2017.10.09 Mon UPDATE CULTURE

えっ、iTunesが決めるんですか? ザ・クロマニヨンズ NEWアルバム緊急インタビュー

ニューアルバム『ラッキー&ヘブン』をリリースした ザ・クロマニヨンズの甲本ヒロト&真島昌利に思う存分語って頂きました


 
どの曲も問答無用にカッコいい。そして時に、超バカバカしくて面白い! 約1年ぶりとなるニューアルバム『ラッキー&ヘブン』をリリースしたザ・クロマニヨンズの甲本ヒロト&真島昌利にインタビューを敢行。アルバムのこと、ツアーのこと、好きなレコードのことを存分に語ってもらった。
 
 

今も「レコードを作ろう」って言ってアルバムを作っています

――今回のアルバムもレコードをまず作った後、そのレコードに針を落として、その音をCDにする……という順番で制作したんですか?

真島 そうですね。

――そういうアルバムの作り方をしているミュージシャンって、ほとんどいないのではないでしょうか。

甲本 アルバムを発表するとき、「レコードを作るんだ」っていう意識のバンドは少ないと思う。「CDを作ろう」になっちゃっていると思います。それはそれでいいんだけど、僕らはいまだに「レコードを作ろう」って言って作っています。

――じゃあA面とB面の切り替えとか、合計の分数もレコードを前提に考えているんですね。

甲本 もちろんです。物理的に分数も決まっちゃってるから。僕らが決めた分数じゃないんです。

――今回のアルバムはカッコいい曲が沢山ありましたが、まず『足のはやい無口な女子』という曲のタイトルと歌詞がとても面白かったです(笑)。この曲の作詞・作曲はマーシーさんですが、同級生に『足のはやい無口な女子』は実際いたんですか?

真島 いやあ。足のはやい子もいたし、無口な子もいたし。あと歌詞にあった、夏休みに引っ越していっちゃった子もいたなあ。

――それぞれの女の子の要素を組み合わせた歌詞だったんですね。でも、この記事の編集者の同級生には、実際に「足のはやい無口な女子」がいたらしくて。

甲本 ホントにいたんだ(笑)。

――はい。足が速くて無口な女子だったんです。で、35年ぶりに同窓会で会って。

甲本 おおっ!

――そしたら、その子は全然キャラが変わってて、仕切り屋タイプの女子になっていました。

真島 無口じゃなくなっちゃったんだ(笑)。

甲本 彼女にとっては、それでよかったんじゃないですか。どっかでデビューしたんでしょうね。

――この曲の続編があるとしたら、そういう歌詞にしてください!

甲本 いろんなエンディングがあってもいいかもね(笑)。

――あとこの曲は、『足がはやい無口な女子』っていうタイトルなのに、曲のテンポは遅いし、ムードも不穏な感じですよね。曲と歌詞はどっちが先にできたんですか?

真島 どっちだったかなぁ。どっちが先というより、フレーズもメロディと一緒に頭の中で鳴っていた感じですね。曲を作るときは、曲が先に出てくるときもあるし、歌詞の断片がピョンと出てくるときもあるし、もう歌として出来上がったものが出てくることもあったり。いろいろです。
 

鼻歌を歌っていて、「この歌、何だったっけなあ。あ、新曲だ!」みたいな。

――『ハッセンハッピャク』という曲も、カッコイイうえに面白くて。ひたすら数字を連呼する曲ですけど、8800っていうのは何の数字なんですか?

甲本 いやあ、よく分かんないです(笑)。

――でも、「単純に叫んでいて気持ちいい数字なんだろうな」というのは伝わってきました。

甲本 そうそうそう。それが一番かな。だいたい曲ができる時って、ほんとにデタラメな思いつきだったりするから。

――振り返って「こうやって曲を作った」と説明できるものではないと。

甲本 「曲を作ろう!」と思って作った曲とか、あんまないんですよ。たとえば、散歩の途中に鼻歌を歌っていて、「この歌、何だったっけなあ。あ、新曲だ!」みたいな。ホントにそんな感じです。すでに自然に歌っちゃっていたわけだから、「どうやってできたのか」は分からないんですよね。でも「ちいちいぱっぱ~ちいぱっぱ~」と歌ってて、「何だっけこれ。あ、『すずめの学校』だ!」ってときもある。

