スウェットパーカをひとつの物語に例えるなら
ヴィンテージの「後付けパーカ」をモチーフにしたアイテムです。クルーネックのスウェットに後からフードを縫い付けた仕様は1950年代以前に見られたもので、フード一体型のスウェットパーカが登場したことによって消滅する運命をたどりました。こちらのモデルの場合、後付けされたセパレートタイプのポケットが裾リブにちょっと乗ってるところも特徴。フードの表情と相まって、何とも味わい深いのです。
素材には、いわゆる「吊り裏毛」を使用しています。ヴィンテージスウェットが現役だった時代に稼働していた吊り編み機で時間をかけて編まれている生地は、ふんわりと柔らかい肌触り。最新の機械に比べて生産効率が悪いということで、この吊り編み機も消えゆく運命をたどっています。
すでに失われたもの、今では失われつつあるもの。これらは、詩や小説のテーマとして鉄板ですよね。時代や国籍を超えて取り上げられてきた、永久不滅のテーマです。スウェットパーカなのに物語を感じてしまうのは、そこに失われたものたちが登場しているからだと思います。
でも、ノスタルジーに浸っているだけではありません。袖口のリブが長めの設計になっていて、折り返すと普通に着られるし、伸ばすと手の甲までをカバーしてくれてハンドウォーマーになります。サムホール(親指を通す穴)も完備しています。つまり、新たな希望が書き込まれているのです。
スウェットパーカをひとつの物語に例えるなら、かなり奥行きのあるものになっていると言えるでしょう。極上のストーリーが完成しています。
選者:篠宮祐介 近況
『水虫魂』(岩波現代文庫)
年始から読み始めているのがこの野坂昭如の『水虫魂』。昭和三十年代前半を舞台に「水虫」と呼ばれ貧相でひがみっぽい性格ながら、草創期の広告・放送業界をたくみに遊泳して芸能プロダクションの社長、出版社の経営者にのしあがっていく寺川友三の物語。
他ならぬこの小説のモデルになったのが我がベストセラーズの創業者、岩瀬順三氏です。(表紙のイラスト、ざんばら髪とサングラスはまさに岩瀬氏のトレードマーク!)
残念ながら私がこの会社に入社したときにはもう亡くなれていて、薫陶を受けたことはないのですが、昨年末あることをきっかけに社の先輩から岩瀬順三氏について話を聞く機会がありました。
常識破りな手法で『プロ野球を10倍楽しく見る方法』『ツービートのわっ毒ガスだ』などミリオンセラーを連発し、今なお出版史に残る伝説的な編集者である、そしてそのDNAが我がベストセラーズには息づいているのだと。2017年のスタートにあたり編集者としてのモチベーションとして読んでいるところです。
さて前置きが長くなった上に、強引につなげると、ヴィンテージを再現した服に僕らが魅了される理由も、そのルーツや歴史に惹き付けられるからではないだろうか。
どんなに時代のスタイルや流行が変わっても、その根っこにあるものは不変で、そうであるがゆえにたまにはそこに立ち返ることが必要なのだと思います。
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