爽快な雰囲気の中にメランコリックな要素を散りばめたサウンドで注目を集めるYogee New Waves。すでにワンマン公演で、大きな会場を埋め尽くしてしまうほど人気の彼らが、メジャー進出。最新作『SPRING CAVE e.p.』を完成させた。新たなフェーズに向け歩み出した彼らの今を描いた充実作。その聴きどころを直撃した。
──すでに大きな会場でワンマンを成功させていたり、人気が定着している中で、2018年にメジャー進出を果たしました。そのことで心境に変化は?
粕谷 自分たちのなかで、インディーズからメジャーに行くことになって特に心境を意図的に切り替えることはなかったですね。純粋に、より多くの人たちに僕らの音楽を聴いていただけたらという思いはありますけど、これまで同様にいい作品を発表したいという気持ちの方が強いですね。
角舘 今まで通りのことを、より良い環境でできると思ったから、決めた訳であって。純粋に自分たちの音楽に関わる方々=仲間が増えたというか。一緒に笑い合える人が増えたという感覚が、今は強いですね。
──完成したE.P.『SPRING CAVE e.p.』は、これまでの延長線上で制作された感じ?
角舘 昨年は、竹村と上野がメンバーに正式加入したんですけど、それまでは自分以外のメンバーが別々の仕事をしながら活動をしていたんです。でも、この1年全員が同じ方向を向いていろんなことができたのが心地良くて。結果、お互いのことをよく知ることができた1年になりました。その延長線上で今回のE.P.が完成して、(聴いてみたら)こういう音になるよねという感覚はありましたね。
上野 昨年1月にバンドに加入した直後にアルバム『WAVES』の作業に取り掛かったので、お互いのことをよく知らないままスタジオに入っていた感じでした。そこから1年いろんな場所でライヴをして、お客さんの雰囲気なども掴んだり、外との関係性を踏まえた上で、今回のE.P.制作に取り組めた部分はありますね。
竹村 この1年は、4人でどういう音を表現できるのかを深く追求できました。そのおかげで誰がどういう性格なのか、それぞれがどういう音楽を表現したいのか、そこで自分は何をできるのかをゆっくり考えることができた結果、完成した作品と言えます。
──過去の作品と比べて作り方に変化があった感じですか?
粕谷 これまで発表した作品、それぞれにいい部分はあると思う反面、こういう部分を加えてもよかったと時間が経ってから感じる部分もあった。長く活動をしていると見えてくるものがあるんですよね。メンバー全員もそこを共有していて、今回はより良いものを作りたいという意識はありました。
粕谷哲司(Dr)
──共有していた改善点とは?
粕谷 音ひとつ出すにしても、角舘が出したいのはどういうイメージなのか、というところまで全員でしっかりと共有するということですね。そこで何を表現したらイメージに合うのかを、時間をかけて追求しました。
竹村 元々、意識しているのは楽曲が持つ世界観をどう増強させるか、というところなんですけど。ひとりが持ち込んだアイデアを他のメンバーとともにどう広げて行くのかを追求する作業が大切と思っていて。それが今回はより深く追求できた気がします。結果、今回はいろんな質感のある仕上がりになったと思いますね。
──インストやリミックスを含めると全6曲。最初の段階から、この構成で決まっていたのですか?
粕谷 どちらかと言えば、いろんな候補があるなかで選んだ6曲という印象が強いですね。
──タイトルを「SPRING CAVE e.p.」にした理由は?
角舘 収録曲がある程度決まったなかでタイトルも浮かんだんですけど。陽が当たらないけど、花が咲く場所があるというのが今回のテーマなんです。実際、夜作業する自分の部屋だったり、メンバー全員でスタジオの中にこもって作業をする中で、タネが生まれて楽曲という花が咲いていったものばかりであるし。また、今回は内にこもっている部分と外に開いている部分のコントラストがある楽曲群にもなっているので。
角舘健悟(Vo&G)
──確かに、自分だけの空間というケイヴ(洞窟)から抜け出して、外に一歩踏み出していく雰囲気のある構成ですよね。また冒頭に響く、カセットレコーダーを押した時の音に似たノイズも印象的。
角舘 5曲目に収録の「Summer of Love (Sinking time ver. )」は、深夜にカセットMTRを使って自分ひとりで制作したものなんですけど、そこからアイデアを得て入れたものです。カセットって自分の中では「内的」なイメージ。大勢で聴くというよりも個人で楽しむ感覚というか。インディーズっぽい印象がするんですよね。それをイントロに持ってきたんですけど。停止ボタンを押したのか再生ボタンを押しているのかは皆さんのご想像にお任せします。でも、ここにエネルギーを溜めて破裂する感じを込めたつもりではあります。
──そして、スタートする「Bluemin’ Days」。この曲にはどんな思いを込めましたか?
