肉体、精神のすべてを込めた
僕にとって10年に1本の作品
難病と闘いながらも、将棋にすべてを捧げた実在の天才棋士、村山聖の壮絶な人生を描いた『聖の青春』。主演を務めた松山ケンイチは、みずからの命を削りながらも将棋を差し続け、29歳という短い生涯を全力で駆け抜けた村山の生き様に感銘し、「自分の人生を懸けて演じたいと思えた役でした」と明かす。体重を大幅に増量するなど、肉体も精神もすべて役に費やした松山が語る、今作に込めた想いとは――?
「村山さんの魅力は、生きることに対して純粋なところです。普通は大人になるにつれて社会や周囲の人たちから影響を受けて少しずつ汚れていき、その汚れが個性になっていくと思うんですけど、村山さんはほとんど汚れないまま、大人になっていったような気がするんです。子供の頃から病を抱えていましたが、病に左右された人生を生きておらず、まるで夫婦の間柄みたいなつきあい方をしていたように感じました。自分の命を燃やして生きるということをまっとうされた人ですし、その生き方に強く心を揺さぶられました。
村山さんを演じるにあたって意識したことは、プロが見てもおかしくないような指し手を身につけることです。森 義隆監督からも「指し手が美しくないとカメラを向けられない」と言われていたので、常に駒を持ち歩いて練習していました。あとは病との向き合い方ですね。特に死が迫ってきている場面では、セリフではなく表情でどう表現していくのかを森監督とかなり話し合いました。
なかでも、定食屋でトイレのドアが開かずに「誰か、ここから出して!」と叫ぶシーンは、何度もテイクを重ねました。セリフというセリフはありませんが、僕にとって死は身近なものではないので、村山さんが死というものに閉じ込められそうになって、そこからなんとか出ようともがいている心情を探し出して演じるのはすごく難しかったです。
クライマックスの羽生善治さん(東出昌大)との対局シーンは、2時間ちょっと長回しで撮影しました。森監督から実際に使用するのは2分程度だと言われていましたが、最終的にはもう無我夢中で盤面に潜っているような感覚までいけたんです。体力を消耗しきって、『カット』の声がかかった瞬間はさすがに動けなくなりましたけど、なかなか到達できない境地だったので、貴重な経験になりました。
今回、村山 聖という人間を演じられてすごく幸せだし、僕自身にとっても“10年に1本の作品”だと考えています。30歳前後はいろいろな人にとってターニングポイントになる時期だと思いますけど、人生を考える良いきっかけになる映画でもあるので、村山さんの生き様を観に劇場に来ていただきたいですね」
PROFILE
1985年3月5日生まれ、青森県出身。映画『男たちの大和 YAMATO』(’05年)で注目を集め、続く『デスノート』『デスノートthe LASTname』(’06年)で大ブレイク。主な映画代表作は『L change the World』(’08年)、『ノルウェイの森』(’10年)、『GANTZ』『GANTZ PERFECT ANSWER』(’11年)、『僕達急行 A列車で行こう』(’12年)、『春を背負って』(’14年)。’16年は『の・ようなもの のようなもの』『珍遊記-太郎とゆかいな仲間たち』『怒り』に出演した。
『聖の青春』
村山 聖は“西の怪童”と呼ばれるプロ棋士。腎臓の難病を患いながらも、将棋界最高峰タイトル「名人」を目指して快進撃を続けていた。そんな聖の前に立ちはだかったのは、同世代の天才棋士・羽生善治。最強のライバルを倒すべく将棋にいっそう没頭するが、病状が悪化し、聖の命の期限は刻一刻と迫っていた…。
監督:森 義隆、出演:松山ケンイチ、東出昌大ほか。11月19日[土]より、全国ロードショー