藤(官九郎)くんや真心ブラザーズの桜井(秀俊)くんは、スタジオに来てちょっとで終わると思っていたら雪山に連れて行かれてね。一日中寒い思いをして演技するんだけど、噛んじゃうわけです、寒くて。前野くんも雪の中、素っ裸で叫ぶんですよ、変態だーって。凄かった。いい画が撮れたし。でもみんな帰りのバスでひと言もしゃべらなかったですね(笑)。
 ただ一方でピンチもありました。撮影監督はロックカメラマンの大御所で、昔からずっと仕事でお世話になっている三浦憲治さんにお願いしたんです。三浦さんも『安齋、俺はもう歳だからこれを遺作にするからな』なんてノリノリで、役者さんの目元や手元に寄ったり今までに見たことのない映像を撮ってくれました。ただ、実はもうひとり角野広和さんという、アメリカでエミー賞を獲った、すごく映画らしい壮大な画を撮るカメラマンも参加してくれていて。で、いざ編集に入ったら、その“遺作”と“エミー賞”のふたりの画が違い過ぎてまとめられない。編集の平野(一樹)くんも『三浦さんの画、使わなくていいですか?』なんて言い出しちゃって(笑)。ところが平野マジックで、出来上がった映像はグッときましたね。前野くん演じる男が持っている潜在的な怒りや鬱憤みたいなエネルギーが、画として見えてくるんです。繋いだラフ映像を、みうらPに観てもらった時も大絶賛。まだ音声も入ってない未完成なものなのに…。逆にハードル上がっちゃって、そこから完成までの1ヵ月が個人的に一番辛かったです(笑)。
 みうらPは最近、この“変態”という言葉を“ロック”に置き換えているみたいです。『ロックとは元々変態のものだ』って。だからこの映画で、前野くんが演じるロックに憧れる青年がだんだんと変態に目覚めていく様子は、特殊なモノへと向かっていく助走だと思って撮りました。男がどこで変態へと火が付いたのか、考えながら観てみるのもおもしろいかもしれません。
 完成版はみうらPもすごく褒めてくれました。僕も新たにポルノ監督っていう肩書ができたし最高です。でも本音を言うと、映画監督はこれで遺作にしたい。今作は、本当に運が味方した部分がいっぱいあるんです。だからもう次はないといいな…。まあ、みうらPによると『変態だ』は3部作らしいけど。次は漁村が舞台で海に行って、最後は宇宙なんだって。もうついていけないよね(笑)」

 

PROFILE
1953年12月21日生まれ、東京都出身。イラストレーター、アートディレクター。広告・映像作品のビジュアルやキャラクターのデザインを手掛けるほか、音楽活動なども行なう。また、テレビ番組『タモリ倶楽部』の人気コーナー“空耳アワー”にソラミミストとして出演。みうらじゅんとともに「勝手に観光協会」のメンバーとしても活躍中。

 

 

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(C)松竹ブロードキャスティング

『変態だ』
なんのとりえもない“男”(前野健太)は、偶然入ったロック研究会をきっかけに、ミュージシャンとして活動を始める。時は過ぎ、やがて結婚。幸せな妻子との生活の傍ら、実は学生時代から続く薫子との愛人関係を断てずにいた。ある日、愛人とともに地方ライブの会場へ向かうと、そこに妻の姿が…。

企画・原作:みうらじゅん、監督:安齋 肇、出演:前野健太、月船さらら、白石茉莉奈ほか。12月10日[土]より、新宿ピカデリーほか全国順次ロードショー

 

 

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