――普通に実在する曲を歌ってるときもあるんですね(笑)。

甲本 あるある。だから「ハッセンハッピャク!」って言葉を何か口に出してみて、「何だっけこの数字? でもいいじゃん。これ、みんなでやったら楽しいだろうな」みたいになることもあるし。そんな感じです。

――しかしこの曲、「いま何時?」って歌い出しに対して、「ハッセンハッピャク!」って合いの手でコーラスが入るのが可笑しいですよね。

甲本 そう笑ってもらえたら本意です(笑)。

――ライブでも、みんな笑顔で数字を叫ぶ曲になるんだろうなと思いました。
 

 

われわれはもう5~6分も考えると、「すげえ頑張った!」っていう思い出になっちゃう

――今回のアルバムでは、『盆踊り』って曲も楽しいですよね。マーシーさんは盆踊りは好きなんですか?

真島 盆踊り好きですよ。ええ。

――歌詞も盆踊りのことをちゃんと描いてますよね。

真島 うん。そのまんまですね(笑)。

――この曲にはドンドンとかタカタッタという太鼓の音が聞こえますが、実際にレコーディングに太鼓を持ち込んだんですか?

真島 どっかから借りてきたのか分かんないけど、カツジ(ドラムの桐田勝治)が大太鼓を持ってきたんですよ。実際それを叩いてね。

甲本 でも収録はダビングですね。太鼓の音は一発撮りの時には鳴らしていないです。

――太鼓の音が自分たちの曲に入るのはどうでしたか?

真島 うん。面白かったです。でもね、撮り方が難しかったなあ。やっぱりエレキ楽器と交じっちゃうと、太鼓みたいな生の音って、あまり立ってこないんですよ。だから「ああでもない、こうでもない」といろいろ考えて録りました。

甲本 マイクをどこに立てようかとか、何メートル離そうかとかね。その音が「ドン」なのか「ドオーン」なのか、場所によって変わってくるんです。まあ、苦労して考えたっていっても、5~6分ですけどね(笑)。

――意外と短いですね(笑)

甲本 そうそうそう。われわれはもう5~6分も考えると、「すげえ頑張った!」っていう思い出になっちゃうんです。
 

 

歌詞の時系列や整合性がムチャクチャでも歌だからそれでいいし、直さない

――『嗚呼!もう夏は!』は、タイトル通り夏の曲ですけど、“サマーチューン”的な爽やかな感じではなく、夏の郷愁を感じる曲ですよね。「昼メロの主人公は大げさに泣いてた」とか。

甲本 夏休みぐらいしか見ることないですからね、昼メロ。

――あと「ガリ版刷り」っていうのが懐かしいなと。

甲本 ねえ、ガリ版刷り。

真島 鉄筆ね!

――間違えたときに修正するのが大変なんですよね。

甲本 学級新聞とかねぇ。

――でも手書きの味はありましたよね。

甲本 あのガリ版刷りの機材自体、手に入らないのかなあ。この歌を作ってるときは、別に何とも思わなかったけど、今何となくガリ版刷り見たくなっちゃった。

――今はガリ版刷りがなくなったどころか、小学校にPepper君がいる時代ですからね。職員室に6台ぐらい待機しているところもあるみたいで。

甲本 そうなんだ。そのうち、あいつらが凄いことになるぞぉ!ロボット兵団みたいなもの作って。

――人間と戦ったりしますかね?

真島 ストライキしちゃうとかね(笑)。

甲本 「ワレワレハ~」とか言いはじめてね。

――そうなったら面白いですね(笑)。あとこの曲の歌詞では、図書カードや図鑑も出てきますけど、どちらも今の子供たちにはなじみが薄いかもしれないですね。

甲本 この歌詞、時代的に「図書カードじゃなくて図書券じゃねえか?」っていう指摘もあるんですけよ。

――ガリ版刷りの時代には図書カードはないはずだと。

甲本 だから時系列としてはムチャクチャなんです。でも、歌ですから。さっきも言ったように、つらつらーっと出てきたものなので、「あれ? おかしいな。ガリ版刷りの時代は図書券だよな」とか、いちいち擦り合わせていくと面倒くさいんですよね。

