2018.05.15 Tue UPDATE CULTURE

ceroは、さらに新しい音を追求する! NEWアルバム制作秘話を直撃!

明日5/16に3年振りとなるNEWアルバム『POLY LIFE MULTI SOUL』をリリース!!
「クロスリズムやポリリズム的な構造、複層的なものを落とし込んでいったら自然と言葉選びが変わってきて」と語る、進化を遂げたceroの真価を直撃インタビュー!!

西東京を拠点に、日常と幻想、そしてさまざまな音楽要素をクロスオーバーさせたサウンドで人気のcero。3年ぶりのアルバム『POLY LIFE MULTI SOUL』では、多彩・多才なサポート・ミュージシャンとセッションし、より多層的な音楽世界を繰り広げている。そんな3人に、アルバムの聴きどころを直撃した。
 
 
 

自然が人間の文化に流入していくようなアルバムが出来上がった

──前作『Obscure Ride』のリリースから3年。バンドにとってはどんな時間でしたか?

髙城「ライヴが中心の3年間でした。その間には、4度目のサポート・メンバーの(一部)変更があって。実は、アルバムを発表するごとに顔ぶれが変わっていると言ってもいいかもしれません。そういう風に僕らは増進していったというか。脱皮するようなカタチで、これまでやって来ました。今回も、これまでやって来たことを地力にしつつ、新しい楽曲を制作しながら、かつての楽曲をどう進化させていくのか?という模索を最初の段階でやって、その後アルバム制作に本格的に取り組み出したという感じですね」


↑髙城晶平(Vo&G&Flute)

橋本「ギタリストの立場から言うと前作が新機軸だったというか。今までになかったことに挑戦したんです。完成直後のライヴでは、それをうまく表現できない部分があったんですけど、徐々に追いつくようになって」

──ちなみに、どんな弾き方だったのでしょう?

橋本「これまではギタリスト然としたスタイルではなくて、シンセのような浮遊感のある音を出すことが多かったんですけど、前作ではギタリストらしい演奏を求められるようになり、そこに集中しながら制作していたんですけど、今回はちょうどいいバランスで両方が伝わる響きになったのかなと思います」


↑橋本 翼(G)

──最新アルバム『POLY LIFE MULTI SOUL』では、どんな音を追求しようと思いましたか?

荒内「個人的には、前作で作ったものをさらに深めようと思いましたね。よりジャズのハーモニーとかリズムを勉強するようになりました」

──確かに。ロバート・グラスパーのような今世紀のジャズの流れを感じさせる展開を感じる部分もありましたね。

荒内「個人的にグラスパーを聴くことは確かにありましたけど、それを前面に出したいから聴いていた訳ではなくて。最近はどういう状況になっているのか?と言う市場調査みたいなものですよね(笑)」

──なるほど。

荒内「Aメロとかに歌詞を書いていない状況の中で、髙城くんに言葉やメロディをのせてもらったりとか。そのあたりは、ジャズの作り方に似ている部分があるのかもしれないですよね」


↑荒内 佑(Key&Sampler)

髙城「これまで僕は、橋本くんの作った曲に対して歌詞を書くことはあったのですが、荒内くんの作った曲に関しては今回のアルバムが初めてでした。それで最初にできたのが『魚の骨 鳥の羽根』という楽曲だったんですけど、これに歌詞を付けるという話になった時、今まで通りの歌謡曲テイストな言葉ではなく、かと言ってラップ的なものにしてしまうとceroでやる意味がなくなってしまう…。何を提示したらいいのか?と悩んでいたところ、楽曲の持っているクロスリズムやポリリズム的な構造が意味するもの、複層的なものを落とし込んでいったら自然と言葉選びが変わってきて。『人間と人間』の感情だけではなく、ざっくり言えば自然みたいな、自然が人間の文化に流入していくような感じが出来上がっていました」


 
 

自分は忘れたとしても、生きた証は現世にずっと残っていく

──「水」を引用したタイトルやフレーズが多いのも、そのせいですか?

