言葉やジャンルの壁を乗り越えて、常に刺激的なサウンドを追求し続ける[ALEXANDROS]。先日は初のスタジアム単独公演を大成功に導き、さらに音楽シーンにおける存在感を高めた彼らが、2年ぶりとなる待望のアルバム『Sleepless in Brooklyn』を完成させた。これまで以上に自由に、彼らの「今」という衝動を閉じ込めた強力盤に仕上がっている!
──今年の夏は初のスタジアム単独ライヴが成功するなど、さらに活躍の幅が広まっているなか、今回2年ぶり通算7作目となるアルバム『Sleepless in Brooklyn』が完成しました。
川上洋平「この2年は、自分たちから変化を求めて行った時間だったように思います。それまでも、いろんな挑戦をしてきましたが、音楽を作る環境自体を変えてしまおうと思い、初めて海外で生活をして、環境に慣れてからアルバムを完成させようと思ったんです」
──そこで選んだ場所がNYだったと?
川上「そうですね。他にも候補都市はあったんですけど、音楽はもちろん、ファッションやカルチャー全般において、最先端はNYなのではないかと。あとは純粋に楽しそうかな?というノリな部分もありましたね(笑)」
磯部寛之「僕は、LAで暮らしていた経験があるので、最初NYで制作することに対して抵抗感があったんですけど、行ってみたら悔しいくらい最高でした(笑)。LAとは異なる刺激にあふれていたし、また電車でどこにでも行けるところは、東京に似ているので、すぐに順応できました。だから、いっぱいライヴを観ることができたし、スタジオでもカッコいいミュージシャンと知り合いになれたりとか」
──向こうのスタジオってオープンで、隣で作業していたミュージシャンが飛び入り参加して、楽曲が完成するなんてことも多くあると聞きますしね。
磯部「本当にオープンな雰囲気で、パソコンで作業していると知らない人が入り込んで『何してるんだ?』って声をかけてきたりとか。また、防音も日本と比べるとアバウトなので、音漏れもすごいんですよ(笑)。でも、そういうのが楽しくて。いろんなアイデアを与えてくれましたね」
──庄村さんは、NYでの生活はいかがでしたか?
庄村聡泰「僕は好奇心が旺盛な人間なので、いろんな場所に行って、観て食べて、触れてきました。他のメンバーもそれぞれ見聞を広めているのかなとも思いましたね。幸い僕ら、同じ嗜好を持っている部分もあるんですけど、バラバラなところもあって。感じたNYの景色ってバラバラなんですよ。それをスタジオで照らし合わせて完成したのが、このアルバム。これからバンドが活動を続けていく中で、忘れられない経験ができた時間だったように思いますね」
──特に思い出深い出来事はありましたか?
庄村「いろんなライヴを観に行ったこととか。あとは、街を歩いていると、しょっちゅう声かけられましたね。アジア系では珍しい髪型をしているみたいで、スナップ撮影とかもされました(笑)」
──(笑)。白井さんにとって、NYはいかがでしたか?
白井眞輝「僕は以前に何度か『観光』で来たことはあって、その頃から好きな都市ではあったんですけど、今回ブルックリンで生活をして観て、それだけでは知れない地元の人のライフスタイルとかを共有できたことは、嬉しかったですね。そこで、日本では感じられない『考え方』が、世界にはあるんだなということを知ることができましたし」
──何が一番カルチャー・ショックでした?
