ライヴでは圧倒的なオーラを放ち、耳に残るポップ性のあるサウンドを展開。その妖艶なサウンド世界で、話題を呼んでいる福岡発の4人組、ポルカドットスティングレイ。彼らのメジャー第一弾となる初フルアルバム『全知全能』が完成した。天才気質が伝わるサウンドであるが、その奥には彼らの緻密な戦略が隠されていた!その真意を、中心人物である雫(Vo. & Gt.)に直撃。
──メジャー進出する前から、ミュージック・ビデオが話題になり、ライヴのチケットはソールドアウトが続出するなど、すでに注目を集める存在になっていますね。今の状況についてどう感じていますか?
私たちというか、私は流行を作りたくて。たくさんの人の心を動かせるものを作りたいということを考えていて、そのメインの手段が音楽なんです。私が使えうる手法をすべて用いて、多くの人の心を動かせるのであれば、どんなことでもするという気持ちですね。
──雫さんは、バンド活動と並行してゲーム・クリエイターとしても活躍されていますね。
ゲームと音楽は、基本的に同じ感覚で作っているんですけど、(ターゲットになる)お客さんの層が違うから、そこを意識するくらいですね。基本的には、マーケティングをして、お客さんにそれを届けて、いただいた反響を元に、改善していくというルーティーンは一緒です。
──マーケティングをして、作品を発表されているとは驚きです。
ゲームの仕事を始めてから、そういうことを勉強し始めたので、そこは音楽にも役立っていますね。
──ライヴハウスやロックフェスに頻繁に行くようなリスナーからの反響が圧倒的に多い印象ですけど、そこもある意味狙い通りだったんですね。
これまではそうでしたね。まず音楽のアンテナを鋭く張っている人たちに、認めてもらえるようなクオリティのものを出さなくては、という気持ちでアプローチしてきました。でも、メジャーに進出した現段階では、普段ライヴハウスなどに行かない人でも盛り上がれるとか、要はライトなリスナーの方たちのペースでも楽しめるようなイメージで、わかりやすい音を意識するようにもなってきました。
──そうなんですね。
元々、ライトな音楽を作りたくて結成したバンドなので。よりたくさんのお客さんに届いて認知してもらえるような、バンドという枠にとらわれない国民的グループになりたいという目標があるんです。それに向けて、今までずっと準備してきた感じ。ここ(メジャー進出)でようやく環境が整って、本当のスタートラインに立てたような。目標に向かいやすくなった状態ですね。
──インディーズ時代の音は、ひとつの通過点だったと。
インディーズは、私たちのことを知ってもらう、バズるきっかけ作りをずっと探し続けてきた時代ですね。自分たちが本当に作りたい音とか、そういうことは置いておいて、流行りの邦楽ロックとは何かを徹底的に研究していました。
──でも今の時代、戦略的にバズるだろうと思うものを発信しても、それを見抜かれて、なかなか思い通りの結果にならないことも多いと思います。
そうですね。だから、私たちはお客さんの声をしっかり汲み取ることを重要視しました。私、楽曲や映像を作る際には、お客さんのSNSとかを徹底的にチェックするんです。普段、どういうことに反応して、どういうものが好きなのかをしっかり見て、それを歌詞に反映させているんです。また、例えば恋愛ソングなど、自分が得意でない分野の歌詞を書くときは、お客さんに向けてどういうものを作ればいいのか?実際に聞きますから。
──常にお客さん目線なんですね。
私がアーティスト気質というか、アートに優れた才能を持っている人間だったら、その感覚で勝負していきたいところですけど、音楽知識とかまだ足りないですし、特別な才能があるなんて一度も思ったことがないんです。だから、才能のある方々と音楽シーンで対等に渡り合うためには、徹底的にマーケティングをするしかないのかなって。歌うビジネスウーマンという感じです(笑)。
──じゃあSNSとかも頻繁にチェックしているんですか?
ずーっと見ています(笑)。周囲にドン引きされるくらいチェックしていますね。特にTwitterは、敷居が低いというか。誰かと絡むことなく、自分の思ったことをストレートに発信している印象が強いので、その人のプライベートが見えてくる。また、投稿している時に、その人が聴いている楽曲も併せて投稿してくれる人もいるので、「こういう気持ちの時には、こういうタイプの曲が合うんだ」とか、色々勉強になったりしますね。
──曲に雫さんの思いは反映していないんですか?
私見はまったくないですね。他のメンバーは、曲の中に自分の個性みたいなものを入れているのかもしれないですが、私はお客さんが欲しいと思う音楽を忠実に引き出すだけです。
──でもアルバム『全知全能』に収録の「極楽灯」は、雫さんの過去の恋愛経験が反映されているようなリアルな印象がしました。
私、恋愛ソングが苦手なんですよね(笑)。また、バンドとしても普通の綺麗なバラードを作ったのは、これが初めてだったので、大丈夫かな?と恐る恐る完成させたんですよ。だから、ライヴで初披露した際には緊張していたんですけど、意外と反応が良くて嬉しかったです。
──恋愛ソングはなぜ苦手なんですか?
