いよいよ公開まで、あと1カ月。
『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』は
エピソードⅢとⅣの時間を埋める物語となる。ということは、
我らがカリスマ、ダース・ベイダーは全盛期。
圧倒的な強さで大暴れすること間違いなしなハズ! と、たっぷりの期待を込めて、
編集部では仮定してみました。
そこで、豊富な知識に裏付けられたユニークな考察・レビューで、
映画ファンから多大な支持を受けている
「ORIVERcinema」編集長のNakatani氏に執筆を依頼。
ベイダーとは? そしてローグ・ワンでの登場は?
まったく新しいベイダー考察論、初出しの原稿をいただきました。
今日から、4夜連続で公開!!
第1夜
ダース・ベイダーが流した涙
ようやく、わかりはじめる頃だろうか。
思えば、ダース・ベイダーほど一緒に仕事をしたくない男はいない。
不気味な呼吸音とオラついた態度で周囲を威圧し、自身の完璧主義を他人にも押し付け、失敗した部下は容赦なく絞め殺してしまう。そう言えば第二デス・スター建設プロジェクトの時なんか、現場から人員不足で納期に間に合いませんと相談されているのに、「お前それ皇帝陛下の前でも同じこと言えるの?」と一蹴していた。とんでもないブラック体質である。
それでも我々は、この仰々しくもどこか孤独を感じさせるダース・ベイダーという男に、畏敬とも尊敬とも同情とも取れぬ念を抱いている。それは、『エピソードⅠ / ファントム・メナス』から『エピソードⅢ / シスの復讐』にかけて語られたアナキン・スカイウォーカー時代の悲劇を目の当たりにしているからだろう。かつて『選ばれし者』として将来を有望視されていたアナキンは、様々な不幸と不遇な環境、そして計算高い大人の策略が呪ってダース・ベイダーとなった。全銀河系の不条理という不条理をマスクの中に閉じ込めると、その中で溺れて窒息しないように呼吸器で息をするのが必死だった。日本の戦国時代の兜をモチーフにデザインされたそのマスクは、何かに怒っているようにも、何かに怯えているようにも見える。喜びや安らぎ、理性や勇敢さといった、かつてのライトサイドの感情は見い出せない。
© Lucasfilm Ltd. & TM. All Rights Reserved.
この暗黒の犠牲者は、共感できるキャラクターというより、同情しやすいキャラクターだ。
表情がわからない分、観客は彼の心情を自由に推察することができる。本当は、マスクの下では思い悩んでいるのではないか。心の何処かで、救済を求めているのではないか。
世界中の観客から同情を吸い寄せ、蓄積していくのに、彼の黒いマスクとスーツ、マントは好都合だった。黒色が可視光線を吸収して熱を帯びるのと同じ理由である。ダース・ベイダーの暗黒が底なしに深く濃いほど、同情の念が集まり、熱され、ムスタファーの灼熱のマグマとなって我々の心に流れるのだ。
ダース・ベイダーという名の悲劇的運命をかたどるマスクの下で、ファンは彼が流したであろう涙粒を数えている。スター・ウォーズ・ファンは、大人になるにつれて、かつて自分が数えた涙粒の数を誤っていたことに気付かされる。我々も成長し、もう若手とは呼ばれなくなり、すっかり部下や後輩に相談を持ちかけられるような立場になった。愛する人と一緒になることも、離れることも何回か経験した。どうしようもない不条理というのがどうやらこの宇宙にはあって、たまにあらがってはみるけれど、結局はフォースの導きに身を委ねるしかないことを学んだ。
だから、これまで数えていなかったベイダーの涙粒が、その爛れた頬をつたって落ちるのをこれまで以上に感じ取れるようになった。
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ダース・ベイダー。あなたは、いつだって板挟みにされていた。善と悪、理性と感性、愛と仕事、そして理想と現実─。
そのジレンマに苦しむベイダーの葛藤。この年になってようやく、わかりはじめる頃だろうか。
※明日に続く
[筆者プロフィール]
Naoto Nakatani
海外ポップカルチャーのファン・メディア ORIVERcinema編集長。
記事執筆やメディア運営、企業のプロモーション企画を手がける。インドカレーとバーガーキングが大好物。
ORIVERcinema
映画を中心とした海外ポップカルチャーのファンによるファンのためのファン・メディア。
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