映画『寝ても覚めても』。突然現れた初恋の相手・麦(ばく)にソックリな顔を持つ男・亮平と穏やかな日々を送っていたヒロイン・朝子が、再び麦に再会してしまい心をかき乱される姿を描いた異色の恋愛映画。今作にて、亮平の同僚である串橋耕介を演じた瀬戸康史さんに、作品のこと、役に対する思いなどを語ってもらった。
——今作『寝ても覚めても』は恋愛がテーマの映画ではありますが、観る人の恋愛経験や感情移入する登場人物よって受け取る印象が変わって来そうですよね。瀬戸さんは、今作の台本を読んだ際にどのような感情を覚えましたか?
瀬戸康史(以下瀬戸) 正直、1回読んだだけでは理解できない部分や、活字を読んで浮かんでくる映像が自分の想像内では処理ができない部分もありました。完成した作品を観たときに初めて、どのジャンルに属している作品なのかジャッジするのは難しいかなとは思いましたね。個人的な話をすれば、『寝ても覚めても』の作品内で東日本大震災のことを扱っているんですけれど、そのことがきちんと作品内で活きているなと思いました。僕自身、福岡に住んでいた頃に大きな地震にあいまして。被災した人の気持ちは、少しはわかるつもりなので、震災を扱っている作品を見たときに、どうしても特別な思いを持って見てしまうというか。でも今回は、(そのことが)作品内でしっかり扱われていたと思います。
——たしかに。過剰にドラマティックに扱うのではなく、あくまで日常生活の延長線上に震災という出来事が起き、それに見舞われた人々の描写もとてもリアルに感じました。濱口監督についてお伺いしますが、監督は独特の演出方法で作品づくりを進めていく方と伺いましたが?
瀬戸 今回、初めて濱口監督とご一緒したのですが、初めての体験の連続でした。現場に入ると、今日はこのシーンを撮ります、と。一般的にはそこですぐにお芝居が始まると思うんですけど、まずその場で本読みをするんです。しかも、セリフを全て棒読みというか、ニュアンスを一切抜いた状態で淡々と読んでいく。それを何度か繰り返して、本番のときだけ感情を解き放ってください、と言われる。そういう演出方法だったので、僕ら俳優陣は戸惑いもありつつ、何か余計なものが削がれて、その空間に立っていられる感覚がありました。
——そういう演出を受けた後に本番に臨むと、全然違うものですか?
瀬戸 不思議な緊張感はずっとありました。自分はともかく、お芝居をする相手が本番でどんなトーンでセリフを話すかわからないじゃないですか。一般的な方法だとまずはテストをして、そのときに相手のトーンを図ることもありますが、今回はそれが通用しなかったので、本番で相手のお芝居を受けたときに新鮮なインパクトがありました。
©2018 映画「寝ても覚めても」製作委員会/ COMME DES CINÉMAS
——監督が意図していたのはそういう生の反応を引き出したかった、という側面もあったのかもしれませんね。
瀬戸 監督に直接聞いていないのでわからないですけど、そうなんじゃないかなって。
——「どうしてこういうやり方をするんですか?」とか疑問をぶつけることもなく?
瀬戸 僕に関しては、なかったです。すごくおもしろいなと思ったので。
——瀬戸さんが演じられた串橋という人物について、彼のことをどんな風に捉えていましたか?
瀬戸 いい意味でとてもドライ。自分自身のこともそうだし、周りを客観視している。だからこそ、夢を諦めたという拭い去れない過去が見えてしまうというか。客観視しているからこそ見えてしまうもの、見えなくていいもの。そういうところで苦しんでいる人なんじゃないですかね。
——串橋に近づくために工夫されたことはありますか?
瀬戸 役作りの正解がいまだによくわからないけれど、僕の場合は、自分からは遠ざけないっていうことが一番にあります。例えば今回だったら、僕もどちらかと言うと食事の席に行っても隅のほうに座って端から見ていたい人間で、きっと串橋もそういうタイプで。そういうきっかけみたいなところを見つけて広げていくっていう作業とか方法ですかね。それはどの役を演じるときも一緒ですね。
©2018 映画「寝ても覚めても」製作委員会/ COMME DES CINÉMAS
——他に、串橋に共感できるポイントはありました?
瀬戸 亮平との距離感の取り方は、似ていると思いました。良い距離を持って人と接するところ。あとは、あまり人を信じていないところ(笑)。
——ええ〜っ(笑)。そんな理性的で冷静な瀬戸さんは、クライマックスで朝子が選んだ、とある大胆な行動に関してどんな感想を持たれましたか?
