日本でも高い人気を博している英国発女性ポスト・パンク・バンド、サヴェージズのベーシストとして知られるエイス・ハッサンと、ケンドラ・フロストにより結成されたツイン・ベース体制というユニークなバンド、カイト・ベース。トレント・レズナー(ナイン・インチ・ネイルズ)がSNS上で絶賛コメントを投稿、さらに今年の英国の老舗フェスであるグラストンベリーに登場するなどし、大きな話題をさらっている彼女たちへのスペシャル・インタビューが実現!
──まずは、カイト・ベースが結成することになった経緯を教えてください。
エイス:私たちの音楽への愛とベースへの情熱が、引き合わせたと言えますね。初めて会った時から、一緒に音楽を作っていくべきだとはっきり感じたので。
──バンド名の由来は?
ケンドラ:二人で何か意味がある名前と認識しやすいロゴを探していた時、エイスが素晴らしい折り紙のドキュメンタリー動画のリンクを送ってきてくれたんです。それによれば、NASA がスペースシャトルのために設計した拡張アームに<折り紙>が応用されているということでした。<折り紙>は、アートと科学が絶妙に合わさったものだと思いましたね。そこで<折り紙>に関する用語や言い回しで、このプロジェクトの名前になりそうなものはないか?と考えていたら、ベースとなる形(基地)と折り方にはそれぞれ名前と関連するイメージがあることを知ったんです。「凧基地(Kite Base)」が目に留まったのは、その形がとても印象的で、まるで何かSFのしるしみたいと思ったのです。また、まずこのベースを折ることで、次のクリエイティブなことが始まる。つまり様々なイマジネーションの始まりを象徴している、というアイデアがとても気に入ったんです。それは、今後私たちがこのプロジェクトを通して挑戦しようとしていることの象徴としてもぴったりでした。私たちは美しくて、風通しのいい自由なイメージをこのバンドに抱いていたので。
──ベースの音色はもちろん、シンセサイザーやコーラスなど、様々な音の要素を丁寧にコラージュしているような楽曲世界になっている気がしました。サヴェージズとの音の作り方の違いは?このバンドで表現したい音とは?
エイス:サヴェージズと、曲作りのプロセスはまったく違います。サヴェージズは、生のドラムやギターも含めた4名でのプロジェクト。それに比べてカイト・ベースは2人だけだし、アナログのドラムマシーンにギターレスだから。ドラムマシーンの場合は、生のドラムと違ってやり直ししたり、追加したりと、徹底的に自分たちの理想に近い音へ追い込むことができるので、プレイの仕方そのものも違ってくると思います。
──昨年夏には、ナイン・インチ・ネイルズの「Something I Can Never Have」のカバーを公開し、フロントマンであるトレント・レズナーからも絶賛のコメントが投稿されるなど、話題になりました。なぜ、この曲のカバーを? またトレントから反応があった率直な感想はありますか?
ケンドラ:ナイン・インチ・ネイルズは、私たちが尊敬するバンドのひとつ。だからトレント・レズナーから反響をもらえるなんて、言葉にならないくらい嬉しかったですね。とても光栄に思っています。
エイス:あれは、本当に特別な瞬間だった。私たちの解釈でカバーした楽曲をトレントが喜んでくれるなんて。忘れがたい出来事でしたね。
──そして、このたび初アルバム『レイテント・ウィスパーズ』が日本でもリリースされました。このアルバムは、どんなコンセプトや思いのこもった内容ですか?
ケンドラ:特別にインスパイアされたものはなくて、真っ白のキャンバスから全てを作り上げたアルバム。まったくの自由と混乱が同時にある作品、と言えますね。通常のバンドのやり方とは異なる手法で音を作ってみたかったんです。そこで、私たちは自分たちの直感を信じることを選びました。それは、自分の感性の最も深い部分にある力を溜めるプロセスにもなり、それを信じることができたのです。この過程が、歌詞や音、曲の構成に大きな影響を与えたというか、アルバムに大きな物語を形成してくれたと思いますね。
──アルバム収録曲について、いくつか教えてください。まずは「Soothe」について。アルバムの中でも、ダンサブルな仕上がりになっていると思いましたが、この曲はどんな思いを込めて制作しているのでしょうか?
ケンドラ:この曲は、不眠症とそれと戦おうとすることについて描きました。少しダークなサウンドにしたかったので、歌詞に整合性を持たせず、雰囲気を醸し出すようにしたかったんです。
──「Dadum」は、とてもヴォーカルが美しくミステリアスな雰囲気を放っている楽曲ですが、どんなイメージを表現したのでしょうか?
ケンドラ:ありがとうございます。実際にこの曲は、そうしたいと思って作ったんです。でも自分の思い描いたアイデアを共有することには慎重でいたい。人それぞれの感性で聴き取ってもらうことが重要だと思っています。これは、本を読むことにも似ていて、具体的に登場人物のイメージがあり、その本が原作の映画を見たときに、それが自分のイメージにぴったりで驚くようなこともあれば、それが全くがっかりで自分の原作のイメージを損なってしまうような場合もあると思います。そういったところを楽しんでもらいたいから、こちらからはあまりイメージを提示したくはなくて。
──なるほど。理解できますね。では、アルバムの中で、最もカイト・ベースらしさを感じてもらえる1曲を教えてください。
エイス:アルバム全体が私たちのサウンドを体現していると思います。ただ、アングルにそれぞれ違いはありますが。
──アルバム1枚を制作してみて、新しいアイデアは浮かびましたか?
ケンドラ:自分たちだけでアルバム1枚を完成できたことで、いろんなことを乗り越えられる術を得られたような気がします。次の作品では、さらに成長した姿をお聴かせすることができると思いますよ。
エイス:そう。次のアルバムは、さらに進化した姿をお聴かせできると思います。これから経験することを楽しみながら、新しい表現方法やエモーションを取り入れられたら、と思っています。
──最後に日本のリスナーへ、アルバムの聴きどころや、メッセージをいただけますか。
ケンドラ:<折り紙>が始まった時、素晴らしく新たな創造の旅が始まったのです。それは、科学とアートの完璧なバランスで、自分が作りたいもの、美しさ、楽しさ、技術を様々に実現することが出来ます。私たちの<折り紙>の旅は音楽に進化し、そしてカイト・ベースという唯一無二の表現方法になりました。ぜひ皆さんに私たちの<折り紙>を楽しんでもらいたいと思っています。
【PROFILE】
エイス・ハッサン、ケンドラ・フロストからなるバンド。2015年にシングル「Dadum」を発表したことをきっかけに、本格活動を開始。エイスはサヴェージズを続けながら、精力的にライヴや楽曲制作をおこない、17年6月にデビュー・アルバム『レイテント・ウィスパーズ』を日本リリースした。
【ALBUM】
『レイテント・ウィスパーズ』
MAGNIPH/Hostess
発売中
2400円
http://hostess.co.jp/artists/kitebase/
Text:TAKAHISA MATSUNAGA