MJ CULTURE

2016.09.11 Sun UPDATE CULTURE

作家 村田沙耶香さんの書棚

作家 村田沙耶香さんの書棚

MJの連載「今月の本のハナシ。」。

 

毎回、各界の著名人が思い入れのある1冊について自身のキャリアや経験を交えつつ語っていただいているが、ここMJPでは、本誌とはまた別な1冊(ないしは2冊)を紹介。

また、スペースの都合上、入りきらなかったこぼれ話も。

 

ゲストは、先ごろコンビニで働く独身女性を主人公に、「普通とは何か?」を軽やかに問うた『コンビニ人間』で第155回芥川龍之介賞を受賞した村田沙耶香さん。清楚なビジュアルと、おっとりした口調からは想像できないが、これまで現代社会の中で規定された常識や価値観と調和できない主人公の葛藤を、時にグロテスクに、時にセクシャルな表現で掘り下げてきた気鋭の女流作家だ。

今回はそんな村田さんが、自身のルーツとなる子供時代に夢中になった作家から、影響を受けた作家、そして気になる読書術、最新の1冊まで紹介してくれます。

 

――まずは、芥川賞受賞、そしてお誕生日(取材時)おめでとうございます(と、プレゼントをお渡しする)。

 

わー、どうもありがとうございます。甘いものは大好きなのですごくうれしいです。

 

――生肉がお好きとお聞きしたのですが、まだまだ暑いですし、チョコレートにさせてもらいました。

 

生肉…も大好きです(笑) よくご存じですね。

 

――生肉のお話は、またの機会に譲るとしまして、今回は本の話。改めましてMJのWeb版でMJPと申します。よろしくお願いします。

 

ハイ、存じております。コンビニ(芥川賞受賞当日も週に3回出勤するバイト先のコンビニで働いていた)で棚に並べさせてもらっていました。

 

――ありがとうございます! で、まずは村田さんのルーツについてお聞きしたいのですが、子供のころはどんな本を?

 

母がミステリ好きで家にはアガサ・クリスティーなどの本があり、兄はSFが好きだったので、新井素子さんや星新一さん、眉村卓さんの小説がありました。その影響もあって、小学校3~4年生のころは、これらの本をよく読んでいましたね。

あとは学校の図書室で借りた少女小説が好きで、そればかり。背後霊の男の子が恋人という話とか(名木田恵子著『ふーことユーレイシリーズ』)、そういう男女のロマンチックな話に憧れて、自分でも小説を書き始めたのもこのころです。

 

――なんと、背後霊が恋人とは! ものすごい設定ですね(笑)

 

ほかにも主人公の女の子の死んだお母さんが幽霊になって、本当に困った時に、いろいろと助けてくれるお話ですとか(堀直子著『ゆうれいママシリーズ』)、今思うと突飛ですよね(笑)

でも星新一さんの書かれるお話も、そこに当然のように宇宙人がいる。「エヌ氏の家に宇宙人が来た…」とか。そういう世界観は、後々本格的に小説を書き始めてからも影響を受けたかなと思います。

 

――確かにデビュー作の『授乳』に収録されている「コイビト」は、ぬいぐるみを恋人にしている女の子の話。『殺人出産』は10人子供を産めば、殺したい人間を1人殺していいという近未来の話です。

 

そうですね。当時は女の子が主人公で不思議な男の子が出てきて…というような話でしたが。今とはずいぶん(作風が)違うんですけど(笑)、小学6年のころには、お年玉をはたいて半分は母親に出してもらいつつ、ワープロを買って、いろいろと書いていましたね。新井素子さんや星新一さんのような独特の文章、文体というものに憧れて。ワープロは、自分が書いたものが印刷されて活字になることが、いちばんうれしかったです。

 

――中学~高校生のころは、どなたを?