白井「ライヴやフェスに行った時のお客さんの姿勢ですかね。日本の場合だと、お酒とかあんまり飲まずに、ストイックにミュージシャンが発する音を『受け止めに行く』という人が多いイメージですが、向こうの人は野球観戦とかに行くような気軽さで、楽しみに行くというか。『自分主体』で楽しければ、それでいいというノリなんですよね。最初は、その気軽なスタイルに順応できない部分はあったんですけど、慣れるうちにそういう楽しみ方もアリだなって思うようになりましたね」
──アルバムも、楽しければそれでいいという雰囲気が伝わってくる楽曲が多いですよね。
川上「デビューしてから8年間やってきて、自分たちにこびりついてきた『イメージ』みたいなものを、一度取り払い、純粋に『いい曲』を作ることに集中して制作した部分はありますね。だから、こういうジャンルに当てはまる音を作ろうという意識をしなかったし、スタジオにピアノしかなければそれだけで楽曲を作ってしまおうとか。本当に自由気ままに楽曲が作れました。とても充実した時間で、今までの作曲家人生のなかで、一番ラクに楽曲が出来たのかもしれませんね」
──「FISH TACOS PARTY」という楽曲は、タイトルからしてノリ重視というか。自由な雰囲気がしていいですよね。
川上「休憩時間にタコスをデリバリーしていた時に思い浮かんだもので、仮タイトルをそのまま使用していますからね(笑)。歌詞の内容もタイトルと、ほぼ関係ないんですけど、ノリでいいのかなって。でも、その瞬間に出来たものだから、何かしらの関連性はあると思うし。そういう『ノリ』で作った楽曲が、今回は収録されていますね」
──クリアにリスナーに訴えかける楽曲が、すべてじゃなくていいと思うんですよね。ノリ(直感)で楽しいと思えるものがあってもいいのでは?と思います。
川上「必ずしも、リスナーに親切に解説するような楽曲ばかりを作る必要はないと思うんですよね。前作から2年という時間があった訳ですが、その間に作り込み過ぎた音楽を作るのは嫌だなと。『遊び』が欲しいと。そういうところは、最終調整した部分はありますね」
──他のみなさんも「自由」を意識した部分はありますか?
磯部「基本的にベーシストとして楽曲に向き合う時は、あんまり考え込まずに、自然でいようと心がけています。だからこそ、今回NYで制作したという環境の変化は確実に、アルバムに反映されていると思いますね。だから『FISH TACOS PARTY』では、初めてベースの生音を使わずに、シンセベースで録音したんです。楽曲にフィットすると思ったから。そのことで『ベースを弾く』ことにこだわらず、もっと遊びの部分を大切にしていいのかなと思いましたね」
白井「また、向こうのスタッフの方も自由なんですよ。日本だと、きちんとプロセスを踏んで楽曲を制作するのですが、向こうはプロセスは気にせず『最終的にいいものができればそれでいいのでは?』という考え方。そういうやり方をするのもアリだなって。音作りに対して、より柔軟になれた部分はありますね」
──でも自由さがあるいっぽうで。バンドはスタジアム公演を成功させるなど、活動のスケールが大きくなっています。そういう『環境の変化』を意識して制作した部分はありますか?
庄村「あくまでも僕の主観なのですが、大きな会場で演奏する時ほど、気合いを入れすぎない方が、いい音が響く印象がするのです。だから、リハーサルなどで、よかったものをそのまま楽曲に使用したりする自由な感覚のNYのスタッフとの作業は、とてもフィットしているような気がしました。結果、以前に比べて音数は少ないかもしれませんが、それぞれのパートがよりクリアに伝わっている仕上がりになっていると思うし、大きな会場でも響き渡りそうなイメージがしている。だからと言って、向こうのスタッフはアバウトだけじゃなくて、繊細な部分もきちんとあるんですよ。ここはもっと追求した方がいいとか、ここはラフでもいいのでは?という明確な意見を持っていて。だから、完成した楽曲が自分たちの想像をはるかに超えたクオリティの高さになっていることも多かったですね」
──確かに、アルバムは緩急のバランスがあるというか。自由さがある楽曲があるいっぽうで、「アルペジオ」のようなエモーショナルな世界観を追求するような楽曲も収録されていますね。