――面倒くさいって理由でそのままなんですね(笑)。

甲本 うん。あと自分で気付いたんですけど、「里帰りの おじさんくれた 図書カード」って歌詞も、「里帰りっていうのは、嫁さんが実家に帰ってきたときに言うんじゃなかったっけ?」とかね。

――厳密に考えると日本語として変かもしれないですね。

甲本 うん。「ちょっとおかしいのかな」と気付いたんだけど、いいんですよ。

――いや、大丈夫です。僕も聴いてて何も気にならなかったですから(笑)。「ガリ版刷りとか懐かしいな」って思い出したくらいですから。音楽を聴いている人も、歌詞の細かな整合性とか、実は考えてないのかもしれないですね。

甲本 ですよね。
 

アルバムの曲順をどうするかはiTunesのシャッフルに決めてもらう

――あとアルバムの曲順については、みんなで話し合ったりするんですか?

甲本 話し合いは少しだけ。曲順が一番難しいよね。話し合ったり、考えたりすればするほど底無しなんです。みんながみんな違うこと言うし。

真島 そうそう。

甲本 だから、iTunesにシャッフルさせるんです。

――おお、そうなんですか!

甲本 曲が全部出来上がってから、それを入れてね。そんで偶然いいのを出してきたら、「よくやった!」って採用するんです。

――(笑)。その並びが良くなかったらどうするんですか?

甲本 もう一回やる。しかもiTunesは、「レコードのA面B面のバランスを考えて、ちょうど15分ずつくらいになるように」とか考えないで曲を並べちゃう。だから、なかなかいいのを出してくんないです。

――それはそうでしょうね(笑)。で、何回か試して。

甲本 そうですね。で、たとえば僕がその作業を引き受けた場合は、「うちのiTunesがこんなの出してきましたけど」って、みんなに聞かせる。それでみんなが「うん」って言えば、それでオーケーです。「ここ、いまいちだな」って言われりゃあ、「iTunes、何やってんだ!」って、またやり直す。

――意地でも自分では考えないんですね(笑)

甲本 でも、それはそれで何かいいんですよ。今回も、結果的にだけど、すごく良くできたと思います。

――最初の3曲に「星」や「太陽」という言葉が出てくるので、そういうことを考えて並べたのかと思っていたんですが、違ったんですね。

甲本 歌詞で曲順を考えることはあまりないですね、雰囲気でダーッと流して、ぼんやり聴いて考えますから。でも偶然なんだけど、今回はA面が『嗚呼!もう夏は!』で終わって、B面の頭が『盆踊り』で始まる。偶然にしちゃあ、出来過ぎてるっていう。

――「iTunes様ありがとう!」と。

甲本 よくやった、iTunes! でも、それも人に指摘されるまで気付かなかったんですよ。

――でも、「iTunesに曲順を決めてもらった」って秘密にしておいたら、みんな賢く見てくれるかもしれませんよ。

甲本 (笑)大丈夫です。賢いって評価はいらないので。
 

 

ツアー先でレコード屋に行くとメンバー4人が偶然集まることも

――今年も秋口から全国で58公演を行うツアーが始まりますけど、やっぱり「あの街ではあそこの店に行こう」「あのレコード屋を覗こう」とかは決めているんですか?

真島 もうだいたい決まってます。

――毎年行っているレコード屋さんもあるんですね。

真島 うんうん、そうですね。

――お店の人とも顔なじみになっていたりするんですか?

真島 そうなるお店もあるし、いろいろですね。見て見ないふりしている人もいるし(笑)。

甲本 さすがに「もう来るな!」って言われることはない。

――そりゃそうでしょうね(笑)。

甲本 どこのお店も、すごくちゃんとしているというか……。うん、優しいよ。

――ヒロトさんにとっても、ツアー先でのレコード屋巡りは1つの楽しみなんですか?

