「平成」に続く新しい年号として「令和」に改元。また新しい時代を迎えた。元号の変遷と同様に、ファッショントレンドも毎年変化を遂げており、現代ではSNSの普及によってその変化のスピードがより一層増している。そのような目まぐるしいファッションシーンのトレンドを、この記事では『Men’s JOKER』の過去記事を参照しながら本日から4回にわたり、5年ごとにファッショントレンドを追ってみたいと思う。
解説してくれるのは、実際にメンズファッションの現場で長年活躍しているスタイリスト・金井尚也さん。創刊の2004年から休刊の2019年までの15年間のページから代表的なコーディネイトを選び、当時のトレンドについてコメントを加えた。
今回は2009年をピックアップ。当時のスタイリングとともに検証していきたい。
メンズファッション誌を中心に活躍する実力派スタイリスト。最先端のトレンドはもちろん、ヴィンテージなどにも精通。幅広い知識に裏打ちされたスタイリングに定評あり。
――2009年(平成21年)はこんな時代
1月にバラク・オバマ氏が黒人として初めてアメリカ合衆国大統領に就任。「Yes We Can!」のフレーズは日本でも流行した。年間のCD売上のTOP3を<嵐>が独占し、<嵐>旋風も。またファッション業界では、海外から<H&M>、<ZARA>、<フォーエバー21>などが上陸してきたことで『ファストファッション』という言葉が流行語となるほどの社会現象となった。
金井 「前回の記事、15年前の2004年は下に向かって広がりがあったパンツが、この辺からスッとタイトなシルエットになり始めましたね。全身Aライン気味だったシルエットが、Iラインに変化しました。肩のシルエットもお腹周りもタイトめに着こなすように、シルエットのトレンドが変化していきます」
金井 「この時代を象徴するアイテムには、ハットが挙げられます。“ヤバい”くらいみんなかぶっていた。シックなブラックのハットを、男女や年代を問わず、被っていました。シューズのトレンドも合わせるように革靴が流行。最近でこそ足元はスニーカーが定番になっていますが、ローファー、ウイングチップ、ストレートチップ、プレーントゥの革靴、またはブーツなどをみんなが履いていました。基本的に合わせる服が絞られてしまうのですが、流行していたのでストリート好きの人以外は違和感なく履いていましたよ。あとストール(※5)。ハットや革靴と方向性は同じなので、これも流行しました。上品で大人っぽいけど、少し“ハズし”の効くアイテムがトレンドだったのかもしれません」
※5 元来はレディース用の肩かけ。マフラーのようなものだが、マフラーよりも薄手でサラッとした素材感が特徴
金井 「ジレがまだまだ流行していた一方で、インナーのTシャツはUネックからVネックに変化していました。少し切れ味をアップデートさせて、よりワイルドに大人っぽく、ギラついた香りがするスタイリングがベースになっていましたね。なので、デニムはクラッシュ、ペイント、ダメージなどの加工が施された“男らしい”ものが選ばれる傾向があり、はいている人が多かったですよ」
金井 「ファッションって、トレンドのテイストが軸になるんだなって、改めて感じました。“ワイルドで男らしいギラつき感”があったこの当時のトレンド。ウオレットチェーン、スタッズベルト、ロザリオ(※6)など、ゴリゴリしたおしゃれ小物はこの時代のスタイリングに欠かせませんでした。七分袖のVネックTシャツに、ジレをはおって、クロップドパンツを合わせて、ロザリオを付ければ、すごく時代性を感じる代表的なコーディネイトが完成すると思います。『時代を振り返る』ような企画にありがちな、『今見ると……』ですよね(笑)」
※6 元来はカトリック教徒が祈りの際に用いる数珠状の用具。トップに十字架が付いていることから、日本では一種のファッションアイテムとして浸透している