の子は過激で奔放? いえいえ、ハチャメチャだけど、周りの人を幸せにしてくれる人なんです

 
過激で奔放な動画配信で注目を集め、テン年代サブカルチャーの中心を駆け抜けてきた神聖かまってちゃん。絶望と希望、怒りと愛、光と影など両極の要素が入り交じるニューアルバム『幼さを入院させて』について、の子（Vo、G）に話を聞いた。
 
 
の子（Vo, G）

 
 
mono（Key）

 
 
ちばぎん（B）

 
 
みさこ（Dr）

世間をこっちの世界に引き込みたい

――完成したアルバムについて、現在の率直な感想を聞かせてください。

の子　僕は本当にポップでキャッチーなアルバムになったなと思っています。それを投げかけたときに、どう反応するかは、聴いた人が決めればいいことで。神聖かまってちゃんは、アルバムを出すごとに作品のクオリティーが上がっている実感があるし、今回の作品も今までで一番いいアルバムだと確信を持って言えます。

――の子さんにとっての「ポップ」とは、どんなニュアンスなんでしょうか？

の子　僕が思うポップと、世間が思うポップは、さじ加減が違うものかもしれないです。その違いは昔からずっとあって、僕からすれば今回のアルバムのジャケットもポップなんですよ。世間はそう見てくれないことも分かっているんですけど、世間をこっちの世界に引き込みたいというのもありまして。

――世間に合わせたポップではなく、自分の思うポップを追求したいと。

の子　アーティストって、誰でもそうだと思うんですよ。向こうに擦り寄っていくんじゃなく、向こうを呼び込むっていう。でも、それは難しいし、拒絶され続けているんですけど（笑）。難しさと闘いながら楽しんでいきたいというのが、神聖かまってちゃんでは常に考えていることです。

――では、自分が思い描いた反応と違うものが返ってきても、それはそれで受け止めると。

の子　それは毎回そうですね。僕って、人間性を誤解されやすいというか、分かりにくい人間なんでしょうね。このアルバムの曲の中でも、光と闇の落差が激しいし、僕自身の心の状態も落差が激しいので（笑）。「何を表現したいのか分からない」というのはメンバーにも昔から言われてきました。

――でも人間って、誰しも前向きなときもあれば、落ち込んで「何もかもダメだ！」と思うときもありますよね。だからこそ、神聖かまってちゃんに共感する人は多いと思うんです。

の子　その部分について、葛藤することもありますね。やっぱり年齢を重ねていくにつれ、感性が変化して大人になった部分も、落ち着いてきた部分もあるので、「自分はこれでいいのか？」と思うこともあって（笑）。でも、それは作品を長く作り続ける人なら、みんな通る道だと思いますね。

――曲作りに取り掛かるときは、どんな心の状態のときが多いんですか？

の子　やっぱり、どちらかに極端に触れているときですね。でも下がりすぎていると、曲作りどころじゃなく、寝るしかないってときもありますから（笑）。でも、下がった状態のときに作ったメロディを、上がっているときに作業し直すこともあります。

――今回のアルバムは、「この曲を書いたときは闇な状態だったんだろうな」と分かる曲がいくつかありました。『まいちゃん全部ゆめ』とか。

の子　今回のアルバムは、その違いが分かりやすいかもしれないですね。『まいちゃん全部ゆめ』は、もともと睡眠導入剤の名前がタイトルに入っていたんですけど、商標登録の関係で使えなくって…。薬は依存しすぎると引き返せなくなっちゃう人も多いし、そこは上手く付き合ってもらいたいというのは、僕もファンには常々言っています。

自分を出しているだけで、過激なことをしているつもりはない

――他の曲についても伺いたいんですが、『夕暮れの鳥』はTVアニメ版『進撃の巨人』Season2のエンディングテーマで、漫画の作者の諫山創さんからのリクエストで制作が始まったそうですね。『進撃の巨人』の世界観にはもともと共感する部分はありましたか？
 

