2016.06.10 Fri UPDATE CULTURE

話題の俳優を直撃! スペシャルインタビュー
桐谷健太

話題の俳優を直撃! スペシャルインタビュー<br>桐谷健太

本誌の表紙には2013年7月号以来の登場となる桐谷健太。
前回は、その前年に公開された映画『アウトレイジ ビヨンド』や『黄金を抱いて翔べ』、テレビドラマ『遅咲きのヒマワリ~ボクの人生、リニューアル~』などで「役は作り込むというより、自分の中から生まれる」という新境地を開眼。
NHKの『激流~私を憶えていますか?~』で「今までにない雰囲気の役」に臨む直前のインタビューだった。
それから3年。これまでのタフさパワフルさに加え、繊細さを表現する桐谷に、今の率直な思いを聞いた。

 

――前回取材させていただいた際には、桐谷健太の第2章じゃないですけど、映画『クローズZERO』や『ROOKIES』に代表される青春ものから、大人の作品、大人の役へ移行する転換期にあったと思うんです。

そうですね。そのあたりから、お誘いをいただく作品や役柄がずいぶん変わりました。

――当時のインタビューでは「もがいたり悩んだりしたこともあったけど、これまでやってきたことは決して間違いじゃなかった」。「花が咲いたかどうかはわからない。でも、つぼみくらいにはなれたのと違うかな」とおっしゃっていました。

声に出されるとちょっと照れますけど(笑)、ほんまね、あの時期は花が開きつつあるなって感じていたんですよ。『黄金を抱いて翔べ』の井筒(和幸)さんをはじめ、監督さん、スタッフさん、演じてきた役…いろんなものが、いろんな場所でつながり始めて。その後も三木孝浩さん(『くちびるに歌を』)とか、宮藤官九郎さん(『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』)と再びごいっしょさせていただいたり。

――井筒さんは『ゲロッパ!』以来で『黄金を抱いて翔べ』が4本目。三木さんは『ソラニン』、宮藤さんは『タイガー&ドラゴン』で過去にごいっしょされていましたものね。

加えて、NHKのドキュメンタリー番組(『モンゴル 遙かなるアルタイ山脈』)でモンゴルに行かせてもらうとか、auのCMをきっかけに『海の声』をリリースさせてもらうとか…単純に音楽がお仕事になることもうれしかったですし、そういう秘境とか南の島といったネイチャーな感じも、旅好きで自然好きな自分には心地良かった。いいバランスでやらせてもらっていると思います。

――’15~’16年は単発ドラマ3本、連続ドラマ3本が放送され、映画4本が公開。14年間の俳優人生の中でも特に多忙な一年だったと思いますが、そうした「花が咲く」時期を経た現在はどんな状況なんでしょう?

風が吹いてきた。そんな感じですかね。風に乗って新しい種が飛んできてる、みたいな。

――CMの浦ちゃんは、きっとみんながまっ先に思い浮かべる“ザ・桐谷健太”な役だと思うんですが、その一方でWOWOWで社会派ドラマや経済ドラマに出演したり、また『かもめ食堂』の荻上直子監督がメガホンを取った映画『彼らが本気で編むときは、』で、生田斗真さん演じるトランスジェンダー(性別越境者=身体の性と心の性が一致しない)の彼氏という、これまで演じたことのない役にも挑んでいますね。

自分でも、次はどんな花が咲くんやろう? ってワクワクしますね。

――しかし、それらの作品と“ザ・桐谷健太”を同時にやってのける俳優なんて、なかなかいませんよ?

(笑)。’02年のデビューからしばらくブッ飛んだ役とか犯罪者の役とか、振り切った役を多くやらせてもらったおかげで、普通の…まあ、何をもって“普通”かと言うと、いろんな尺度があるとは思いますが、ビジネスマンなどの役から『TOO YOUNG TO DIE!』の“鬼”の役までね(笑)、やらせてもらえる。さまざまな役を演じられるというのは、本当ありがたいですよね。若いうちにもがいたり悩んだりした結果、今の自分があるのかなと。

――その『TOO YOUNG~』、最高でした! 個人的には’00年代以降の、コメディ映画のベストかも。

わ、うれし~。僕自身もやっててめっちゃ楽しい現場だったんで。普段ならこの役はこういう生い立ちで、こういう人間で…とか想像したりするんですが、なにせ演じるのが地獄の鬼ですからね。まず人間じゃないし(笑)。考えてもわからんから、もう感覚のみで現場に入りました。とにかくその場でビビッときたおもしろい事をやる。そうしたら台本ではト書き(シーンの説明部分)くらいだった僕の出番が増えていました。まぁ増えたっていうか、僕が勝手にやっていたら宮藤さんがその部分を使ってくださったんですけど(笑)。

――文字通りロックなパワーによって生みだされた『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』が公開される6月には、NHKのドラマ10枠でスタートする『水族館ガール』で水族館の飼育員役を演じられるとのこと。

そうなんですよ。しかも、もしかしたら初めての両想いの役です(笑)。これまでは自分から追いかけたりフラれたり、基本むくわれない片思いの役ばかりやってきた僕に、初めて恋の矢印が向くんです。うれしいやら照れるやら。自分で言うのも何ですが、桐谷健太、まだまだ伸びしろがあるやんって(笑)。

――(笑)。桐谷さんのキャラクターはこうしたインタビューの多くで「豪快な~」とか、そんな形容詞が使われがちです。

あと「パワフルな~」とかね。まあ実際、20代のころは「誰より目立ったれ!」「やったれ!」としか思ってなかったんで、その通りなんですけど(笑)。でもみんながそういう気持ちでやればものすごい作品になると思うし、あながち間違いだと言えないところもあります。要は、ちゃんと作品の世界観に溶け込むための気持ちの出し具合やバランスが大事なんかなと。

――ここ2、3年の仕事ぶりを見ると「豪快」の後に「なおかつ繊細な役も演じる」などと続けたくなりますが、そこが成長でしょうか?

