2000年にデザイナーの日高久代氏とパタンナーの宮原秀晃氏によって設立された〈Scye(=サイ)〉。19世紀のエドワーディアンスタイルにみられる、英国式のテーラリングをベースに、クラシックとモダンが融合した新しいスタイルを提案。カッティングや内部構造にまで配慮した、アナトミカル服作りから生まれる質の高いリアルクローズはファッション業界にも根強いファンが多い。そんなブランドが今年で17年を迎え、初の旗艦店〈サイ マーカンタイル〉をオープン。これを期に、改めて現在までの軌跡と新店の解剖を含めたこれからの展開をパタンナーの宮原氏に聞いてみた。
Photo/TAKEHIRO HAYAKAWA INTERVIEW/TAKUYA KUROSAWA
――なぜ店名を〈サイ マーカンタイル〉にしたのですか? 由来を伺いたいのですが…
宮原氏 まず単純にブランド名だけのショップ名は避けたいというのが僕の中にあって、なんとなく屋号みたいな名前にできたらなと。で、あれこれ考えた末に「商売」とか「取引所」を意味する「マーカンタイル」っていう言葉がいいんじゃないかなと。あまり聞かない言葉だとは思いますが、海外では実はマーカンタイルを使ったショップ名もけっこうあるんですよね。あとは昔でいう“サイ商店”みたいなイメージでお店ができればいいなという想いも込めてこの名前にしました。
――内装は〈ワンダーウォール〉の片山正通氏に設計していただいたとかで…
宮原氏 はい、もう知り合って10年ぐらいの仲で親しくさせていただいています。前から、僕がお店を開くときは「俺がやるから」って言ってくれていて。実際この物件の内見も一緒に行って、ここいいよっていう片山さんの後押しもあって決めました。〈ワンダーウォール〉の事務所も千駄ヶ谷だし「近いからいいじゃん!」って(笑)。それに大きな通りに面した一等地とかじゃはなく、こういった一本入った立地も僕ららしいよなって思いますね。
――お店のデザインはどのように決めたのですか?
宮原氏 この名前を決める際に調べた「マーカンタイル」に関するの昔の資料を見ると、大きなカウンターとその後ろにストックがずらっと並んでいる風景があって、それをソースにしつつ片山さんに相談した感じですね。あとはとにかく何かにカテゴライズされたデザインにしたくなくて。例えばブルックリン風とか。そういったものだと時代や流行によってすぐに古いデザインになってしまうので。
――ブランドのイメージと比べると少し意外なデザインと思ったのですが…
宮原氏 多分みなさんはScye〈サイ〉のお店ってもっとクラシックなデザインを想像していたかと思うんですよね。至る所にアンティークの什器がある古い内装みたいな。そういった、ブランドについているクラシックなイメージを少し変えたいところもあって、今回はちょっとモダンなデザインも取り入れています。新しいんだけど、どこか懐かしさもあるといったモダンクラシックな佇まいに仕上げたつもりです。
――お店の中でも特にお気に入りの箇所があったら教えてください
宮原氏 地味なのですが床です(笑)。「テラゾー」っていう、天然の大理石などを粉砕してセメントや樹脂で固めた人造大理石で、昔のマーカンタイルや役所、学校などで使われていたものなんです。ただ今ではこれを大きなサイズで作れる職人さんがけっこう少ないという現状だったので、一面大きな床ではなく、縦横120㎝のパーツで作ってもらいました。ちなみにそれでも重さは一枚につき120キロあるんです! いったいこのお店は「合計何トンの床で出来ているんだよ!」って感じですけど(笑)。色や質感は片山さんと相談しつつ最終的にこのグレーテイストになりました。
――店名と同じ〈マーカンタイル〉というラインナップが新たに増えたとのことですが?
宮原氏 はい、特徴は「ジェンダーレス」というところですね。今まではメンズとレディスで分けていたのですが、マーカンタイルコレクションではそういった男女の区切りを設けない32〜42までの6サイズ展開にしています。というのも、お客様の中には男性でも小柄な方、女性でも大柄な方がいらっしゃると思うんです。だからといって例えば小柄な男性の方にレディスアイテムを勧めるのはお客様の立場としても、僕らの立場としてもあまり気持ちの良いことではないかなと思ったんですよね。もちろん体型というかサイズ的には着られるけど、異性の服を着るってことに対して気分を害する方もいらっしゃると思いますし。そんなこともあって、このラインを新しく立ち上げた時にサイズ展開を幅広くしたんですよね。これによって少しでもお客様が気持ち良く買い物をしていただければ嬉しいですね。
――ちなみに今後の展開として何か考えていることなどありますか?
宮原氏 まだオープンしたばかりで具体的ではないですが、店舗は増やしていけたらいいなと思っています。あと小さなところでいうと、千駄ヶ谷の店のエントランスをフリースペースとして使って、色々な催しができたらなと考えています。例えばコーヒーショップや花屋などを期間限定で行なうとか。スタイリストさんたちのフリーマーケットでもいいですし。スケジュールをびっちり決めることなくその都度タイミングで面白いおもてなしができたらいいかなと思っています。前にビームスとのコラボで行なった〈ダサイ〉のアイテムじゃないですけど、自由でユニークな仕掛けも自分は好きなので。基本的なものづくりに対しての姿勢は変えずに真面目なものづくりを続けながらも、ユーモアも忘れずにいたいですね。あ、タコ焼き屋もアリですね(笑)。
――それ面白そうですね(笑)これからの展開を期待しております!
SCYE MERCANTILE(サイ マーカンタイル)
住所:東京都渋谷区千駄ヶ谷3-54-13
TEL:03-5414-3531
営業時間:12:00~20:00
定休日:火、水