恋愛自体に興味がなくて(笑)。そんなことする時間があるんだったら、仕事をしていたいタイプなんです。基本的に、歌詞には自分の経験は一切反映させているつもりはないんですけど、特に恋愛ソングに関しては自分の頭の中にない概念なので。
──でも、どの楽曲も雫さんのパーソナリティ、そしてリアルに恋をしている様子が伝わると評判を呼んでいます。
お客さんに共感してほしい、その一心でひたすら歌詞を書いているだけなんです。楽曲に私を重ね合わせることで、共感の思いが強くなるのであれば、それは嬉しいですね。でも実は、私たち恋愛ソングってこれまであんまり作ってはいないんです。そうじゃない楽曲でも、恋愛ソングに聴こえるように工夫しているだけで。
──なぜですか?
聴いてくださるお客さんは、仕事、年齢、趣味、それぞれ異なると思うんです。それを超えて共感できるものといえば、やっぱり恋愛だと思う。だいたい大人になる過程の中で恋愛は経験するだろうし。
──その中でも失恋を連想させる楽曲が多いですよね。
幸せで満たされている瞬間って、それだけで十分だから音楽って必要じゃないんですよね。気を紛らわせたいと思うような出来事があった時に、音楽に浸りたいと思う人が多いと思うので。そして、失恋テイストな歌詞に、アップテンポのビートを乗せるというのが、私たちにとっての音楽黄金比になっているんです。気分は上がって、嫌なことを忘れさせてくれるんだけど、歌詞には共感できるというものを表現したいんです。
──なるほど。でも、戦略的な楽曲が多いアルバムの中で、「顔も覚えていない」は、勢いだけを感じるユーモラスな仕上がりになっていますね。
これは、ただライヴやフェスでお客さんと一緒に大騒ぎしたくて作った曲ですね(笑)。だから歌詞にもあんまり意味はないです。スタジオでほぼ即興で作った歌詞なんですけど、ある意味すごいものになったなって(笑)。
──この楽曲では、ヤバイTシャツ屋さんが「大声」でゲスト参加。
話題作りです(笑)。「ポルカ、こういう曲も作るんだ、しかもヤバT呼んで」って思ってほしくて。レコーディングでは、特に3人にオーダーすることなく、ただ叫んでもらったという感じですね。
──また、ゲストといえば「レム」には、クリープハイプの長谷川カオナシさんがバイオリンで参加。
昔からクリープハイプの大ファンで、地元のライヴハウスに来た時は、ほぼ最前列で観ていたほど。だから、彼らと同じレーベルでメジャー契約できたこと自体で感動していたのに、今回参加していただけることになって、さらに嬉しかったです。その中でカオナシさんは、ベースはもちろんピアノやバイオリンも演奏できて、さらに曲も作ることができる。万能すぎるだろ!ってことで参加していただきました(笑)。素晴らしい演奏をしていただきましたね。
──とても爽快さが溢れるキャッチーな1曲に仕上がっていると思います。また、この楽曲のミュージック・ビデオも印象的。爽やかさと同時にユーモアも感じる仕上がりですね。
これまでの作品の中で、一番クスッとさせる要素があるミュージック・ビデオに仕上がっています。また、このビデオは「ヨーグリーナ&サントリー天然水」とのコラボレーションで作ったものなんですけど、それを際立たせるためには、どのようにすればいいのか?を考えました。結果、砂漠で喉がカラカラになって、飲み物をメンバー全員で探して、夜になってようやく見つけ出したものの、ヨーグリーナを飲んだら朝に変わるという、ちょっとクレイジーなストーリーになりましたね(笑)。
──ビデオにおいても、アルバムのアートワークにも「青」が印象的に使用されていますね。ここには意味や思いがあるのですか?
今回のアルバムのテーマカラーが「青」なんです。収録曲の中にも「青」をイメージさせるフレーズが多く入っていますし。「青」って、クリアで初心を連想させる色じゃないですか。今回のアルバムで、私たちのことを初めて知っていただくお客さんに対しては、名刺がわりになるものを。また、今までを知ってくださっている方に対しても、イメージをリセットしていただき「これが新しいポルカです」というものを示したい。それを「青」というビジュアルを使い、表現したつもりです。
──だから、本作ではインディーズ時代に発表した楽曲も再レコーディングして収録したんですね。特に、CDのみに収録されている「ポルカドット・スティングレイ (全知全能 ver.)」は、アコースティックでバンドの息遣いが伝わってくるような仕上がりになっていて、印象的でした。
この楽曲は、私が初めて作ったものなんです。当時私はイギリス留学をしていて、SNSを通じてバンド・メンバーを募集していたんですけど、どういう曲を作っているのかを知ってもらうために、投稿したのがこれなんです。コード進行とか、全く知らない状況で制作していました(笑)。
──改めて、当時の楽曲と向き合ってみていかがでしたか?
