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2016.04.23 Sat UPDATE CULTURE INTERVIEW

原作者・花沢健吾が見る、映画『アイアムアヒーロー』

原作者・花沢健吾が見る、映画『アイアムアヒーロー』

「全部ぶっ壊したい」という破壊衝動からこの作品は生まれました

――35歳の売れない漫画家・鈴木英雄が、ある日突然、ZQN(ゾキュン=原因不明の感染によって増殖する謎の生命体)だらけになった世界を生き延びていくサバイバルホラー『アイアムアヒーロー』。累計600万部を超え、現在も『週刊ビッグコミックスピリッツ』で連載中の大ヒット漫画が、監督に『GANTZ』『図書館戦争』の佐藤信介、主演に大泉 洋を迎え、実写映画化。今回、原作者である花沢健吾氏に映画や原作漫画についての話をうかがった。

「もう、本当にラッキーな映画化だと思っています。個人的には漫画原作の映画化って難しいイメージがあったんですけど、それが一気に払拭されましたね。映画化に際して、僕のほうから佐藤監督にお話させていただいたのは、『映画としておもしろくするためならストーリーは自由に変えてもらって構いません。ただし、僕がおもしろいと思うゾンビ映画にしてください』という事でした。漫画を完全にトレースして作ってもらっても僕自身が楽しめなくなっちゃうので、それが嫌だったんです。今考えると、逆にヘンなプレッシャーを与えてしまって申し訳なかったと反省してます(笑)。でも完成した映画は、予想をはるかにを上回る完成度で、素直に脱帽しました。

撮影は何度か見学させてもらいました。最初は、漫画誌の編集部でのシーン。それを実際に小学館のスピリッツ編集部で撮影をしていたんです。英雄に扮した大泉さんを目の前で見たときには「何で目の前に俺がいるんだ?」と思うくらい雰囲気がそっくりで驚きましたね。大泉さんは、何となくコメディ寄りの俳優さんだと勝手に誤解していたんですが、落ち着いた演技もすごくお上手で、本当にスゴい方なんだと再認識させられました。

『アイアムアヒーロー』は、もともと前作の『ボーイズ・オン・ザ・ラン』の連載で溜まったストレスが爆発して生まれた作品です。当時は池袋に住んでいたんですが、池袋の街並みを眺めながら『あぁ~、これを全部ぶっ壊したい!』と(笑)。そんな破壊衝動を活かせる設定はなんだろう? と考えたら、ゾンビがいちばん合っていたんですね。普通のパニックものなら僕なんかすぐに死んじゃうけど、人から人に感染していくようなゾンビであれば、むしろ僕のような引きこもりまがいの漫画家は生き残れるかもしれない。逆に、世の中で活躍している、いわゆるリア充たちは多分全滅するだろうし、これしかないと思いましたね(笑)。だから当然、主人公の英雄は僕なんです。それでも最初は、なんだかんだ言って最終的に英雄はヒーローになっていくと思っていたんですが、描いても描いてもそうならない。英雄がヒーローになるためには、まず作者の僕が変わらないといけないんですが、これが変わらないんですよね(笑)。今、作品的にはクライマックスを迎えようとしていますが、もしかしたら英雄は最後までヘタレのままでヒーローにはなれない、なんていうことになるかもしれません。僕は作品に強いメッセージ性を込めるタイプではないので、それならそれでも良いんですよね。

ちなみに登場人物の服装については、僕にファッションセンスが皆無なので、毎度苦労しますね。例えば英雄は〈メタボリック・グラマー〉というブランドがお気に入りで、これはもちろん〈ヒステリック・グラマー〉が元ネタなんですけど、これをどうコーディネイトさせるのが正解なのか、僕には検討もつかなくて(笑)。頭を悩ませた挙句、最終的に奥さんに聞くなどして決めることもあります。僕自身、おしゃれになりたい願望はあるんですけどね。誰かにセンスの磨き方、教えてほしいです。

ともあれ『アイアムアヒーロー』は、思いもかけず多くの読者の方に支持されて、とても幸せな作品になったと思います。過去の2作は決して商業的に大成功したとは言えないので、これがラストチャンスだったと思います。本作のおかげで今後2作品分くらいの連載権利は確保できたかなと、少しホッとしています。ただ僕はかなりネガティブな性格なので、それと同時に、漫画家として食えなくなった時のために職業訓練学校に通う未来もしっかり想定しています。電気技師など、手に職を付けて生き抜いていこうかなと(笑)。

今回の実写版は、ぜひ観てほしいですね。漫画では描けないような映画ならではの迫力や魅力が詰まっていて、本当におもしろいですから。そして映画を観た後にコミックスも買っていただけたら、なお嬉しいです。英雄は最後、ヒーローになれるのか? ラストにご注目ください」

 

【PROFILE】

1974年1月4日生まれ。青森県出身。2004年『ルサンチマン』(全4巻)で漫画家デビュー。第5回センス・オブ・ジェンダー賞話題賞を受賞。2005-2008年に連載した『ボーイズ・オン・ザ・ラン』(全10巻)は映画化、ドラマ化を果たした。2009年からは『アイアムアヒーロー』を『週刊ビッグコミックスピリッツ』にて連載中。現在、最新刊19巻が発売中。

 

『アイアムアヒーロー』
突如、人間を襲う生命体・ZQN(ゾキュン)が増殖しはじめた日本。冴えない漫画家アシスタントの鈴木英雄は、仕事仲間や恋人が変貌する光景を目の当たりにし、衝撃を受ける。やがて女子高生・比呂美と出会った英雄は、都市部からの逃亡を図るのだが…。

監督:佐藤信介、原作:花沢健吾『アイアムアヒーロー』(小学館『週刊ビッグコミックスピリッツ』連載中)、出演:大泉 洋、有村架純、長澤まさみほか。4月23日[土]より全国ロードショー

 

図2

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