福山雅治演じる弁護士・重盛の目を通して、殺人犯・三隅の心の奥に潜む心理を想像していく法廷サスペンス『三度目の殺人』が公開。監督は『そして父になる』以来、2度目のタッグとなる是枝裕和。是枝監督の新境地となる本作で、福山が見たものとは何か――? 『メンズジョーカー11月号』に掲載中のインタビューについて、スペースの都合で割愛せざるをえなかった内容を加えた完全版を、前・後編に分けてお送りします!
――監督いわく、前回、何かを見つめているときの福山さんの表情に強さを感じ、「そんな福山さんを、役所さんの力を借りてどう揺さぶっていくか、どういじめていくかが今回のコンセプトです(笑)」と。
変な表現ですが、心地のよいいじめられ方でした(笑)。この物語は、台本上でも映画上でも“一体、誰が殺したのか”がだんだんわからなくなっていく。いま目の前で見ている景色というものが真実だと思っていたのに、ちょっと角度を変えて見ただけで、いままでの景色が全然違って見えてくる。自分(重盛)は、これまでこんな経験をして、これが正解だと思って弁護士として生きてきたのに、その根幹の部分を後ろからいきなり膝カックンされたような(笑)。いきなり崩されて“あれ?”と、わからなくなってしまう。重盛も、また僕自身もその連続だったんですけれども、まんまと監督にしてやられた感じですね。
――ラスト、真実が何かわからないまま人が人を裁かなければ維持できない不完全なシステムのなかで暮らしていることに恐怖します。
裁判所は、真実を解明するところでも罪を裁くところでもなく、いろんな人の利害を調整する場であるという。そうでもしないと日々の膨大な案件が片付かない。多くの人間が集まり、秩序を維持して行くために自然とそうなっていったと思うのですが、ただそれによって釈然としないままに、しこりが残ることや精神的に傷が残る裁かれ方をすることも多分にあるんだろうな、そういう現実があるんだろうなと感じました。
――福山さんは、本作のメッセージは何だと思われますか?
監督はドキュメンタリーを撮られてきた方なので、法廷であるとか司法の現場で行なわれていることや、そこでの人間模様に反応したのではないでしょうか。『法廷は真実を解明する場ではない』と口を揃える現場のさまに、監督の作家性が反応し、もしかして自分もいろんなものを見て見ぬふりをしていることがあるんじゃないかと。大人になると真実というものは、どこか面倒くさいものだなと実感するわけで。それは裁判になるような事件でなくとも、家族のこと、友達同士のこと、恋愛のこと…必ずしも真実を知れば全て上手く行くわけじゃない。だけど、当事者である自分はその真実からは逃げられない。だから人は真実から目を背けて生きているんじゃないか?そうしないと生きていけないのではないか?という問いかけを、この映画でご自身に対してもしているのかもしれません。
あくまで僕の推測ですが(笑)。
――近年福山さんは、初主演映画『容疑者Xの献身』(’08年)以降、『真夏の方程式』(’13年)、『そして父になる』(’13年)、初の汚れ役に挑んだ『SCOOP!』(’16年)とコンスタントに出演。来年にはジョン・ウー監督の『追捕 MANHUNT(原題)』が公開されるなど、非常に楽しみです。
ジョン・ウー監督の現場は、例のあの鳩が出てきまして。あれは、本当にうれしかったです(笑)。
――ジョン・ウーは、かつて「スーパードライ」のCMでも演出を。ちょっと話は変わりますが、記憶に新しいジョニー・デップとの共演はいかがでしたか?
もちろん、うれしかったですし、ジョニーさん、本当にいい人でしたよ。フレンドリーで、その場にいた人みんなとハグ、シェイクハンド、スマホでツーショットを撮ってくれるようなサービス精神のある方で。
――CMのラストでジョニーが言う英語のセリフ。テレビではちょっと聞き取りづらいのですが、あれは何と?
カットがかかったあとに「Big respect brother!」と言ってくれていまして。それで「おせじでもいいから、そう言ってくださったので使ってください」って提案してみたんですが(笑)、使われてよかったです。
――では、ここで福山さんから『メンズジョーカー』の読者にメッセージをお願いします。読者層は30代が中心。仕事にプライベートと、もっとも盛んな時期ですが、ご自身を鑑みて、今の30代に何かアドバイスなどありますか?
分かれ目の年代であるのは確かでしょうね。もちろん、どの年代にも潮目というのはあるんでしょうが、30代というのは…特に男は上司に対しても部下に対しても任さられること、そして決断することも増えてくる年代で、で、さらに上からも下からも試される(笑)。上からは「使えるやつなのか、使えないやつなのか」を見定められ、下からは「頼りになるのか、ならないのか」を常に見られている。矢面に立たされ、ときに責任を擦り付けられたりとか。僕は組織人ではないので、周りの30代を見ていての話ですけど(笑)。そのなかで、何をもって勝ち残るということになるのか。業績を上げるのか、上司にとって使いやすい部下になり気に入られるのか、それとも、会社という枠組みを出て、もっと広い意味で社会に貢献できる人間になるのか。さまざまな選択肢があると思うんですけど、その後の人生を決めるような、最初の分かれ目であると思います。だからと言って、どうすればいいというアドバイスはないんですが(笑)、確実にその第一歩ではあると思います。大胆に、そして慎重に生きてください。
『三度目の殺人』
監督・脚本・編集:是枝裕和
出演:福山雅治、広瀬すず/役所広司ほか。
9月9日[土]より全国ロードショー
(C)2017フジテレビジョン アミューズ ギャガ
Photo:TAKEMI YABUKI[W]
Styling:HIROMI SHINTANI[Bipost]
Hair&Make:TOMITA SATO
Interview & Text:TATSUNORI HASHIMOTO