 
の子　ありましたね。あの閉鎖された空間で物語が進むところとか、世界観とか死生観とか。最近はいろんな表現が規制されてマイルドになってきていますけど、『進撃の巨人』は違いますよね。でも諫山さんは、過激なことをやっているつもりはないと思うんですよ。自分そのものを出しているだけで。そこは神聖かまってちゃんも同じなんです。

――この曲の依頼があったときは、神聖かまってちゃんの過去の曲の『コンクリートの向こう側へ』のようなイメージで……というオーダーがあったそうですね。そういう部分では、自分の得意なものを出しやすかったのではないでしょうか。

の子　それはありましたね。『進撃の巨人』の世界観は、神聖かまってちゃんの作品とも似通った部分を感じていましたし、その点でも作りやすかったです。

――裏声のヴォーカルも印象的でした。

の子　あれは頑張って出している声で、完全にレコーディング用です（笑）。今回は『おはよう』という曲も同じようなウィスパーボイスで歌っています。ライブでどう再現するかは考えず、「こう歌ったほうが面白いんじゃないか」と思ったことを試した感じです。

――ヴォーカルも曲も含めて、この『夕暮れの鳥』は、神聖かまってちゃんらしさを引き継ぎながら、曲の壮大な雰囲気などは、さらに進化を遂げているように感じました。

の子　今までもこういうタイプの曲はあったんですが、今回はタイアップがあったことで、そういった部分を強く見せられたのかもしれないですね。だからこそ、きっかけを与えてくれたタイアップの話はありがたかったです。

――２曲目の『イマドキの子』は、ラジオ番組「SCHOOL OF LOCK!」でMVの主演女優を募集したそうですね。撮影はいかがでしたか？
 

 
の子　出演してくれたコが初々しい感じで頑張ってくれて、僕はそればかりが記憶に残ってます（笑）。やっぱり健気な感じとか純情さっていうのは、若い年齢でしか出せないし、大事なものだなと思いました。

――３曲目は『陸上部の夏』というタイトルですが、の子さんはもともと陸上部なんですよね。

の子　そうですね。だから、そういう歌詞をふと思い付いたように書くことがあるんです。学生時代とか10代の頃の記憶には良くも悪くも依存しちゃいますね。
 

僕が大人になったことで、良くなった面も悪くなった面もある

――本当に夏のイメージが浮かび上がってくるような、メロディが美しい曲だと感じました。今回のアルバムは、冒頭のほうに特にポップな曲が並んでいますが、曲順はどうやって決めているんですか？

の子　収録する曲を通して聞いてみて、メンバー全員で考える感じですね。僕はあまり曲の並びは気にしないんですよ。CDで曲以外に気にするのはジャケとかタイトルくらいで。僕の曲は、自分の中では曲ごとに世界観が出来上がっているので、アルバムもコンピレーション・アルバムみたいな感覚なんです。

――『幼さを入院させて』というのは、本当にいいアルバムタイトルだなと思いました。

の子　僕も、いいタイトルだと思います。前にTwitterでつぶやいたことがあり、ずーっと心に残っていた言葉で、「いつかアルバムのタイトルにしたいな」と思っていたので、今回使えて良かったです。

