2017.10.27 Fri UPDATE CULTURE

主演ドラマは“セックス依存症”がテーマ!「玉山鉄二」ロングインタビュー

誰もが驚き、そして玉山鉄二の新しい可能性を見たに違いない。秋よりHuluにて配信されているオリジナル連続ドラマ『雨が降ると君は優しい』。『高校教師』や『未成年』など数多の作品で社会問題を取り上げてきた脚本家・野島伸司が“セックス依存症(性嗜好障害)”を題材に夫婦の悲劇的純愛を描く本作で、一途であるがゆえに悩める夫を、センシティブかつ、ときに狂気をはらんだ芝居で見せてくれた。

 

――今日スタジオに来る途中、“巻き”(スケジュールが前倒しになる)の連絡が入ったので慌てて駆け付けたのですが、ここ数年、ますます撮影が早く終わるようになっていませんか?

もともと「奇跡」を撮るのは好きじゃないんです。こういう画(え)を撮りたい、お芝居をしたい。ある明確なポイントをいくつか持って、そこに向かっていくプロセスが大事だし、僕もそれが好きなので。とりあえず何パターンか撮って、たまたま撮れた。たまたま上手くできたものも、それはそれでいいんでしょうけど、僕は何かを掴みに行って、それにはちゃんと理由があって、それで掴めた。そっちの方が好きです。

――メンズジョーカーの表紙にご登場いただくようになって10年以上。毎回(今号の表紙にあるような)シンメトリーな構図を意識されて。そこに向かっていくから撮影も早い。

そうですね。“ジョーカーで玉山が表紙をやるときはこれ”というような画が欲しいなと。1年間買い続けてくれる方もいらっしゃるはずで、そういう方々が「またこの季節になったんだ」と思うような…まあ自己満足ではあるんですけど(笑)、せっかく何年もやらせていただいているのであれば、こちらも何かアクションしたいと思い、勝手ながら毎回やらせていただいています。

――弊誌のためにわざわざディレクションしていただきありがとうございます。

先ほどの“巻き”の話で言えば、無駄なところ…昔は「この穴を掘ったら何かあるかもしれない」と、闇雲に掘り続けていたかもしれませんが、ここ最近は掘っても何もないところは掘らない。その分別もできるようになったこともあります。それは失敗も含めた経験であり――なんて言いつつ、まだまだ全然、足りてないですけどね。

――今年は『犯罪症候群』(東海テレビ×WOWOW)が放送され、Huluで配信されている『雨が降ると君は優しい』、公開中の『亜人』。毛色の違う作品で、それぞれまったく異なる役を演じていますね。

演じる側もそれぞれに楽しさがありましたし、『犯罪症候群』『雨が降ると君は優しい』『亜人』とも今の時代、厳しくなったコンプライアンス的なものを、プロデューサーや監督、関わるすべての人の情熱と尽力で可能な限りクリアにしていった作品。それを考えると、僕はすごく幸せ者で。(出演の)お話を聞いて、これは燃えざるを得ないでしょうと。

――『犯罪症候群』『雨が降ると君は優しい』は、ともに既婚者の役。ご自身も家族を持たれたためか、それまで以上の深みを表現できるようになったように思います。

すごく重い作品が続いたので、精神的にしんどくはありましたけど(笑)。ただ、どちらも苦悩する役で、昔の自分であればその苦しみ方の表現ひとつ取っても、似たような芝居になっていたかも知れない。それが違うお芝居で表現できた。自分なりにですが、日々精進できていることを実感できました。もちろん、そうした表現ができたのは、家族の存在が大きいです。大げさだけど、独身のときと見える景色が変わりました。『雨が降ると君は優しい』の信夫という役にしても、これまでの自分なら考え過ぎてパンクしそうになったはず。もともと僕は器用な俳優ではないから、やり過ぎたり、やらなさ過ぎたり。脚本を担当された野島(伸司)さんの本意ではない芝居をしていたかもしれません。

――10年ほど前、野島作品(『薔薇のない花屋』)に出演した際すごく悔しい思いをしたので、撮影に入る前は怖かったそうですね。

10年で先ほど言った経験値も得て“ここでいいものができたら、また違う景色が見えるのでは…”と意気込み、ふたつ返事で飛びついてはみたものの、野島さんの台本の解釈があまりにたくさんあるため、自分の中で破たんしそうになったんです。どんなプランを想定しても、何かが違う。だから、現場に入るまで怖かった。思えば野島さんも10年で進化されているわけで、当たり前のことなんですけど。

――夫の愛情を一身に感じながら、“まぶしく晴れた日”には抵抗しがたい衝動から不特定多数の男性と肉体関係を持ってしまう彩(佐々木希)と、妻の病気を知り、苦悩する信夫(玉山)の、愛の物語。野島さんいわく“一途な愛”というテーマに向かい、昔で言うジェットコースタームービーさながらの怒とうの展開に驚きます。

撮影が進むうちに、感情が入り乱れたときの人間は“本当はこういう表情をするのかな”“むしろ普段とは逆の表情をしたり、態度をとったりするかも”ということが少しずつわかってきたんです。こうしたエッジィの効いた作風、登場人物である場合、自分もエッジィなお芝居をしてしまいがちだったところ、抑えられる勇気も持てた。これくらいで野島脚本のすべてを理解できたとは思わないけど、僕にとっては大きな収穫でしたね。サスペンスフルな展開なのに、ファンタジーの要素もある。その相反するものが同じ物語のなかで共存することは可能なんだと知れたことも収穫のひとつ。それでいて“一途な愛”というテーマにちゃんと帰着するのだから、やはり野島さんはすごい脚本家だと思いました。

――テーマである、一途な愛。これも若いときと受け取り方が違ってきたんじゃないですか?

