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2016.08.23 Tue UPDATE CULTURE

メディアアーティスト 落合陽一さんの書棚

メディアアーティスト 落合陽一さんの書棚

MJの連載「今月の本のハナシ。」。

毎回、各界の著名人が思い入れのある1冊について自身のキャリアや経験を交えつつ語っていただいているが、ここMJPでは、本誌とはまた別な1冊(ないしは2冊)を紹介。また、スペースの都合上、入りきらなかったこぼれ話も。

今回のゲストは、テクノロジーとアートを駆使する“現代の魔法使い”。弱冠28歳ながら研究者、大学教員、実業家として世界が注目するメディアアーティストの落合陽一さん。昨年は「画面によって人々が繋がる“映像の世紀”は終わりを告げ、偏在するコンピュータが人と自然を取り持つ“魔法の世紀”が訪れる」と予見した初の単行本『魔法の世紀』を上梓し、話題を集めた。MJPでは、そんな落合さんが影響を受けた本のほか、気になる素顔やファッションにも迫ります。

 

――まずは落合さんが名乗る「メディアアーティスト」とはいかなるものか? 簡単に教えてください。

ご存じエジソンは蓄音機とか映写機とか、人の知覚メディアを保存したり拡張したりする「メディア装置」を発明した偉人です。‘60年代に「そういうものを作ること自体も芸術に含めていってもいいんじゃないか」という批評が出てきたんです。
主役となったのはナム・ジュン・パイクというアメリカの芸術家で、彼はただビデオを撮るのではなく、ビデオ装置ごと積み上げて彫刻にしたんですよ。この彼が作ったビデオ彫刻というジャンルは、メディア装置を作るということ自体を芸術として解放することになりました。僕は、その観点から逆説的に考えると、エジソンもメディアアーティストであり、グーテンベルクの活版印刷もメディアアートだったのかもしれないと。で、そういうようなことを汲み取っていくと、表現的発明によってメディア装置を作って芸術に一石を投じる人は全員、アーティストなんじゃないかと思い、僕はそういう作品を「メディアアート」と定義して、今はその研究と制作活動、普及活動をしています。

――メディアアーティストを目指そうと思ったのは?

小さいころから科学とアートが好きで、のめり込んでいて。大学生のころにメディアアーティストという、科学とアートがどちらも出来るような職業があることを知り、「表現するための工学」「工学を使った表現」に面白さを感じました。それからはずっとコンピュータと工学と作品制作をしていて、そうするうちに、現在の大学教員と実業家とアーティストをやることになったんです。

――最近はどんな作品を?

最近は音に興味があって、新しいスピーカーとか新しい空中描画装置を作っています。我々が持っている通信環境というのは視覚と聴覚と触覚だけなので、目と耳と皮膚でどういう情報を得ているのかを研究していますね。

――作品はユーチューブなどで見ていだだくとしまして、次に本の話を。普段どれくらい読まれるんですか?

ここしばらくは忙しくて、対談相手の著書以外は週に1~2冊しか読んでいませんが、大学生のころは1日1冊読んでいました。大学に入学した時に生物の先生が「大学生のいいところは本を読める時間があることだ」と言っていて、「へ~」と思い、通学時間が往復90分あったので、4年で忙しくなる前の3年間で千冊くらいは読んだかな。高校時代に速読を習っていたこともあって読むの速いんですよ。

――今年、読んだ本の中で面白かった?作品は?

アーサー・C・クラークの作品はほとんど読んだんですけど、『都市と星』を読んでいなくて、読んだら面白かったです。あらゆるものがVR(バーチャルリアリティ)化した世界を’50年代に、ここまで考えられるとは。ほかにアーサー・C・クラークでは『幼年期の終り』も好きでした。

――最新の作品はあまり読まない?

高校生のころは『海辺のカフカ』が出たらすぐ読むとかやってましたけど、最近は古典が多いですね。’60年代のSF作品って面白いんですよ。コンピュータと人間が出会い始めた時代なので。我々が今持っているような妄想が面白い。「そっちにいっちゃうのか~」、「でも君が思ってた妄想はインターネットの登場でハズレたね」みたいな(笑) そういうのが楽しい。

――マンガはいかがですか?

読みますよ。最近は『マージナル・オペレーション』という、軍事企業に転職した引きこもりの話とか。あとは三宅乱丈さんという方が描かれた『イムリ』というファンタジーとか、そのへんが面白かったです。メジャーなところでは『HUNTER×HUNTER』も好きですが、最新刊を待ってる間に『暗殺教室』の連載が終わったという。これはかなりの衝撃でしたね(笑)

――影響を受けた作家、本というと?

10代のころはニーチェとかゲーテとか読んでいました。あと論文の進みが悪いときは、村上春樹さんの小説を読んだり。村上さんの本って、日常の描写をひたすら細かく書いてあるから、言葉が出やすくなるんですよ。また、一人称で語り続ける文章だから、こっちも語りたくなる(笑) 今のメディアアーティストという仕事につながるという意味で影響を受けたのは、大学生のころに読んだノーバート・ウィーナーの『人間機械論』。モリス・バーマンの『デカルトからベイトソンへ 世界の再魔術化』(本誌9月号で紹介)。マックス・ヴェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』あたりでしょうか。

――読むのは紙ですか、それともkindle?

紙版しかないもの以外は紙で読みませんね。紙はかさばるし、スクリーンショットが撮れないし。昔はパソコンを立ち上げるのが面倒だったりしたけど、iPadは速いし、スマホとiPadが同期し始めてからはバッテリーの心配もなくなり、あらゆる環境で読めるようになって。図録とかはディスプレイより紙の方が大きいから、まだ紙の方がいいけど。結局、ディスプレイサイズの問題だから、これももうすぐ解消されるでしょうね。

――ファッション誌も何か対策を講じないと…(笑) ちなみにファッションといえば、落合さん=ヨウジヤマモト。いつくらいから着ているんですか?

高校生のころから着ていて、イッセイミヤケとかコム・デ・ギャルソンも同じくらい好きです。ヨウジとギャルソンが好きだった理由は、日本風なのに、そこに宗教性・土着性がないからいいなあって。またヨウジは、毎回モードの脱構築をやっているところも好きですね。ほら、これもありますよ(と棚から取り出す)、『MY DEAR BOMB』。

――山本耀司さんの、初の自叙伝。

これは僕の聖書です。意味不明なんですが、最高でした(笑)ここ何年間で読んだ本の中でも一番、意味がわからなくて、意味がわかる。半分は半生を、半分はポエムというか、名言のような言葉なんですけど。例えば「いつしか、確信的なロックンロールが始まる」とかね。よくわからないでしょう? でも、それがめちゃくちゃカッコいい。「自分の方法、それは布地と人間の身体が教えてくれる。デザイン画が服を作るのではない。わたしはいつも言う。『いいか、布地が教えてくれるから』」というのも好きです。

――では、クローゼットの中は全部?

そう今は全部、ヨウジ。選ぶのがラクなところもいい(笑) パンツだけは、ユニクロですね。残念ながらヨウジは下着を作ってないので。

――(笑)、最後に落合さん流の本の探し方があれば。

僕は本当に何でも雑多に読むのですが、面白い本を探すより、面白い作家を探す方がいいと思いますね。その面白い作家を見つけるコツは、ある程度、作品の量がある作家。先の村上春樹さん、アーサー・C・クラーク…ある程度の量を出版して版を重ねているということは、時代を超えて支持されているということですから。で、自分に合う1人が見つかったら、とりあえず片っ端から読んでみることをお勧めします。

 

 

図2

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