――幼さを捨てたり隠したり封印したりするのではなく、「入院」させるというのが、神聖かまってちゃんらしいなと思いました。

の子　そこまで深く考えていないですね（笑）。「子ども心」みたいなイメージで、アルバムの世界観に合ってるかな、と思ったくらいで。ジャケットも幼いし。

――今回のアルバムの初回限定盤のDVDには、今年１月のライブの映像も収録されていますね。

の子　ライブは年々良くなっている手応えがあるし、今の神聖かまってちゃんのライブのいい部分が詰まっている内容だと思います。ライブの現場にもぜひ来てもらいたいです。

――バンドとして10年近く活動を続ける中で、演奏やライブの面では確実に手応えが増しているんですね。

の子　上がっている部分だけじゃなく、下がっている部分もありますけど、総合的には上がっていると思います。

――下がっている部分というのは？

の子　やっぱり、良くも悪くも「キッチリしてきた」ということですよね。昔は俺の個人プレーだったのが、今はチームワークがある。やっぱり個人プレーだった頃のほうが良かった部分もあるんですけど、いま意識的に「ここは個人プレーで」みたいにするのは難しいんですよ（笑）。それも僕が大人になったとか、そういう変化の影響だと思います。でも、音楽的には昔より今のほうが断然いいですね。

――今回のアルバムタイトルにも「幼さ」という言葉がありますけど、神聖かまってちゃんには幼さとか、初期衝動みたいなものを期待する人もやっぱり多いと思います。

の子　それは感じていますけど、初期衝動だけで続けていたら、バンドはとっくに終わっているはずなんですよね。だから、10年近く続いているということは、うちらは計算でやれている部分もあるし、結果的にうまくやっているバンドなんですよ（笑）。

――曲の作り方、見せ方というのは、今回のアルバムを聞いてもさらに巧みになってきていると感じました。

の子　そこは上手くなってきているし、アルバムという単位の作品としても、本当に良くなっていると思います。

――ライブに来るお客さんの層は以前と変化はありますか？

の子　バンドと一緒に歳を重ねている人はいっぱいいますけど、昔からあまり変わらないですね。10代の人も70代の人も見ていますし、年齢もあまり関係ないのかなと。

――でもやっぱり、若い子には特に共感する部分が多いバンドなのかなと思います。この記事の担当編集の知人のお子さんが、の子さんのファンで、ライブにもよく行くという話を聞きました。

の子　こういう話はうれしいですね。自分がファンの人に愛されたら、もうそれは嬉しいし、感謝もしますし。「また来てください」と伝えて下さい！
 

 
――この先はツアーも有り、来年にはバンドも結成10周年を迎えます。今考えている、新しい活動のビジョンは何かありますか？

の子　そうですね。神聖かまってちゃんは以前、壁面LEDモニターにニコ生を流して、それをバックにライブをしていたんですが、来年はそれをもう一回やろうかなと計画中です。あと、インターネットのフィールドには若い層や新しい感覚を持った人が増えているので、そこでも何か挑戦をしたいです。

――人を驚かせたい、という欲求が常にあるんですね。

の子　それもありますけど、常に新しいことをやっていないと、自分がつまらなくなっちゃうんです。あと、人を驚かせること……というと、解散は避けたいですね（笑）。今でもケンカをすることは時々あるので、それは日々思ってます。バンドも人生もいつ終わるか分からないし、保証も何もないですけど、続けられる限り続けていきたいです。
 
 
 
CHECK! NEW ALBUM

「幼さを入院させて」

unBORDE ／ 4900円（CD＋DVD）、3000円（CD）発売中
 
3年ぶりとなるオリジナルフルアルバムは、シングル『夕暮れの鳥』『光の言葉』ほか全13曲を収録。人間に潜むあらゆる感情を注ぎ込み、神聖かまってちゃんの今を体現した作品に。初回限定盤DVDには、今年のライブの映像を収めた13
0分にも及ぶ豪華な内容に！
 
 
＜神聖かまってちゃん プロフィール＞
の子（Vo, G）、mono（Key）、ちばぎん（B）、みさこ（Dr）の4人組からなるバンド。08年結成。の子自らの体験や感情をタブーなき赤裸々な言葉で紡ぎ、美しいメロディーによる楽曲と強烈なライブパフォーマンスで、常に話題になるインターネットポップロックバンドとして活動中。10月20日からワンマンツアー「入院ツアー」を開催。
http://kamattechan.com/
 
 
 
Photo:MUTSUHIRO YUKUTAKE(s-14)
Hair&Make:RUMI TERASAWA
Text:SEIICHIRO FURUSAWA