髙城「以前から、結構クセで『水』が歌詞に入ることが多いんですよね」

──3人とも、育った場所が川沿いにあることからも、影響している部分はあると思いますか?

髙城「前にもそういう質問を受けたことがあるんですけど、育った場所の影響はあったとしても、それは無意識下ですね。もっと概念的と言うか…。たまたま、ある本を読んだんですけど、昔は河原に芸事をする人が集まることが多く、それを生業にする人のことを『河原者』と呼んでいたそうなんです。自分たちも同じようなものだなとか、そういう感じなんですよ。何となく、その時読んでいたり、触れたものから、生まれることが多いですね」

──収録の「レテの子」は、現世と異世界を隔てる「川」をモチーフにしたものだと思いますが、これも無意識的に?

髙城「この楽曲は、レコーディング終盤に作られたものでして、フォーカスが完全に『川』にたどり着いて完成したものです。なので『川』についていろいろ検索したり読んでいた中で、西洋でいうところの三途の川=レテというものを見つけました。そこの水を飲むと、現世の記憶を忘れてしまうというものなんですけど。実は、前作が『忘却』のアルバムだったんですが、たとえ自分が忘れてしまったとしても自分がいたことは現世にずっと残り続けるという考え方を反映させたくて、それで作ったものなんです。結構、僕はシナリオっぽい歌詞を作るのが好きで、そういう過程でできた1曲です」

──橋本さんは、今回のアルバム制作で「川」を意識したことは?

橋本「制作が進んでいくうちに「川」がキーワードの一つとして浮かんできて、漠然とですが「川を想起させる、または川と相性の良さそう」な楽曲や音作りを心がけました。実際に川の音も入ってますね」

髙城「周囲の友人からは、今回のアルバムは初期のサウンドに回帰したと言われるんですけど、今回は雑多さ、ごった煮になっている印象はありますね。その雑多さって大人になると意識的に作ることができるんだってわかりました。田舎から郊外、都市まで、脈々と川は流れていて風景は変わるけど、水は等しいみたいな。だから、より視点が広くなってきている気はしています」
 
 

これまで楽器に頼っていたことを、声で表現できるようになった

──「夜になると鮭は」の朗読も印象的ですね。アメリカの作家レイモンド・カーヴァーを引用している部分もありますが。

髙城「これは、レコーディング半ばにできた曲です。橋本くんが、インストをデモで渡してくれて、アルバムのインタルード的な役割で収録したらいいのでは?と思い完成させました。このアルバム制作前にサニーデイ・サービスの作品で朗読をさせていただいたんですけど、スマホに声を入れるやり方だったんですね。それが案外面白くて、自分たちでも取り入れたいと思いました。歌詞に関しては…、そうそう、映画や小説には、物語の中にサブテキストとなる別の創作物が入りこんできたりする手法がありますよね。映画『ブレードランナー2049』におけるナボコフの『青白い炎』みたいな。そういう手法を音楽のアルバム作品で見ることってあんまりないなと思って、やってみたくなったんです。レイモンド・カーヴァーは、元々好きな作家で、彼の名前が入ると作品に奥行きが広がるような気もしましたし」

──今回のアルバム制作において、これまでと大きく変わった点は?

荒内「今回はサポート・メンバーに一部変化があったことが大きかったですね。みなさん出自や専門領域がバラバラで、しかもソロでフロントを張れるくらいの存在感もある。そういった方々をただのサポートとして参加してもらうのではなく、どう特性を活かしたものにしたらいいのかを考えながら制作したというところはあります」

──そのことで、レコーディングに対する意識も変化?

荒内「コーラス・ワークが特に違いますね。今まで他の楽器で代用していた難しい音の重ね方とか複雑な動きを、声で表現できるようになりましたね」
 
 

次の段階へのチケットを手に入れた気分

──アルバム制作を通じて得たものはありますか?