 

高校生のころに山田詠美さんの文章に出会って、読書観が変わりました。また、それまでは文体というものに憧れはありましたが、そういう問題ではなかったんだと。とにかく、文章が美しい。“言葉ってこんなことができるんだ”と驚きました。これまで何度も読んだんですけど、読み返すたびに“こんな風に言葉が温度を持つんだ”“こんな場所に句読点を付けるんだ”と、新しい発見ばかり。文章が持つ熱量、言葉の力にも圧倒されて、このころは偏愛的に詠美さんの小説ばかり読んでいましたね(笑)

その後、大学生になると、1人の作家ばかり読んでいてはダメだと思い、夏目漱石、三島由紀夫、太宰治などを読んで。今度は、太宰の独特な文章にハマってしまい、そればかり読む日々になってしまうんですけど(笑)

 

――気に入った作家さんが見つかると、すべてのタイトルを読む方なんですか?

 

これは子供のころからの癖なんですが、同じタイトルを何度も読んだり、中には何冊も買うこともあります。同じタイトルでも出版社によって文字組が違ったりするので。

 

――ハードカバーと文庫版では、追加訂正があったりしますし。

 

そうですね。カバーも違いますし、好きなタイトルは文庫で何冊か買って、読み比べたりします。

 

――MJ本誌では、そうした学生時代に読んだ安部公房の『人間そっくり』を紹介。芥川賞受賞作『コンビニ人間』と通ずる(いわく「当たり前=常識と思われている考え方を疑ってみることが昔から好き」であり、本書は「読みながら自分の中で価値観が崩壊していって、疑い終わった後に世界が変わって見えるものがあった」)とのことでしたが、最近読んだ本で好きな1冊といえば?

 

小川洋子さんの『琥珀のまたたき』です。これも文章の話になりますが、本当に美しかったです。閉ざされた家で、外の世界とは隔離されて暮らす子供たちのお話なんですが、そこで遊んでいる様子――パラパラ漫画のようなことをしているんですけど、その表現を、こんなにも美しく…耽美的に書かれるなんて。物語が好きなのはもちろん、心から文章に感激しました。

 

――現役の方では女流の作家さんが多いのですか?

 

女性が多いかも知れません。川上弘美さんの作品や文章も好きです。小川さんや川上さんのような、作品世界の隅々まで、句読点さえ美しい言葉で表現することに憧れますし、そこがまだまだ私に足りないところだなと。

 

――では村田さんが思われる、読書の気持ちいい瞬間とは?

 

自分の中の価値観が崩壊する、松浦理英子さんや詠美さんが書かれる小説などがそうですが、それまで自分が苦しめられてきた…もしくは、知らないうちに型にはめられていた常識が壊れる。そして読後、見える世界が変わるような。それが読書のものすごく気持ちいい瞬間ですね。

 

――例えば装丁ですとか、書店での本の選び方はありますか?

 

装丁もそうですが、帯の文章やデザインが素敵で買うことも。あと私は書店さんで催されるフェアが好きで。本が大好きな各書店さんが選んだオススメの本ということもありますし、書店さんによっても品揃えが違いますし、このフェアでないと絶対に入荷しないだろうなという本もあったりして。いろんな書店さんのフェアを見てまわるだけでも楽しいです。

 

――なるほど。実践してみます。最後に、たくさん聞かれたと思いますが、今後もコンビニとの二足のわらじを履かれるんでしょうか?

 

店長さんとの相談になるのですが…私としては、できればやりたいですね。店長がすごくいい方で、村田さんのペースで店に戻って続けていいですよと言って下さっています。お店に迷惑がかからないようであれば続けていきたいと思います。

 

――ベストセラーをどんどん書いて、いずれはご自分でコンビニをやられたらいかがですか?

 

本しか置いていないコンビニとか、面白いですね。でも、それだと24時間やってる普通の本屋さんになるから(笑)、読書する時に必要な飲み物とか食べ物も置いてあるコンビニがあったらいいですね。

 

 

 

 

Photo:YUTA KONO/Text:TATSUNORI HASHIMOTO

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