MJ CULTURE

2017.03.24 Fri UPDATE CULTURE

作家 石田衣良さんの書棚

作家 石田衣良さんの書棚

MJの連載「今月の本のハナシ。」

毎回、各界の著名人が思い入れのある1冊について自身のキャリアや経験を交えつつ語っていただいているが、ここMJPでは、本誌とはまた別な1冊(ないしは2冊)を紹介。
また、スペースの都合上、入りきらなかったこぼれ話も。

 

青春時代に読者も熱中したであろうデビュー作『池袋ウエストゲートパーク』シリーズをはじめ、直木賞受賞作『4TEEN』など、その時代ごとの空気を映し出す数々の作品で知られる小説家の石田衣良さん。MJPでは、本誌でのインタビューに加え、3/25[土]よりWOWOW連続ドラマWでスタートする石田さん“デビュー15周年の“結論”と自負する渾身作『北斗 ある殺人者の回心』誕生秘話や気になる最新作についてもお聞きしました。

 

――本誌では、まずMJの読者世代である30代に「仕事にしても趣味にしても、今センスを磨いて勉強している人がいれば、そのまま続けてもらいたい」、「20〜30代で自分なりに何かを学んでおくと、その後の40〜50代が楽だし、楽しい」、「時間がないとか言って何もやっていない人も、ひと踏ん張りしてみる」など、の厳しくも温かいエールをいただきました。

 

勉強と言うと大変そうだけど、音楽を聴くでもアートに触れるでも、それこそ読書をするでも何でもいいんですよ。第一、ファッションはキメキメだけど頭の悪い大人ってカッコ悪いじゃないですか?(笑)。

 

――(笑)、おっしゃる通りです。飲み屋さんでもお洒落なのにしゃべると「浅っ!」っていう大人がたくさん。

 

そういう人は、浅い女性にしかモテませんよ。今時、身に着けている物やブランドで男を見るような女性。やはりデートの帰り際に女性が「今日はいい言葉が聞けた。知識が増えた」と思う。そういう男の方が男から見ても断然、カッコいい。

 

――かく言う石田さんは、大学卒業後就職し、36歳の時に7歳のころからの夢だった小説家になるべく小説を書き始めるわけですが、どんな30歳でしたか?

 

広告制作プロダクション・広告代理店にコピーライターとして入り、そろそろ独立しようかなと考えていたころですね。会社で見られるものは大体、見ることができたなと。で、33歳の時にフリーとなり、その後、小説家を目指して新人賞に応募するんですけど。

 

――デビュー作『池袋ウエストゲートパーク』しかり。例えば小説に出てくるクラシック音楽であったり、主人公のマコトのファッション描写であったり本筋ではない部分も魅力。やはり20〜30代で勉強されていたのでしょうか?

 

とりたてて勉強したつもりもなく、自分の好きなもの…20代で貯めこんだ知識を書いただけです。まさか続編ができてシリーズ化になるともその時は思っていないから、ノリ一発(笑)。でもシリーズものをやっていると、ブラック企業であったりヘイトスピーチ、あるいはオレオレ詐欺。時代ごとの移り変わりや時代の病気みたいなものがヴィヴィッドに取り入れられますから楽しいですね。

 

――’97年のデビューから、おおよそ20年。3月にWOWOWで映像化される『連続ドラマW 北斗 -ある殺人者の回心-』もそうですし、『うつくしい子ども』(神戸連続児童殺傷事件)、『約束』(大阪教育大学附属池田小学校児童殺傷事件)、『ブルータワー』(アメリカ同時多発テロ事件)など、時事問題や社会的に問題となった事件などに触発されて執筆することが多いと聞きます。

 

恋愛ものに関してはそうでもないですけど、残り半分は世相が何かしら書くきっかけにはなっていて。『北斗〜』に関しては、始めは書くつもりがなかったんです。しかし、その時の集英社の編集担当が「暗くて重くて苦しい小説が好き」だと。それで書き始めたはいいが、連載中は主人公に心を寄り添わせるのが本当に苦しかった。ただ、書く時にひとつ決めたのは、よく人を殺す人間って「モンスターだ」、「理解できない」と、すぐに決めつけるじゃないですか? もしくはゲームの影響がうんぬん…とか。

 

――虐待を受け続けた少年・北斗(中山優馬)が殺人者となっていく心理に肉薄した本作は「殺人者は特別ではない人でもなりうる。あなたが北斗だったかも知れない」ということがメッセージだそうですね。

 

