電気グルーヴのメンバーとしても知られ、30年以上にわたって日本のエレクトロニック・ミュージック界の最前線を走り続けている、石野卓球。2017年12月26日には50歳を迎え、12月27日には新作アルバム『ACID TEKNO DISKO BEATz』を発表したのを皮切りに、活動の勢いをさらに加速させている彼に直撃インタビュー。
──前作の発売から約1年半ぶりとなるオリジナル・アルバム『ACID TEKNO DISKO BEATz』が完成しました。いつ頃から、制作に取り掛かっていたのでしょう?
2017年のお正月くらいから、時間を見つけては当てもなく曲を作ってはいたんです。それから、リミックスやカバー、電気グルーヴの仕事を挟んで、秋くらいから、また取り掛かり始めたら、2週間くらいで2枚のアルバムができるくらい曲が完成したので、その中から多様性がありながらも、全体の雰囲気を壊さず、74分間楽しんでもらえるようなものを選んだつもりです。
──前作『LUNATIQUE』は、ディープというか甘美なムードが漂う内容になっている印象でしたが、今回は純粋に踊り出したくなるようなトラックが収録されていますね。
前回は、月とか夜を連想させるものが多かったけど、夜が明けて春のそんなに暑くない感じを表現できたのかなって。収録曲も「DayLights」とか「SunGarden」とか、明るいイメージのものが多いし。
──卓球さんの場合は、本作を含めインスト楽曲がほとんどじゃないですか。タイトルって、どのタイミングで決めるんですか?
タイトルはいろいろとストックがあって「この言葉に合うものを、自分の楽曲として欲しい」ということから、スタートすることが多いですね。とりあえず先にイメージを付けて最後までという流れかな。
──インストだと、タイトルが最も楽曲の世界観を簡単に知ることができるツールになりますよね。
僕の作っている楽曲はインストが多いから、タイトルが重要になるんです。その破壊力やインパクトが、楽曲を左右するので。
──特に「DayLights」は、本当に春の兆しを感じさせる、高揚感のあるサウンドが印象的でした。
これは、90分くらいで完成したんですよ、すごいでしょ(笑)、SUGIURUMNにリミックス用の音素材を送ってもらうまでの間に。こんなに早く完成した楽曲は、今までなかったかも。
──楽曲制作は常にスピーディなんですか?
そう。仕事早いんですよ。1日10曲できることもザラなので(笑)。面白いくらいに楽曲ができるんですよ。何かおもしろい取っ掛かりがあって、他にはないことを試していくうちに、自然と完成してしまう。
──そんなアルバムで、今回「春」感を表現したのには何か理由があるのでしょうか?
僕は、夏とか冬といったはっきりした気候の季節よりも、その中間のグラデーションにある春や秋の方が好きということもありますし。そして、音楽ってその季節に通じる、「楽しい」や「悲しい」をミックスさせたような感情を響きやムードでポンと聴かせることができる。それを作りたかったんですよね。
──確かに、聴き手の気分によって、いろんな感情で受け止められる作品ですよね。
僕が子供の頃、親父の運転するクルマに乗っていた時に、ラジオからリチャード・クレイダーマンの「恋はピンポン(Ping Pong Sous Les Arbres・1978年発表)」がよく流れていたんですよね。初めて聴いたのに、なぜか懐かしい気持ちがこみ上げてきて。僕も、そういうものを作りたいなって思っていました。今までの自分の音楽を聴いてきた人はもちろんだけど、初めて触れた人にとっても「どこかで聴いたことがある」ノスタルジックなものを。以前は、なかなかそういう音楽を作ることができなかったけど、最近ようやく表現できるようになってきたのかなって。
──でも、懐かしさの中に現代の躍動感みたいなものも感じることができましたが。
いや、今のことなんて全然わからない。「こういうのが受ける」とか考えずに、自分のできることを精一杯やるだけでしたよ。
──高揚感と同時に邪悪さみたいなものを感じることができました。アルバム・ジャケットの鮮烈な赤で「流血」をイメージさせるあたりとか。
今回、作った音全体がそういう雰囲気のあるものになっているということもあって、アシッドハウスを連想させるアートワークにしました。また、そこに血を流すことによってパンクさを表現していたり、黒の中に白のドットを入れることによってキャラクター感も出ているという(笑)。
──アニメと言えば、1月10日に発売の電気グルーヴの新曲「MAN HUMAN」は、2018年1月より、Netflixで全世界同時配信予定の『DEVILMAN crybaby』(監督・湯浅政明)のテーマに起用されていますね。
これは、確か2003年くらいに制作していたものなんですよ。今回アニメのテーマ曲ということで、先方から「ダークな感じで、日本語じゃない言葉で歌っているものがいい」というオーダーをいただいて、この曲がイメージにぴったりだなと思ったのです。
──そのシングルには、七尾旅人さんと組んだ「卓球と旅人」名義の楽曲「今夜だけ」も収録。こちらも『DEVILMAN crybaby』の劇中曲に。
これも確か2010年くらいに制作したものを、引っ張り出してきたという感じ。曲を作りすぎて、たまにお蔵入りしていたものを発表することもあるんです(笑)。
──どれくらい曲のストックがあるのですか?