甲本 うん。楽なんですよ。オフの日とかも、「明日どうする?」なんてメンバーに言わなくても、レコード屋行きゃあ、全員に会えますからね。「何時にあの店でね」なんて言わなくても、自分の行きたい時間に行っていれば、何人かは重なって会えたりする。面白いです、その感じが。

――じゃあ偶然3人集まったり、4人集まったり。

甲本 うん。たまに4人でお店に並んでいる時とかは、ちょっと恥ずかしいけどね(笑)。

――毎年全国を回っていると、あったお店がなくなっていることも多いでしょうね。

真島 だんだん減ってきていますよね、中古レコード屋さんとか、古本屋さんとか。だから、ちょっとさみしかったりする。前から行っていた店がなくなってたりすると。

甲本 あと、今はネットで商売されている方も多いからね。

――レアなレコードもヤフオクとかで探せますからね。

甲本 でもやっぱね、レコードってモノなんですよ。データじゃないいから。モノのほうがいいなぁ。手で触って、目で見てっていう。

――クロマニヨンズは毎回ジャケットのデザインも面白いですけど、これはどうやって決めているんですか?

甲本 デザインに関しては菅谷くん(菅谷晋一氏)っていうデザイナーさんに丸投げですね。

――でも凄いですよね。毎回、いろんな裏切り方をしてくれるというか。

甲本 いろんなテイストでやってくれていますね。

真島 僕ら、ホント丸投げですからね(笑)。

――そこまで丸投げだと、出来上がったものを見るのも楽しいでしょうね。「こんなので来たか!」みたいな。

甲本 そうそうそう。「直して」ってお願いしたこともないし、全部一発オーケーです。

――それだけ毎回いいものが出来上がるというのは、お互いの信頼関係が深いからなんでしょうね。

真島 うん。菅谷くんもレコード好きだし。

甲本 だから細かい話だけど、レコードの印刷の感じとか、紙質とか、折り返しが何センチでとか、そういうことが菅谷くんなら伝わるんです。共通言語があるから。ものすごいレコードが好きな人なので、レコードのジャケットをデザインしてもらうには適任だと思うよ。
 

自分んちのレコードセットで、自分で買ってきたレコードをかけたときの、あのサウンドでしか伝わらないものもある

――アルバムの資料のレコードに関する部分では、「’60年代フリップバックE式盤を可能な限り再現」と書いてありましたが、それ以降はレコードのジャケットも少し変わっちゃうんですね。

甲本 うん。あと、中の袋もちゃんとこだわっています。(’60年代フリップバックE式盤を再現したレコードを見て)うん、やっぱりいいなぁ……。

――最近はレコードやカセットも若い人の間でブームになっていますよね。この現象は嬉しいですよね?

甲本 うん。レコードでしか伝わらないものもあると思うんです。もちろんCDでも配信でも十分楽しんでもらえるんだけれども、自分んちのレコードセットで、自分で買ってきたレコードをかけた時の、あのサウンドでしか伝わらないものもある。で、それを知ってもらえたら、音楽好きが増えると思う。それは、すげえいいと思う。

――単に「レコードの音がいい」というだけじゃなく、その体験を通じて音楽を好きになるというか。

甲本 そうそう。でも僕は、レコードの音もいいと思う。雰囲気とかを外して音だけ聞いても、やっぱりレコードの音、いいなあと思うなあ。

――ザ・クロマニヨンズの作品をきっかけに、レコードを聴く人が増えたらいいですね。最後に、この先のツアーについて意気込みを聞かせてください。

甲本 ライブは出たとこ勝負なんですけど、全力で立ち向かいます。「全力でやったらどうなるかなあ」っていうのを、楽しみにしていただけたらと。はい。
 
 
 
 
CHECK! NEW ALBUM

『ラッキー&ヘブン』


Ariola Japan/3146円(CD)、3146円(LP)
10月11日発売
 
約1年ぶり11枚目のアルバム。甲本ヒロトと真島昌利が6曲ずつ作詞・作曲し、8月30日発表のシングル『どん底』など計12曲を収録。CDは初回仕様分まで紙ジャケット仕様。’60年代フリップバックE式盤を可能な限り再現した完全生産限定アナログ盤もあり。
 
 
<ザ・クロマニヨンズ プロフィール>
2006年7月23日13時41分に出現。出現メンバーは甲本ヒロト(Vo.)、真島昌利(G.)、小林勝(B.)桐田勝治(Dr)の4人で結成。10月26日より全国ツアー「ザ・クロマニヨンズ ツアー ラッキー&ヘブン 2017-2018」開催決定(全58公演)。
http://www.cro-magnons.net/
 
 
 
Photo:MUTSUHIRO YUKUTAKE(s-14)
Text:SEIICHIRO FURUSAWA

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