橋本「ceroは、同じことをやらないバンドだと自分は思っていて、今回もそれが表現できたと思います。そのおかげでいろいろと新しい収穫があったし、またこれまで持っていたものに対しても還元できることが多かった気がします。次の展開へのチケットを手にできたような、そんな感覚でいます」

髙城「毎回そう思うんですけど、今回も次のためになるようなことがたくさんできた気がします。何が? と具体的にと言われると、自分でも答えづらいのですが、今後『このアルバムでこれをやっていて良かった』と思えることが多くありそう。特に、人との関わり合いでは…。前作までは、自分たちだけでミックス作業までしていたんですけど、今回はエンジニアさんに協力していただいたりして、総勢8名体制の大所帯で制作していたんです。この経験は今後に生きるような気がします」

──そもそも、なぜ今回は3人以外のミュージシャンともセッションをしようと?

髙城「2016年にリリースしたシングル『街の報せ』が布石になっているのですが、ここでは、フォーマットとか気にせずに3人が『今』を日記のように楽曲に認めていこうという思いで制作したものなんです。そこで、僕は『メンバー以外の方に一部を任せて楽曲を完成させたい』と提案したんです。アルバムでいきなり実行するのは怖かったのでシングルで『お試し』として…。それが、トータルとしていい仕上がりになったんです。器とそこにのっているものが完全に一致しているような感じがしました。そしてceroとして珍しく『今』という状況を切り出すこともできた。そこで、もうちょっと広げた活動をしたいと思って今回もお願いしたんです」
 
 

ツアー、そしてフジロック出演への思い

──アルバム発売後には『POLY LIFE MULTI SOUL』発売記念全国ワンマンツアーが控えています。

橋本「収録曲の中には、ライヴで披露していないものもあるので、それをどう鳴らしていけばいいのか? というところもありますが、いいカタチになればと思います」

荒内「本作は、ライヴ向きな楽曲が多いので、純粋に演奏するのが楽しみなんですよね」

──7月にはフジロックフェスティバルへ出演決定。どんなステージになりそうですか?

髙城「まずはツアーを真剣に取り組んでからですね。そこでアイデアが出てくるはずなので、集大成をフェスで披露するという感じになるのでは」

──楽しみにしています。ちなみに。タイトル『POLY LIFE MULTI SOUL』には、どんな思いが込められているんですか?

荒内「今回は、多様なサポート・メンバーが入っていることや、ポリリズムといった複層的なリズムを多用していたり、コーラスがポリフォニックというところから『ポリ・ライフ』という言葉を思いつきました。さらに、楽曲の中でも聴き方によってジャズやハウスなどいろんな音に聴こえます。実際に曲の中でリズムが変化しているんですけど、多面的にできている音なんですよね。それを自分たちで『マルチ・ソウル』とジャンル付けして。そこに合わせていったので、このタイトルになりました」

──アルバムのアートワークに関しては?

荒内「基本的に、髙城くんとデザイナーさんとでやりとりをすることが多いのですが、その途中で僕らふたりも意見を言いながら完成させていくことが多くて。今回もそのパターンです」

髙城「ZE RecordsというNYのニューウェーヴとか、ディスコなどクロスオーバーな音を発信しているレーベルがあって、そこが提示していたヴィヴィッドな色彩に影響を受けた部分があります。さらに、日常で引っかかったものを加えたりして完成したものなんです」
 
 
 
PROFILE
髙城晶平(Vo&G&Flute)、荒内 佑(Key&Sampler)、橋本 翼(G)。2004年結成、2011年に1stアルバムを発表。『POLY LIFE MULTI SOUL』 発売記念全国ワンマンツアーは、5月25日よりスタートする。フジロックフェスティバルには、7月29日に出演決定。
http://cero-web.jp/
 
 
NEW ALBUM
『POLY LIFE MULTI SOUL』

カクバリズム/2900円(通常盤)
5月16日発売

全12曲を収録したアルバム。なお初回盤は、一昨年・昨年に行なったライヴ映像やエクストラ・ムービーが収録されたDVD付きと、収録曲のインストver.が収録されたボーナスCD付きの2種類をリリース。彼らのこだわりを多面的に感じられる充実の内容になっている。
 
 
 
Photo:MUTSUHIRO YUKUTAKE(S-14)
Text:TAKAHISA MATSUNAGA

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