そうなん…かな。30代も半ばにしてようやく(笑)。きっと目立ち方の意味合いも変わってきたんでしょうね。ただエネルギーを放出するのではなく、いかにその世界観の中で生きて見えるか、とか、マンガ原作であれば、いかにそのキャラに血が通って見えるか、とか。「豪快」とか「パワフル」というイメージは変えようがないし、ありがたく持ち味として頂戴しますけど、でも、ほんまは元々繊細なんですよね(笑)。

――前回のメンズジョーカーでも「(ここ最近)頭で考えず、感じられるようになってきたのかな?」とおっしゃっていました。

ある時、フワッと肩の力が抜けたんですよ。それまでは余裕がなかったんです。考えすぎて、ある種、憑りつかれたようにやっていたんで。役を作る上で身を削り肉を断ち、ツラい、しんどいの繰り返し。でも、そんな自分をカッコええやんって思っていたりするという(笑)。もちろん、その瞬間、瞬間で必死な自分と役がフィットしたんでしょうけど、今は自分に「楽しむ」ことや「遊び心」がないとエンターテイメントとして夢がないなと思ったんです。

――でも、必死というか、がむしゃらさが俳優・桐谷健太の存在感を際立たせていたと思うんですよね。だからこそ40代の人なら『タイガー&ドラゴン』のチビT、30代であれば『クローズZERO』の時生や『ソラニン』のビリー。20代は『BECK』の千葉とか。主役ではないのにそれぞれの世代が役名で覚えている役があって。

ほんま、何年も経った今でも「チビT」「平っち~」「時生!」って声をかけていただいて、俳優としてこんなうれしいことはないですよね。がむしゃらすぎて空回りした時も多々あった中、ポイント、ポイントでその瞬間でしかできない役に出合えてる。今回の『水族館ガール』にしても『彼らが本気で編むときは、』にしても、そうです。今の自分にしかできない役だと思いますし、その積み重ねで何と言いますか…マンガ原作であれば、出られる原作もののジャンルが増えたような。極端に言えばヤンキーもの、青春もの、コメディ限定の俳優だったところ、社会派も少女マンガもできるようになったことが30代の大きな変化でしょうね。

――周りからも「変わった」とよく言われるそうですね。

丸く…とも違うな。ギトギトしてたんが、ギラギラになった。それくらいの感じですかね(笑)。先ほど「肩の力が抜けた」と言いましたが、ギラギラはしつつ、トリッキーなところも残しつつ、その人が出てくると自然と笑みがこぼれたり、ホッとする。そんな俳優ってええな~と最近、思うんですよ。

――浦ちゃんによって、幅広い年齢層にも顔と名前が知れ渡りましたしね。ホッとする俳優、いいじゃないですか。

この間も公園で幼稚園のチビッコ20人くらいが『海の声』を熱唱してくれて。子供ってほんま、すごいですよね? 頭で考えなくても身体が無意識に動くというか。ええな~、うらやましいなと思う。そういう自然体でありたい。『海の声』じゃないですけど、好きなものに耳を澄まして、風に吹かれながら、波に揺られながら、自分の心の向くままやっていけたら最高やろうな~。

――来たる40代に向けて、新たな風に期待しています。

とはいえ、「こんな役をやりたい」というのはないんですよ。パワフルな役が続いたから、次は静かめな役を…という戦略もないですし。『海の声』で弾かせてもらった三線も単純に沖縄が好きで趣味でやっていたらつながって。ドラムも高校の時にカッコええ~と思って始めたらビリーにつながって…。そういうつながりが大事なんかなと。イルカの飼育員の役も、これからどこでどうつながるかわからないですしね。だから、あえて人と違うことを…なんて狙わず、あくまで自然の流れに任せてみようと。自分の作品を見てくださった方々に「次はこんな桐谷を見てみたい」と、思われる俳優になれたらいいと思います。

 

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□プロフィール 1980年2月4日生まれ。大阪府出身。’02年、ドラマ『九龍で会いましょう』で俳優デビュー。以降も映画やドラマで重要かつ印象に残る役を演じてきた。この6月は、映画『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』が全国東宝系で公開(脚本・監督:宮藤官九郎、6 月25日[土]~)。NHKドラマ10『水族館ガール』が6月17日[金]よりスタート(午後10:00~)。来年2月には荻上直子監督の最新作『彼らが本気で編むときは、』が公開予定。『海の声』でおなじみauのCM「三太郎シリーズ」がオンエア中。

 

 

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