2017.01.10 Tue UPDATE CULTURE

話題の人物を直撃! スペシャルインタビュー
窪塚洋介

話題の人物を直撃! スペシャルインタビュー<br>窪塚洋介

’01年、映画『GO』の中で窪塚洋介演じるクルパーこと杉原はバスケの試合中に、はたまた電車と競争する命がけのレースの真っただ中、高らかに翔んだ。
あれから16年――。
芝居はもちろんのこと、レゲエDeeJay・卍LINEとしての活動など、大いなる助走期間を経た男がハリウッドを舞台に跳躍しようとしている。

 

――今回が『メンズジョーカー』初登場となります。

よろしくお願いします。(小栗)旬くんに見られていると照れちゃうから…(と、見本誌として持参した小栗 旬さんが表紙の12月号を裏返して)。そういえば先日、電話が来たんですよ。「先、行っちゃうんだ~」って。

――それは、1月12日[土]より公開される映画『沈黙‐サイレンス‐』で“ハリウッドに先に行っちゃって”という意味ですか?

そうですね。うれしかった。ずいぶん長い付き合いですし。

――’00年に放送された『池袋ウエストゲートパーク』では、窪塚さんが「キング」こと安藤 崇を演じ、小栗さんは、そのキング率いるカラーギャング、G-Boysのメンバー役。30代の読者的には、印象深い作品だと思います。

その世代には、今でもよく「観てました」って声を掛けられますね。10~20代の子には「(レゲエDeeJayを務める)卍LINEが映画に出てて超ウケる~」とか言われていますけど(笑)。

――(笑)、そんな若い世代にはぜひ『池袋~』ほか出演作を観ていただくとしまして。その当時、何度か取材させてもらいましたが、雰囲気が違います。

当時より?

――表情にしても、ずいぶん和らいだ気がする。

うーん、かもしれないですね。昔は今ほど自分をコントロールできなくて、眉間にずっと、こう(実際にやる)シワを寄せていましたから。怒りに対するハケグチがなくて、ひたすら自分の中に溜まっていった時期でしたし。今となっては…そういう怒りも、落っこちたことも、世間から見れば干されたようなポジションから地味~に復活してく過程も、すべて今、こうして幸せな状況にいられるための伏線だったとのかなと思えますけどね。

――その時期は相当、鬱屈していた?

そうですね。世の中に対する不満や不条理なことに対する怒り。でも、’06年に卍LINEとしての活動を始めて、インターネットやSNSで意見を発信できるようになり、そのころから自分の重心…魂の重心が定まってきたことによって、文字通り、落ちたところから再び跳ぶための準備ができたと思う。今までの悔しかった思いとかムカついた経験が自分の力になったし、ついにはハリウッドの映画監督が見初めてくれてハリウッドに…というのは、全部つながっていると思いますね。

――映画『沈黙‐サイレンス‐』の監督は、かのマーティン・スコセッシ。『タクシードライバー』(’76年)や『レイジング・ブル』(’80年)など知らない世代も、窪塚洋介=卍LINEきっかけで観てもらえるんじゃないかと思うんですよ。

『ウルフ・オブ・ウォールストリート』(’13年)の監督さんと言えば、若い人たちは「ああ!」ってなるんじゃないのかな。まあ、よくよく考えたらそんな巨匠の映画に出たんですからすごいことなんですけど。

――振り返っていかがでしたか?

オーディションで決まったんですけど、最初は「ああ、これダメだろうな」と思いました。控室だと教えられた場所が、いきなり(オーディションの)会場だったんですよ。そこにガムを噛みながら入ったもんだから、女性プロデューサーに「出て行け!」って怒られて。つたない英語で必死に謝罪したものの、聞き入れてもらえなかった。

――(笑)。そんな逆境から重要なパーソンであるキチジロー役に選ばれた?

2年後にまた呼ばれたんですよ。

――に、2年後ですか!?

トータルで5年ほどオーディションをやったそうです。聞けば、キチジローを演じられる役者を20年間探し続けてきたっていうくらい、マーティンにとっては重要な配役で。日本の俳優のほとんどに会ってきたけど出会えなかったらしく。それで「もう一度オーディションをやる」って流れに。

――舞台は、江戸時代初期のキリシタン弾圧がし烈を極める長崎。キチジロー役をどういうふうに捉えて臨んだんでしょう?

原作者の遠藤周作さんいわく「弱き者」。弱くて醜くて、ズルくて…という人の弱さを象徴するようなキャラクターなんですけど、原作にはキチジローの目線がないんです。だから、みんなが見ている彼を、断片的に寄せ集めて作っていった感じでした。

――でも、そのぶん余白がある。

そう、だから余白を考えて考えて。その結果、“イノセントさ”というキーワードが浮かんで。そこにしがみついていったら見事にハマった感じでしたね。マーティンが「目の前でキチジローが作り上げられていくのを目の当たりにした」と言ってくれたのは、その“イノセントさ”という部分が大きかったんじゃないかなと。実際、1回目のビデオ審査の感触がとてもよくて、2回目はさらによくて。3回目でマーティンに会ったんですが、今までよりも一番よくて。クランクアップに至るまで、どんどんよくなっていったという最高の上り方ができました。

――原作では、弾圧から逃れるために踏み絵を踏んだり、主人公で宣教師のロドリゴ(アンドリュー・ガーフィールド)を役人に売り渡したり、かと思えば、しつこいくらいにロドリゴに謝ったり。

あの状況、空気感の中、あの面々の前で踏めるか? という場面で何度も何度も踏み絵を踏む。そして、ロドリゴに対しては繰り返し謝罪しに行く。さっきは「“イノセントさ”でキチジローの余白を埋めた」と言いましたが、逆に、単なる弱いだけの人間ではないんじゃないかと思いました。信仰心に対しては弱いものの、自分に対しては強い…弱さと強さは紙一重だと思うし、そういう弱さ、強さのどちらも内在している人間だと、途中で気づいたんだと思います。「思います」というのは、やっている時は感覚みたいなところでキチジロー像を捉えていたので、後で振り返るとそうだったのかなと。

――タイトルの“沈黙”の意味はふたつあって、ひとつは原作の中でロドリゴが言う「神の沈黙」ですが、窪塚さんは、これをどう解釈されましたか?