もうわからないくらい(笑)。多分、これから死ぬまで毎週新曲は発表できるくらいは揃っているかも。実際に出す・出さないは別にして。それくらいはありますよ、という話で(笑)。
──また1月24日には、プロデュース曲やリミックス、そして未発表曲などを収録した豪華8枚組WORKS集『Takkyu Ishino Works 1983~2017』がリリースに。
50歳になりましたし、それを記念してボックス・セットでも作りましょうか?という話になって、完成したものですね。基本的には、発表した年代順に収録されているのですが、意外と筋の通った仕上がりになっているのかなと。というか突拍子のないことだらけの曲、という話もあるんですけどね(笑)。
──なかには、1983年(16歳)の時に制作された楽曲「Noise In The Ear( 石野文敏名義)」も。改めて、当時の楽曲と向き合ってみて、いかがでしたか?
ただ表現できる力があるか・ないかだけの話で、作ろうとしていることは今も当時も変わっていないんだなってことは感じましたね。
──共通するものとは一体?
自分本位にはしないってことかな。一般的に親しまれていない音楽でも、見方を変えるとフレンドリーでポップなものになりうる可能性がある。それをどう引き出すのか? ということを、常に考えているような気がします。
──確かに、卓球さんは楽曲発表だけでなく屋内レイヴ「WIRE」を主宰されるなどして、アンダーグランドな印象だったテクノやエレクトロ・ミュージックを親しみやすい音楽に変えていった功績があります。
最初から「ポップ」なものに手をつけたいとは思わない。だって、そこにはすでに正解があって、手を出してしまうとずっとそれに似たものを作り続けていかなくてはならなくなってしまう。でも、アンダーグラウンド(アヴァンギャルド)な音楽には正解がないですからね。
──そして、現在50歳を迎えて、今後はどんな音楽を追求していきたいですか?
特に50を迎えたからといって、何かを変えるつもりはないですね。ただ限られた時間を考えると、今後はひとつひとつの楽曲を、より丁寧に作っていきたいなとは思っています。
──時代に残るようなアンセムを?
そこは思ってない。死んだ後に評価されたって、こっちには何も見返りがないし(笑)。それだったら、生きているうちに「売れる」曲を作りたいですよね(笑)。
PROFILE
1980年代より活動開始、’89年にピエール瀧らとともに、電気グルーヴを結成。’95年よりソロ活動もスタート。3月には電気グルーヴのライヴ『クラーケン鷹』を敢行。東京は3月16、17日Zepp Tokyoにて。
http://www.takkyuishino.com/
http://www.denkigroove.com/
『ACID TEKNO DISKO BEATz』
キューン / 2500円/12月27日発売
『Takkyu Ishino Works 1983~2017』
キューン /2万5000円(完全生産限定盤・CD8枚組)/2018年1月24日発売
電気グルーヴ/卓球と旅人
「MAN HUMAN / 今夜だけ」
キューン/ 926円/2018年1月10日発売
Photo:Mutsuhiro Yukutake(S-14)
Text:TAKAHISA MATSUNAGA