川上「この楽曲のアイデアは、1年前くらいからあったんです。白井くんが、楽屋で弾いていたアルペジオがいいなと思っていて、いつか発表できたらとは思っていたんですけど、今回ゲームソフトの主題歌のお話をいただいたときに、これが合うのかな?と思い、構想を膨らませて完成させました。僕らが暮らしていたブルックリンって、生活をしてみるといろんな問題を抱えていることに気づかされて。一見、いろんな文化や思想を受け入れて融和している印象がするけど、実はそうでもなかったとか。日本では考えられないような事件に巻き込まれそうになったこともあるし。そのいっぽうで、くたびれた様子で地下鉄に乗っている人を見て、日本で見る景色と一緒だと感じる部分もあるし。そういう感覚が、この楽曲にも反映されているような気がしますね」
──この作品を聴いていると、間もなくスタートの全国ツアーも楽しみになってきます。
川上「マナーの良さとか、日本でしかないライヴの素晴らしさはあると思うんですけど『ルール』に縛られすぎな部分もあるのかな?と感じているんです。ある程度自由な雰囲気があると、そこで僕らも想像できなかったサプライズが起こることを、今回のNY生活で知ったところがあるので。だから、今回は最低限のことは守りながらも、ルールを気にせず楽しんでほしいですね。ちょっとでも逸れることをする人がいるとSNSなどで批判する人がいますが、大目に見てもらえないかと」
──ルールを知らない人も、飛び込めば楽しめる世界が待っていそうな気がしますね。
川上「僕らの楽曲のなかで『ワタリドリ』くらいしか知らなくてライヴに足を運ぶ人も多いと思います。だから他の楽曲も、それに似たものと思われているようで、実際にライヴを観ると『こういう楽曲もあるんだ!』と驚かれることが多いんです。僕ら、いろんな音楽が好きなんですよね。つまりオルタナティブ。なので、どんな人もどこか必ずハマる音があると思うし。また、いろんな音が重なった瞬間に、今まで味わったことのないミックス・ジュースを飲んだような気分にもなれると思うので、ぜひ遊びに来て欲しいですね」
──それは楽しみですね。また、このアルバムを完成させたことで、次のバンドのビジョンも見えましたか?
磯部「いろんなアイデアをポジティブに試していきたいですね」
庄村「バンド結成してから、毎日刺激に溢れていて。この状態で、転がり続けることが出来たら」
白井「今後に関しては、堅苦しく考えずに、自由に活動できたらと思います。次はハワイでレコーディングしたいですね(笑)」
──それもいいですね(笑)。最後に、読者にオススメのNYスポットがあったら教えてください。
川上「ブルックリンのウィリアムズバーグ地区ですね。ファッションや音楽など、すべてにおいてNYの最先端を感じられると同時に、公園も充実していて。そこにテイクアウトの食べ物を持ち込んでのんびりしているのが、とても贅沢な気持ちになれてオススメですよ」
磯部「僕もブルックリンにあるプロスペクト・パークがオススメ。セントラル・パークをデザインした人が手がけているのですが、とても居心地がいいし、美味しいレストランが周囲にあるので、将来はこの周辺で暮らしたいと思うほどです。また、NYで注意して欲しいのが、トイレ。日本みたいにコンビニや駅に設置されていないので、レストランやカフェなどに入らないといけないから、お金と時間がかかります。余裕を持って行動しないといけませんよ」
PROFILE
メンバーは、川上洋平(Vo&G)、磯部寛之(B)、白井眞輝(G)、庄村聡泰(Dr)。2010年デビュー、15年にメジャー進出。日本のみならず、精力的に海外でも活動をしている。12月〜バンド史上最大規模となる全国ツアーがスタートし、19年3月からはアリーナツアーが開催される。ツアー詳細はhttps://alexandros.jp/
ゲームソフトの主題歌に起用され話題の「アルペジオ」を筆頭に、この2年で発表された話題曲も収録される。初回限定盤は、8月に開催されたスタジアム・ライヴ映像のほかに、来年おこなわれるアリーナツアーの先行応募受付シリアルコードなどが付いた充実の作品。