今回ギターのハルシが今までとは違うコードを使った部分があるんですよね。そのおかげで、今までなんども歌ってきた楽曲なのに、メロディの印象がちょっと変わったりしました。また「テレキャスター・ストライプ (全知全能 ver.)」に関しても、最初のバージョンは多くの人に引っかかるように、当時流行の4つ打ち系のサウンドにしていたんですけど、今回は生のバンド感を重視したおかげで、私たちの勢いを感じてもらえるのかなって。
──確かに、バンド・メンバーのテクニックの巧さが、より引き出たアルバムになっていると思います。
私以外のメンバーは、そこにすごくこだわりを持っていますね。特にハルシは、レコーディング中ずーっとギターを握っていますから。私が別作業を終えても、ブースにこもっていて『まだ?』って感じでした(笑)。聴いていても何が変わったのか?よくわからない部分にまで、こだわりがあるらしくて、それが積み重なって曲が完成しているみたいです。
──でも雫さんの作るコード展開も独特なものがありますよね。
みたいですね(笑)。
──どうやって曲を作るんですか?
まずはメロディを作ってから、ギターを適当に弾いていき、不協和音にならず気持ちよく聴くことができるポイントを探しながら、制作している感じですね。それを動画に撮って、ハルシに送って最終構築してもらうという流れになります。
──理論で頭を固くさせるよりも、感覚でいいと思ったものを構築させていくやり方なんですね。
メンバー内で理論をわかっている人がひとりいたらいいと思うんです。さすがに、誰もそれを知らない状況なら、勉強しないといけないんでしょうけど。それくらいかなって。
──初のアルバム制作を通じて、得るものが色々あったのでは?
今回、バンド・サウンド以外にバイオリンやピアノなどが入ったことによって、音のスペースやバランスをより考えるようになりましたね。普通に、ドンといろんな楽器を入れてしまうと、それぞれの個性がぶつかり、喧嘩してしまう。特にギターとバイオリンは、共にハイの強いものだから、そのバランスをうまくとらないといかないといけないとか、考えることが多かったですし、それが次の作品へのアイデアにもつながったと思います。
──オーケストラとか入れてみるのも面白いかもしれないですね。
アルバムに収録されている「人魚」は、本当は金管を入れたかったんですけど、時間の都合で断念したんです。次は、そういうテイストも取り入れたいですね。
──レコーディング前にライヴで試してみるのもアリですよね。ライヴといえば、18年2月〜全国ツアー「ポルカドットスティングレイ 2018 TOUR 全知全能」も決定。
以前より規模が大きくなったツアーですね。実は、私たち小さなライヴハウスが苦手でして(笑)。メンバーの大体が小柄なので、ステージが低いとと後ろのお客さんまで姿が見えないこともあるんです。でも大きなステージだと、高さがあるので後ろでも見えやすいのかなって。また、よりやりたいことが表現しやすそう。
──確かに。
また、今回の福岡公演の会場であるDRUM LOGOSって、結成当初に参加したオーディションで落選したという、苦い思い出があって。それ以来のステージになるから、リベンジですよね(笑)。
──そこでリベンジを果たした後、バンドが目指す先は見えていますか?
2018年は、タイアップ曲をいっぱい手がけたいですね。メジャーに進出したことで、自分たちの地盤も固まってきたところがあるので、より多くの方々に触れていただけるような音楽を作りたい。
──では、年末恒例の「歌合戦」も視野に?
もちろん、声をかけていただけたら嬉しいですけど。日本武道館でワンマン公演ができるほどの実力をつけることの方が、先に実現させたい目標ですね。そこでは、いろんな技術を駆使したステージにしたい。
──同レーベルのDREAMS COME TRUEさんみたいな?
この間、ライヴを拝見させていただいたんですけど、宙吊りになったりダンサーさんを従えてのパフォーマンスなど、すべてが桁外れの驚きに溢れていて、勉強になりました。いずれは、ああいうステージを表現できるような存在になりたいですね。
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<ポルカドットスティングレイ プロフィール>
メンバーは、雫(Vo. & Gt.)、エジマハルシ(Gt.)、ウエムラユウキ(Ba.) 、ミツヤスカズマ(Dr.)。2015年に福岡にて活動開始。16年11月、初の全国流通CD『骨抜きE.P.』をリリース。17年4月発売のミニアルバム『大正義』が、アルバム週間チャートでトップ10入り、夏には各地の音楽フェスに出演し話題に。11月8日にアルバム『全知全能』でメジャーデビュー。
https://polkadotstingray-official.jimdo.com/
Interview & Text:TKAHISA MATSUNAGA