1993年からじつに19年にわたり『月刊アフタヌーン』(講談社)で連載された沙村広明のネオ時代劇漫画が、三池崇史×木村拓哉の最強コンビで実写映画化。“永遠の命”を与えられ、死ねない侍となった主人公・万次の苦悩と希望、戦いを描いたぶった斬りエンターテインメントで、原作漫画から抜け出したようなキャラクターたちと壮絶なアクションシーンが観どころ。今や漫画原作の実写化において並ぶ者なしと名高いヒットメーカー・三池崇史監督に、主演を務めた木村拓哉との邂逅と、作品の魅力について語ってもらった。
「万次というキャラクターに触れた際、これを映画化するなら万次は木村拓哉しかいないと直感的に感じました。木村拓哉という存在は、僕らと同じ現代に生きているけれども、じつは見えている風景はまったく違うんじゃないかと。それは“死ねない”という十字架を背負った万次とよく似ていると思った。受けてもらえるかはまったくの未知数だったけど、やるからにはみんなが驚くものにしたいと頼んだところ、『じゃあ、世間をアッと言わせましょう』と快諾してくれました。実際に仕事をしてみたら、これがまあ、これまでご一緒したどんな俳優さんよりも集中力があるし、全力を出し切る人だった。こんな超人が主演なら、ぜひ市川海老蔵をガチでぶつけてみたいとか、キャスティングの選択肢も一気に広がったし、オファーもしやすかったですよ。実際に木村拓哉と市川海老蔵の波長は合っていたようで、対峙すると目に見えないエネルギーがバチバチとぶつかっている感覚があり、お互いがお互いを引き立て合っていた。2人の戦いは撮影していてすごく楽しかったですね。
僕はもともと俳優に対して演技指導などはしないタイプ。だって、これだけ多彩な才能を持った集団が、すべて僕の頭のなかにあるプラン通りに動くなんて、スゴく気持ち悪いでしょ(笑)。みんながそれぞれ個性を爆発させて、それでいて映画全体としては破綻せずに形を保っているというのがおもしろい映画だし、そこが演出としての腕の見せ所だと思っているので、基本的に俳優には特に何も言わない。ただその代わり、衣装合わせは念入りに、10回ほどはしました。着物や小物、武器、メイクなど、ひとつひとつについてフィーリングを詰めていくことで、木村拓哉が自然と万次とシンクロしていっていることに気付いた。そんな感じなので、役作りについて改めて会話する必要はなかったんですよね。
撮影は冬の京都でしたが、木村拓哉は本当にスゴかった。撮影中は、朝5時に現場入りして片目や傷のメイクを施して、それから深夜までずっとそのまま。アクションはすべて片目が見えていない状態でやっているし、草履も本物を履き続けた。これは地味にスゴいことで、一日中ずっと片目で過ごすと精神が持たないし、ほぼ裸足に近い草履での激しいアクションも、まず足が持たない。いくらでも負担を軽減する技術はあるのに、心の芯から万次になるためにその軽減策を拒み、最後まで貫き通した。これはふつう有り得ないことで、改めて木村拓哉という男のスゴさを思い知らされた現場でしたね。
クライマックスの300人斬りシーンは、モンタージュ(視点の異なる複数のカットを繋ぎ合わせる技法)はあまり使わず、それまで何人斬ったかをカウントしながら時系列順に撮影しました。「今ので25人斬ったよ」と伝えると、木村拓哉が「え、まだ25人?」とか言いながら(笑)。すでに片目での視界や間合いに慣れていたこともあって、周りも本気で斬り掛かれた。多少タイミングが狂っても、あの男は何とかしてくれるんですよ。そして最後はラスボスの福士蒼汰との斬り合い。ここでも木村拓哉の本気が、福士蒼汰のポテンシャルを引き出してくれた。きっと福士は、木村の剣を避けなかったら本気で殺されるって、本能で感じ取ったんじゃないかな(笑)。それくらい高いレベルのアクションだったね。
今はこうして映画監督をやっているけど、助監督時代は監督になるつもりはサラサラなかった。監督なんて、威張り散らすわりに映像はたいしておもしろくないなんて思っていたから(笑)。だから監督デビューは代打で任されたことがきっかけ。ちょうど30歳くらいで、つねに明日の撮影で頭はいっぱいだったけど、空いた時間で芝居を見たり、スタッフの動きを観察したり、いま思うと自分なりに準備はできていたんだと思う。だからこそ唐突にやってきた監督という役柄もこなせたと思うし、それが今につながっている。実際、映画監督なんてそんなものですよ」
PROFILE
1960年8月24日生まれ。大阪府八尾市出身。助監督を経て、1991年に監督デビュー。『クローズZERO』シリーズ(’07、’09年)、『十三人の刺客』(’10年)、『一命』(’11年)、『愛と誠』(’12年)、『悪の教典』(’12年)、『藁の楯』(’13年)など、数々の話題作を生み出し続けている。『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』が公開待機中。
賞金稼ぎに妹を殺された万次は、ある日、謎の老婆に無理矢理“永遠の命”を与えられてしまう。斬られても死ねない万次はやがて、家族を惨殺された少女・凜と出会う。凜は、万次を用心棒にして逸刀流の統主・天津影久を倒すべく、仇討ちの旅に出るのだが…。
監督:三池崇史、原作:沙村広明「無限の住人」(講談社『アフタヌーン』所載)、出演:木村拓哉、杉咲 花、福士蒼汰ほか。4月29日[土]より全国ロードショー