ミステリーの世界で書かれる殺人者は理解できない人物が多いも知れませんが、それだけじゃないだろうと。普通の人が、そうなってしまう。実は、それが大半なのではないかな…って。実際、殺人者の書いた本を何冊か読んだんですけど、みんなたまたまと偶然の重なり合いから人を殺してしまったりしている。かねてから折り合いの悪い人がいて、何かの拍子に偶然、大喧嘩になり、たまたまテーブルに果物を切った包丁があったりするんです。わかっているのに止められない。なので本作でも北斗が人を殺すことに関して「理解できない」というふうには書いていないつもりです。人間の弱さ、偶然の怖さ。普通の人が普通に生きていても人を殺してしまうことがあるということを書きたいと思いました。

 

――後半は裁判のシーンが続きますが、肝心の北斗さえも殺した理由がわからなくて悩み、苦しみます。

 

小説は普段「こうだよね」って決めつけているものからこぼれ落ちるものが書かれているところが面白さであって。わからない部分を読者も一緒になって考えるのが小説だと思うんですよ。僕自身も書いていてわからないことがあるな…。連載小説だったこともありますが、どう転がるか、僕にもわかりませんでした。他人が書いたミステリーを読んでも犯人がわからないことがありますし…って、それとこれとは別ですが(笑)。

 

――結果、連載は自身、最長となる3年。単行本の総ページ数は512ページという、最も分厚い本となりました。

 

作品自体が「こういうふうに書け」と言うことがあるんです。北斗にしても「この人はこうなる」、「その人ならばそう書かざるをえない」ということも。自分でも不思議ですよね。また、長年書いているとテクニック的にどうしても上手くなるので、今回のように素材選びが大事だなと改めて感じた作品でもありました。「次もこういうテイストを…」と求められるとさすがにしんどいから、次は5年後くらいかなと思っていますけど。

 

――シリーズものは違う苦労が?

 

北斗はものすごく狭い部分を突き詰めていく人。『池袋〜』のマコトとは正反対の人でしたから、僕もしんどかった。片やマコトは口の悪い出木杉くんですから(笑)、楽しいんですよ。読者にもそうあってほしいと願っているところもあります。アートに触れ本を読み、社会の仕組みを疑うという気持ちを常に持っていてほしい。そういう思いも込めているから苦労はないです。

 

――先ほどは「5年後」とおっしゃいましたが、『北斗〜』刊行から5年が経ち、じゃあ次回作は…と楽しみにしているファンも多いと思います。

 

もう5年経っちゃった(笑)。来年はデビュー20周年の節目となりますから、大作を準備していて。東京大空襲の話なんですけど、これを僕らの世代も、ひとつ伝えておかないといけないなと考えています。年内に新聞連載を始めて…実際に空襲を体験していない世代がどう闘っていけばいいのか。戦争という時代を超えた問題に、僕なりのやり方で挑んでいければなと。

 

――最後にMJP用におススメの1冊をお願いします。

 

恩田陸さんの小説『蜜蜂と遠雷』です。音楽もので漫画『ピアノの森』や『のだめカンタービレ』が好きな人には絶対におススメ。本当に面白かったし、感動しました。物語に引き込まれるあまり、久々に徹夜に近いくらい読んでしまい、次の日はかなり疲れましたね(笑)。

 

――どのあたりに感動したのでしょう?

 

恩田さんってデビュー25周年の大ベテランですけど、作品に登場する10代の子供たちに毎回、心を寄り添わせることができる方なんですね。北斗はまた特殊でしたが、50歳も過ぎるとなかなかそれが難しい。でも、恩田さんは子供たちと一緒に感動しているし、登場する曲にも演奏にも感動しているのが伝わるんです。その心の動き、しなやかさ。そこに一番、感動した。20〜30代の若い男性作家でも10代に寄り添える小説家はなかなかお目にかかりませんから、30代のMJ読者は早いうちに読んだ方がいい。きっと違う感動があるはずです。

 

PROFILE
石田衣良

1960年生まれ。東京都出身。成蹊大学経済学部卒業後、広告制作会社を経てフリーランスのコピーライターに。’97年『池袋ウエストゲートパーク』でデビュー。’03年『4TEEN』で直木賞受賞。3/25土よりWOWOWにて『連続ドラマW北斗 -ある殺人者の回心-』がスタートする(後10:00〜)。

 

 


『北斗 -ある殺人者の回心-』

石田衣良“デビュー15周年の結論”と自負する渾身作を、中山優馬主演、映画『脳男』、『グラスホッパー』の瀧本智行監督で連続ドラマ化。孤独な青年・北斗(中山)は、数奇な運命に翻弄され殺人者となってしまう。彼は一体なぜ人を殺めてしまったのか。そして最後に下される審判とは…。松尾スズキ、宮本信子ほか。3/25[土]22:00〜WOWOWにてスタート。全5話。(第一話無料放送)

 

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