撮影前に野島さんから映画『ベティ・ブルー 愛と激情の日々』(’87年)を勧められたのですが、あそこに出てくるベティって、簡単に言うと面倒臭いじゃないですか? とりわけ日本人の男性には、どうしていいかわからなくなる。

――山小屋で暮らす中年男が行き場のない少女と出会い、愛し合う。でも、やがてベティのストレート過ぎるほどの感情表現はエスカレートして行き…という。

それが、いま観直してみると、その面倒くささが愛おしく見えてきたんです。日本では歌でも映画でも、恋だ愛だって声高に叫んでいるのに、日常で恋とは、愛とは、と真顔で話す人はいない。どちらかといえば、恥ずかしがっちゃうじゃないですか。それを取っ払う作業が『雨が降ると君は優しい』では必要だったんだなと、野島さんのメッセージを理解して。僕が結婚して、子どもをもうけて、多少は懐の深さみたいなものも出てきたからかもしれませんが、昔観た時の印象とは全然、違いました。

――ある種の狂気にも近い愛情と一途な愛は紙一重だと、『雨が降ると君は優しい』を観て思いました。

女性がこのドラマを観ると、非常に共感できるみたいです。さっきも言ったように最初、自分の脚本の読み方は違うんじゃないかと不安になったので妻に読んでもらったんですけど、スッと入ってきているんですよ。だから日本の男性には変なフィルターみたいなものがあるんだなと。昔の男尊女卑のなごりだか何だかわからないけど、恋愛や愛というものに対して、いまだに壁を持っているんじゃないかと思って。

――男性にもぜひ、観てもらいたいですよね。

ジョーカーの読者もそうだと思うけど、30歳も過ぎて結婚もして、男同士が飲み屋で愛だ恋だと話をしているとダサいみたいな風潮がありますよね。「いまも奥さんのことを愛してるって? いい歳して何言ってんだ、お前」って。でも、女性には愛情をもっと素直に表現しなきゃいけないんだなと思い直したんです。だから、これを読んだ読者も、家に帰る途中にでも『雨が降ると君は優しい』をご覧いただいて。帰宅したら奥さんや彼女に言った方がいいです。「愛してる」って(笑)。

――そんな女性の思いを汲んで書ける野島伸司という脚本家の技量がすごいですよね。

愛情もそうだし、怒りや悲しみ、妬みや恨み…人間が持つありとあらゆる感情が交錯している。そういう脚本の中で、役として生きることに没頭できた撮影期間の2ヵ月は本当に貴重な時間でした。机上でのイメージや意図なんてたかが知れている。この年齢でそう思えたことも今後お芝居をしていく上で大きな経験。野島さんの脚本に負けない、人間としての深みが出るように、普段から精進しなきゃと。

――とはいえですね、CS放送では時々『BOSS』の再放送が流れていて。10数年間近で見て来た者としては、あのころの玉山さんを懐かしく思う自分もいたり。

「あれもしたい、これも試したい」っていう、若さゆえの意気込みが全面に出ていますよね(笑)。ああいうしゃかりきな自分を懐かしく思いますし、嫌いじゃないです。ただ『マッサン』(NHK連続テレビ小説)以降すいぶん意識が変わって。まずは作品ありき。自分はそこに歯車として組み込まれ、ギアの役割ができればいいと思うようになった。今はあくまで“作品の一部”でありたいです。『亜人』でも原作の人気キャラクターを演じさせてもらいましたが、コミックに寄せつつも、寄せすぎもせず。監督の描く“映画『亜人』”のキャラとして芝居したつもり。『雨が降ると君は優しい』とともにチャレンジングかつ、スタッフの気概を感じられる作品ですので、多くの方にご覧いただきたいですね。

――なんと言いますか、がむしゃらでハジけた玉山さんも見てみたい(笑)。『亜人』のようなクールな悪役ももっと観てみたいです。

『亜人』はエンタメに徹して、僕としても久しぶりに遊んで…というと語弊がありますが、キャラをまっとうしながらも、その中で楽しんでお芝居できた作品。(『亜人』で主人公を演じた)佐藤 健くんのようなアクションは年齢的になかなか難しくなってきたけど(笑)、僕としてはどんな役でも演じたい。ハジけるところはハジけますし、ヒール(悪役)もとことんやってみたいです。振り幅の大きな役をやるというのは役者の醍醐味のひとつなので、ますます精進していきたいと思います。

 

◆Huluオリジナルドラマ『雨が降ると君は優しい』
脚本:野島伸司
出演:玉山鉄二、佐々木希、木村多江、陣内孝則ほか。
全8話を配信中!

 

Interview&Text:TATSUNORI HASHIMOTO
Photo:KAZUTAKA NAKAMURA[makiura office]
Styling:YOSHIO HAKAMADA[juice]
Hair&Make:TAKE[3rd]

 

 

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