神は沈黙しているけど、沈黙していないというか。自分の中にある指針であるとか、今風に言うとライフスタイルっていうのは、自分で獲得するべきものだから、神は黙ってくれているんだと思う。自分で気づくしかない、手に入れるしかない。そういうことを伝えたかったんじゃないのかなと。

――もうひとつ。日本のキリシタンは、殉教者や強い信仰心をもつ人々には賛辞を惜しまないものの、ロドリゴのような棄教者やキチジローのような人間の苦しみについては黙殺してきた。その意味での「日本(人ならでは)の沈黙」と言われています。

うん、うん(うなずく)。今でも形は違えど、そういうことはたくさんあって。だから温故知新じゃないですけど、『沈黙』で描かれる答えが、今を生きる人間の、ここから先の未来のガイドになると思うし、俺は、そうなるべきだと思います。

――また、信念を貫くことがいかに困難であるかも描かれています。

弾圧、弾劾の中、信仰を貫けるのか。ロドリゴであれば棄教するのか、しないのか。そこでの葛藤、難しさですよね。

――誤解を恐れずに言えば、窪塚さん自身もいろんな外野の声も聞こえたであろう中、ブレずにやってきた人だと思うんですよ。

さっきも言いましたが、もしね、今までの悔しかった思いとか経験が今の幸せな状況に返ってきているとしたら、それはたぶん、居たい場所や存在の仕方というものに向かって真っ直ぐ進んできたからだと思うんです。だから…今は地に足が着いている。メディアが持ち上げてくれる時は落とす時の前触れだと思っているし(笑)、浮かれずマイペースにやっていきたいですね。大概的に世の中に認められたことも、もちろんうれしいけど、何よりマーティン・スコセッシという偉大な監督とかけがえのない時間が過ごせたこと。何物にも代えがたい経験ができたことを一番に喜びたい。そこは勘違いしないようにしたいですね。

――映画『GO』(’01年)で「国境線なんか俺が消してやるよ」と高らかに飛翔し、紆余曲折ありながらも、16年の時を経て地に足が着いた。

(笑)。そうですね、16年かけてようやく。俺がアクションするということを超えて、俺が存在することで、それが風穴になってる。小さいころなりたかったのは、芸能人ではなく、そういう存在だったのかなということがわかってきたんです。役者とかレゲエDeeJayというのは、意見なり思いなりを伝えるための手段であって、夢ではないって。だから「卍LINEが映画に出てて超ウケる~」って言われても全然、OK。それが、こういう…普段であれば食指が伸びづらいような種類の映画を観るきっかけになれば、それで構わないです。

――再び翔ぶためには、助走と踏み切りが必要なわけで。「地に足が着いた」ということは、そのための準備ができたんじゃないかなと?

「今の時代、重苦しい空気が漂ってるし、なんかかったるいわ~」って言う人もたくさんいると思いますが、であれば「こっちに風通しのいい穴が開いてますが、どうですか?」と。芝居や歌という手段…俺にとっての武器を使ってね、提示していきたいですよね。自分が自分であれば幸せに生きていける――9階から落ちようが、メディアに叩かれようが、幸せに生きていけることが身をもって伝わるんであればうれしく思います。

――’17年には、ハリウッド第2弾となる『リタ・ヘイアースと手榴弾(仮)』も公開されます。

実は20歳くらいの時に「ハリウッドは通過点ですから」って言ってたんですよ。なんのオファーもないのに(笑)。でもそれが、今は現実として言える状況になったことは自信にもなっています。もしタイムスリップできるなら20歳の自分に「上がって下がって、不遇の時代もあるけど、そのまま行けよ!」って言いたい。だからと言って、この1回の経験だけで「ハリウッドでも通用する」なんて思ってはいないですけど。『沈黙‐サイレンス‐』は、たまたまマーティンが探していた役柄に上手くハマることができただけだと思うし、『リタ・ヘイアース~』にしても「ノーオーディションで大丈夫だから」と言われ決まったはいいが、それもマーティンの映画に出たというお墨付きのようなものがあってのものだろうし。

――とはいえ’15年には俳優デビュー20周年、昨年は卍LINEも10周年を迎えるなど節目でもありますし、さらなる飛躍、飛翔を期待しています。

現場経験もほとんどない、英語もロクに喋れないっていう今の自分の身の程を知った上で、一歩ずつハリウッドに馴染んでいけたらなって思います。そこでの経験が、いずれ卍LINEのリリックなりメッセージに活かされる。どちらも100%、両輪を保ちながらやれるのが理想。ともあれ、マイペースに。次に着地した時、ケガしない程度に翔びたいですね(笑)。

 

 

窪塚洋介
1979年、神奈川県出身。’95年、ドラマ『金田一少年の事件簿』でデビュー。映画『GO』(’01年)での演技が高く評価され、第25回日本アカデミー賞新人賞&史上最年少で最優秀男優賞を受賞。その後も映画や舞台を中心に活躍。卍LINEとしてアーティスト活動も精力的に行なっており、’15年には自身初のベストアルバムをリリースした。マーティン・スコセッシ監督作『沈黙‐サイレンス‐』が1月21日[土]より全国公開。http://chinmoku.jp/

 

 

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