毎回、各界の著名人が思い入れのある1冊について自身のキャリアや経験を交えつつ語っていただいているが、ここMJPでは、本誌とはまた別な1冊(ないしは2冊)を紹介。また、スペースの都合上、入りきらなかったこぼれ話も。
今回は、モデル業をはじめテレビ、ラジオなどで活躍する一方、’13年に3年の歳月を掛けて書き上げた処女作『浅き夢見し』を上梓。先ごろ2作目となる連作短編集『永遠とは違う一日』が山本周五郎賞候補に選出されたことも記憶に新しい押切もえさんが作家業への思い、読書の楽しみ方などを語ってくれます。
――MJ本誌では、角田光代さんの『対岸の彼女』を紹介していただきましたが、まずはその魅力を改めてお願いします。
ストーリーや人物描写、心理描写の素晴らしさはもちろんですが、本当に胸に刺さる言葉が多くて…例えば「1人でいるのが怖くなるようなたくさんの友達よりも、1人でいても怖くないと思わせてくれる何かと出会う方が大事(中略)」ですとか、背中を押してくれる言葉に励まされました。ほかにも普段、自分の中でもやもやと思ってはいるものの言葉にできないことを、きちんと言葉にしてくれた気がします。
――本誌で、ご自身もそうした小説を書きたいと。
そうですね。主人公の女性2人は、それぞれ過去に辛い思いをし、人間不信になりつつも偶然の出会いから互いに救われる。そうしたなにかしらの“救い”は、私も目指すところです。また『対岸の~』は、エッセイを手始めに小説など角田さんの作品はほとんどを読んでいた中、色んなタイミングで後回しになり、わりと最近、読んだ1冊だったんですけど、主人公と同世代になったからこそ、うなずくところがたくさんあって。高校生のころに夢中で読んだ太宰治もしかり。歳を経て読み返すと、また違った角度から読める、その時々の気持ちや状況で再発見ができる。そんな小説を書いてみたいという理想はあります。
――ちなみに『対岸の~』は、専業主婦と未婚の女性社長という立場も性格も違う同じ歳の2人が出会い、友情を深めていく物語。お互いの過去も交えつつ、進行します。
でも“救い”を提示するということは、それまでに自分の中にある悲しみや憎しみ、絶望、そういうものを全部、履き出さなければいけない。小説を書き始めて読んだこともあり、私ももっと自分自身の内面を吐露しなければ。そんな気持ちにもなりました。その後、雑誌で憧れの角田さんとお会いする機会があり、より一層、その気持ちを新たにしましたね。
――そしてMJPで紹介するのが、松田龍平さん、宮﨑あおいさんらが出演した映画も好評だった、三浦しをんさんの『舟を編む』。先の『対岸の~』が「友情」であれば、こちらは「仕事」をテーマにした小説です。
ひとつの物事をコツコツと一生懸命やり遂げることの素晴らしさですよね。傍目には変人に映るかも知れないけど、熱中する何かを夢中で追いかける。主人公の馬締にとってそれは辞書の編さんなんですが、表題にもあるよう、過去に歴史を紡いできた人たちの思いも受け止めつつ、まい進する主人公の姿に心を打たれました。
――ご自身も小説を書かれるようになったことで、また違った印象を受けたんじゃないでしょうか?
それはありました。“本”という形になるまでのプロセスやそこでの苦労も前よりはわかりますし、『舟を~』のように、そこに関わる人間すべてが成長していければどんなに素晴らしいだろうと。一方で、モデルのお仕事にしても小説にしても「私は馬締ほど全身全霊を傾けているだろうか?」と、自身を振り返りもしましたね。とはいえ、三浦さんの作品の魅力は、世代や性別を問わず楽しめるエンターテインメントであるところ。軽妙な会話もあれば、時に熱く。泣ける場面もあれば、笑えるところもあり、最後には大切なメッセージが心に響く。MJの読者は男性が多いと思いますが、未読の方はぜひ読んでいただきたいです。
――ほかに好きな作家さんはどなたがいますか?
角田さん、三浦さん以外では川上弘美さんですとか、女性の作家さんが多いです。でも最近は、宮本輝さんの長編をはじめ、男性の作家さんもよく読んでいて。年齢とともに興味の幅が広がっている気がしますね。
――男性でも、歴史小説なんて50~60代のおじさんが読むものだろうと思っていたら、いつしか自分も興味を…ということがあります(笑)。
映画や音楽もそうだと思いますが、そこに普遍的なメッセージさえあれば、いいものはいい。面白いものは面白いと思います。今回、挙げさせていただいた『対岸の~』も『舟を~』も、それぞれドラマや映画になるくらいエンターテインメント性があり、なおかつ心に響くメッセージがありますからね。登場人物に自分を置き替えて、彼ら彼女らが言う言葉やセリフは自分に投げかけられているものだと想定して読んだり。これは私の楽しみ方ですが(笑)、みなさん自分なりの楽しみ方を見つけると、読書が一層、楽しくなるんじゃないでしょうか。
――『永遠とは違う一日』が山本周五郎賞候補にノミネートされたことで次回作の期待も高まっていますが、すでにプランはあるんですか?
はっきりとした構想はないんですけど…しばらくは女性を書き続けたいとは思っています。でも、『永遠とは~』で自分なりに全部、出し尽くした感はあるので、もう少し本を読んだり映画を見たり。インプットし直してからかな…(笑)。ともあれモデルの仕事だけでなく、書くことで飾らずに自分を表現すると今までとは違った反応が来るのがうれしかったですし。小説を書くこと=それまで臆病であきらめが早くて、人見知りだったネガティブな自分も生かせることなんだなという楽しさを知りましたし。もしも期待をされているのなら、それに精一杯、応えていきたいと思います。