角舘 「僕」と「君」がいて、「君」というのは誰になるのか? というのがキーワードになっているんですけど、この楽曲ではシンプルに人間愛を歌っていますね。他の楽曲に関しても人が人を愛すること。求め・求められることを考えながら制作していた部分があります。そういった感情のキャッチボールこそが人間関係を良くする唯一のサイクルなのでは、と。
上野 この楽曲に関しては、当初から突き抜けている感じがありました。だから、そこを活かしつつも湿度を加えて直接的すぎないサウンドにしようと心がけましたね。
──何かが始まりそうな季節、希望にあふれている中にも、ふと過ぎる不安やせつなさみたいなものを感じさせる楽曲ですよね。
上野 人間と人間のコミュニケーションには、いろんなグラデーションがあると思うんです。決して100%嬉しいだけではなくて違う感情も混ざっていると。それを考えながら完成させた部分はありますね。
上野恒星(B)
角舘 楽曲に感情を入れることって、他のミュージシャンの方もやっていることだとは思うんですが、僕らはそこをより丁寧にやりたいなと思っています。また、曲タイトルの「Bluemin’」ですが、本来なら「Bloom(花が咲く)」にすべきところなんでしょうけど、精神的なブルーのムードも取り入れたくて造語的につけたものなんです。
──続く「Boyish」は、「Bluemin’ Days」とは異なる雰囲気がある1曲。
竹村 歌詞を含め、楽曲全体に青春っぽさを持っている楽曲。「Bluemin’ Days」に比べるとカラッとしたイメージのある、いい意味で対比的な1曲ですね。
竹村郁哉(G)
──「PRISM HEART」は、ちょっと懐かしい雰囲気のするシンプルなナンバーですね。
粕谷 この楽曲を角舘が「ユーミン(松任谷由実)に歌ってほしいイメージで作ったと」述べたので、制作していくうちに’70年代の荒井由実さん的なイメージが浮かんできました。そんなアプローチで完成させたものですね。個人的にユーミンの音楽が好きなので好きな方向性です。また、この楽曲には「隙間」が多くて、そこからいろんな音の「引き算・足し算」ができたことが、面白かったですね。個人的に今回の楽曲の中で一番楽しかったレコーディングだったかもしれないです。
──先ほども語られたように「Summer of Love (Sinking time ver. )」は、角舘さんひとりで制作された楽曲。
角舘 実はバンドバージョンもあったのですが、それではなく、別で収録したものなんです。基本的にビートで構成されているのですが、ジューシーで不思議な音で、そこには全ての感情がこもっているんです。自分の本質を描いた楽曲になりましたね。
──今後は、固定観念にとらわれない音楽を追求していくという思いが、この楽曲からは伝わってきましたが。
角舘 歌詞での「未知との遭遇」感を表現してみたという感じでしょうか(笑)。
──そして、ラストには「Ride on Wave [Sweet William Remix]」を収録。注目のトラックメーカー、Sweet Williamによるリメイクはいかがでしたか?
上野 原曲に対する理解度が高いなって感じましたね。楽曲を聴きこんで世界観をわかった上でリミックスしていただいたことを感じ取れる仕上がりです。僕らがやっているものとは異なる魅力を感じてもらえると思うし、このリミックスが入ることでE.P.全体が引き締まったような感じがしますね。
──この作品を携えて、間もなくツアーがスタート。今回は台湾、香港、タイとアジア圏から始まりますが。
粕谷 今回はライヴをする数、行く場所もより広くなりました。海外はメンバー全員で行く機会もそうないですし、それ以上に向こうのお客さんの反応が楽しみですね。
竹村 このE.P.で描いた世界観の大きさや、楽曲の振り幅を今度はライヴで表現する番。以前より増していろんな景色を楽しんでいただけるものになると思います。
──楽しみにしています。最後に、みなさんそれぞれに、最近心が動いた映画や書籍などがあったら教えてください。
角舘 僕は手塚治虫さんの『火の鳥』ですね。人間が人間らしいということを、丁寧に描いている作品なので。
粕谷 町田康さんの随筆の作品ですね。ニヒリズムがあるんですけど、飾らない雰囲気が伝わってくる。こういう人間でありたいと思わせる一冊。
上野 僕は映画『リトル・ダンサー』。イギリスの田舎でダンサーになることを夢見る少年の物語なんですけど、その夢に進むことへの葛藤はもちろん、他の登場人物たちの心象風景も丁寧に描かれていて面白いです。
竹村 漫画家の萩尾望都さんの作品は魅力的ですね。非日常の中の日常が丁寧に描かれていて。今のバンドの表現に通じる部分があるのかなと思いました。
PROFILE
メンバーは、角舘健悟(Vo&G)、粕谷哲司(Dr)、竹村郁哉(G)、上野恒星(B)。2013年結成、翌年にデビューE.P.をリリース以降、現在までに2枚のフル・アルバムを発表。待望のツアーは3月21日台湾から開始。
http://yogeenewwaves.tokyo/
『SPRING CAVE e.p.』
Colourful Records / BAYON PRODUCTION
3/14発売
初回限定盤:2300円(CD+DVD)
すでにラジオなどで話題の「Bluemin’ Days」をはじめとする書き下ろしの楽曲に加え、前作のアルバム「WAVES」に収録されている「Ride on Wave」のリミックスも収録。さらに初回盤のDVDには、バンドの軌跡を追ったドキュメンタリームービーを収録。Yogee New Wavesのこれまでとこれからがわかる内容。
Photo:MUTSUHIRO YUKUTAKE(S-14)
Text:TAKAHISA MATSUNAGA