福山雅治演じる弁護士・重盛の目を通して、殺人犯・三隅の心の奥に潜む心理を想像していく法廷サスペンス『三度目の殺人』が公開。監督は『そして父になる』以来、2度目のタッグとなる是枝裕和。是枝監督の新境地となる本作で、福山が見たものとは何か――? 『メンズジョーカー11月号』に掲載中のインタビューについて、スペースの都合で割愛せざるをえなかった内容を加えた完全版を、前・後編に分けてお送りします!
――『そして父になる』(’13年)以来、約4年ぶりに是枝裕和監督と再びタッグを組んだ注目の映画『三度目の殺人』が公開。ご覧になっていかがでしたか?
台本の決定稿が出ても、その後3分の1くらいがまた現場で変わっていく感じだったんですよ。そうすると撮ったカットがなくなるということもあり、編集によって台本とは順番が変わっているシーンもあって。でも、編集が終わったものを観たら、僕が言うのもおこがましいですが「監督、凄いところにたどり着きましたね!」というくらい見事に仕上がっていました。
――演じたのは、裁判に勝つためなら真実は二の次と割り切る弁護士の重盛。現場で演技をする過程で、重盛の人物像はどのように作り上げていったのでしょうか?
是枝監督の現場では、もちろん最低限の準備をしていきますが、(現場で)自然と出てきものを拾っていくと言いますか。あまり決まった感じで、準備してきたものを出しても監督は喜んでくれないと思ってまして(笑)。そのときでしか起こりえないものを求めてらっしゃるところがあると僕は感じているので、「重盛とはこういう人間だ」と綿密な準備をして現場に入ることはしませんでした。
――映画『そして父になる』で演じた野々宮もエリートでしたが、違った印象を受けました。
弁護士の仕事をしていない部分…例えば娘(蒔田彩珠)と電話しているところとか、父親である橋爪 功さんとの関係性を、すごく細かく描いているわけではありませんが、監督が編集上、丁寧に紡いでらっしゃるので、重盛の情けない部分、ちょっと弱い部分とか、やわらかい部分が表現されていて、より立体的になっているかもしれないですね。『そして父になる』の野々宮と比べて。
――本誌では「すべてが予定調和でない」ところが、是枝監督のすごさだと。かねてから監督の製作スタイルに興味があり、自身の音楽活動に通じるものを感じていたとのことですが、『そして父になる』以来、2度目のお仕事を経て改めて見えた監督のすごさとは?
おこがましくも勝手にシンパシーを感じていました。原案、監督、脚本、編集をすべてご自身でやられているので、音楽で言えばシンガーソングライター的なのかなと。そういった方が表現する作品は、全てを明確に開示しないまでも何かがにじみ出る。結果的に、作品にも作者がにじみ出てしまう…というところが多分にあるのではと思っていまして。それは生い立ちであったり、そういうパーソナルな部分が。是枝監督とお互いの父親について話したことがあって、是枝監督も僕もそうなんですけども、自分の父親がヤンチャと言いますか…ちゃんと勤め人をやっていた人ではないので、大事にされたとか、父性をもらったというような感覚がちょっと乏しいんです、ふたりとも。そういった部分が明確に描かれないまでも、登場人物の設定において、それがにじみ出ていると思うんです。それは前回の『そして父になる』も同じだと思います。
――本作は、クビになった工場の社長を手にかけ、死体に火をつけた容疑で起訴され、自供した三隅を弁護することになった重盛が、三隅と接見するうちに犯行の動機に疑念を抱くようになり、真実を知ろうとするさまが描かれる法廷サスペンス。初共演となる役所広司さん(三隅役)とのお芝居はいかがでしたか?
役所さんとのお芝居はほとんどがアクリル板越しで。接見室のシーンが7回あるのですが、役所さん演じる三隅という人間に翻弄されっぱなしでした。毎回七変化のように…ある時は安っぽい人間に見えたのに、次は天使のようでもあり、そして時に単なる殺人鬼のようでもあり、はたまた神父様のようでもあり。僕はただただ重盛として、役者として純粋にそれに反応すればよかった。 正直に言いますと、その役所さんの素晴らしいお芝居を特等席でかぶりつきで見させていただいていた感じです(笑)。
(後編に続きます!)
『三度目の殺人』
監督・脚本・編集:是枝裕和
出演:福山雅治、広瀬すず/役所広司ほか。
9月9日[土]より全国ロードショー
(C)2017フジテレビジョン アミューズ ギャガ
Photo:TAKEMI YABUKI[W]
Styling:HIROMI SHINTANI[Bipost]
Hair&Make:TOMITA SATO
Interview & Text:TATSUNORI HASHIMOTO