瀬戸 僕は、理解できないなって思いました。自分がされたら許せないけど、その行動自体が許されないこととは思わないかな。でも、自分がされるのは本気で嫌です(笑)。
——もしも、瀬戸さんが朝子と同じ立場に置かれたとしても、ですか?
瀬戸 めちゃくちゃ考えるとは思いますけど、実際に行動に出ることはないですね。ちゃんとセーブしないと。大人だし。
——朝子の、たとえ誰かを傷つけたとしても自分の気持ちに従うという本能的な行動に反発や嫌悪を覚える方もいるかもしれませんが、一方で感情の赴くままに行動ができることに一種の憧れを覚える方もいそうですが?
瀬戸 僕は理性や決まりごとみたいなものに縛られがちなタイプなので、時々息苦しさを感じることもあって。だから、こうやって感情を解放できる人にうらやましさを覚える気持ちはよくわかります。僕は俳優という仕事をしているからお芝居の上で感情を解放させるタイミングが多いけれど、そうでもない限りはなかなか機会がないですよね。だからこそ、こと恋愛においては、ことさら情熱的になるのかもしれないな、と思いました。
©2018 映画「寝ても覚めても」製作委員会/ COMME DES CINÉMAS
——観る人の立場や経験によって感想がガラリと変わってくる映画だと思いますが、瀬戸さんご自身はどんな感想を抱きましたか?
瀬戸 僕は、“寝ても覚めても人間は人間なんだな”と思いました。だから、さっきの震災の話ですけれど、劇中で3.11が起こって人間というものがあらわになって、そこがものすごく僕はしっくりきた。ずっとこのタイトルが不思議でたまらなかったんですよね。『寝ても覚めても』の後に続く言葉は何?と。だから初めて完成した作品を観たときに、寝ても覚めても人間なんだなって、僕はそう解釈をしました。
——劇中では流暢な英語を披露されていましたが、英語を勉強されているんですか?
瀬戸 たまたま英語を話す役が続いたのがきっかけで勉強をし始めて、いまも続けています。仕事に活かしたいというよりも、海外の方とコミュニケーションが取れたらいいなというくらいの気持ちです。
——英会話以外で、プライベートで好きなことってありますか?
瀬戸 卓球とか、iPadで絵を描いたり、文章を書いたり。家にいるのが好きなんですよね。
——これから先、こういう役に出会いたいな、というヴィジョンがあれば聞かせてください
瀬戸 作風にも、役にも、特にこだわらずなんでも挑戦してみたいという気持ちはあります。あとは、僕はどうしても童顔で実年齢よりも若くみられることが多くて。そこはメリットでもあり、デメリットでもある部分だと思うんですけど、これから歳を重ねていくに連れて、お父さんの役がきちんと出来るようになっていたいな、とは思っています。
——瀬戸さんのパパ役、楽しみにしております! 最後に、これから『寝ても覚めても』をご覧になる皆さんへ、作品を楽しむためのポイントを教えていただきたいです。
瀬戸 この作品って、単純に「すごくおもしろかった」とか簡単に感想が出る類の作品でもないと思うんですよ。観る人によって様々な反応があると思いますし。でも作品を観ている最中や観終わった後に、自分のこと、恋愛のこと、震災のこと、家族のことなどをきっと考えたくなるはずです。めまぐるしい世の中で、ふと立ち止まって考えるきっかけになれたらいいな、と思っています。
プロフィール
1988年5月18日、福岡県生まれ。2005年俳優デビュー。ドラマや舞台、映画と幅広く活躍している。近年の出演作品に、ドラマでは連続テレビ小説「あさが来た」、「幕末グルメ ブシメシ!2」、「海月姫」などがある。映画では主演を務めた『合葬』や『ミックス。』などに出演。NHKドラマ10「透明なゆりかご」で、産婦人科医の由比役にて出演中。今後は10月から放送が始まる連続テレビ小説「まんぷく」に神部茂役として出演する。
©2018 映画「寝ても覚めても」製作委員会/ COMME DES CINÉMAS
9月1日(土)より、テアトル新宿、ヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷シネクイントほか全国公開
キャスト:東出昌大、唐田えりか、瀬戸康史、山下リオ、伊藤沙莉、渡辺大知(黒猫チェルシー)/仲本工事/田中美佐子
監督:濱口竜介
原作:柴崎友香『寝ても覚めても』(河出書房新社刊)
脚本:田中幸子、濱口竜介
音楽:tofubeats
主題歌:tofubeats「RIVER」(unBORDE/ワーナーミュージック・ジャパン)
配給:ビターズ・エンド、エレファントハウス
Photo:HIROAKI KAWATA
Interview:KEI KATO
Styling:KAZUYUKI TAMURA
Hair&:Make:MOTOKO SUGA