今日6/27にNEW EP『ガラパゴス』をリリース! 日本武道館を経て”デトックス・モード”へと突入したカンパネラ。「身体の中から自然に響いてくる声を出したい」と語るコムアイとケンモチヒデフミに新作のことに加えて、最近のファッション視点のトピックでもあるエレッセ ヘリテージのことについても直撃した!
ーー新作EP『ガラパゴス』はコムアイさんが得意のラップやダンスビートの場面が減り、歌をしっかりと聴かせる内容になっていました。
ケンモチ「もともと僕たちはEPをリリースするときは、何かしら新しいことにチャレンジしていて。今年の3月の日本武道館のライヴがまさに、テクノロジーを集約したようなものだったから、それを経て、デトックスなモードになったんです。だからこのEPのテーマはチルアウト、スピリチュアル、オーガニック・サウンドがテーマになっていますね」
ーーEPタイトルの“ガラパゴス”に込めた意味は?
コムアイ「最近はフェスなどの出演で海外に行くことも多くなって、あらためて自分が育った日本の環境や文化って特殊なんだと思ったんですよね。それを表わしたくて、ガラパゴスというタイトルをつけました」
ーー「ピカソ」は恋多き人物であったピカソを歌詞でも表現していますね。コムアイさんにとって、恋愛ってどんな存在ですか?
コムアイ「その都度、強い影響を受けていますね。そのとき付き合っているいる人からムードみたいなものは絶対に移ってくるし。でも、それがそのまま自分の作品だったりに表面化するわけではないので、あまり関係はないのかもしれないです。この曲について言うと、たまたまその時、好きな人がどうしてもたくさんいて、いわゆる三股。そしたらまるで私のことを歌ってたような詞がケンモチさんから届いて。もうビックリ(笑)」
ーー曲のタイトルを着想してから、それに付随する歌詞と曲を作っていくのがカンパネラのやりかたですが、「見ざる聞かざる言わざる」も秀逸の出来でした。
ケンモチ「本来は見ざる、聞かざる、言わざるのほかに、“せざる”という4匹目の猿がいたのですが、いつのまにかハズされてしまっていて。今の日本の社会においても、忘れてはいけない象徴だと思ったんですよね」
ーー博物学者の名を冠した「南方熊楠」も印象的でした。この曲は新作のなかでは数少ないダンス系のトラックですが、歌詞がこれまでと違うというか、あまり意味を持たせずにリズム感を重視するという、これまでになかった表現でした。
コムアイ「私が歌うとポップ・ソングとして成り立ってしまうことにコンプレックスを感じていて。でも、この曲はカンパネラで初めて、そこから抜け出すことができました。これからのカンパネラの歌は、ダンス・ミュージックに関しては、今言ってくれたみたいに「南方熊楠」のようなリズムや語呂を重視した歌にして、それとあとは歌謡曲のように、歌だけで愛されるようなものにしたいです」
ーーそう思ったきっかけは何かありましたか?
コムアイ「武道館のライブを見返して、このままだと自分にしかできないことができなくなるんじゃないかなと思って。それもあって路線変更をしたんです。デビューしてから5年が経ち、私のなかでひと回りした感覚があって。人にどう見られるかを気にせずに、今までみたいに前のめりになるんじゃなくて、身体の中から自然に響いてくる声を出したいと思うようになったんです」
ーーその意味では、オオルタイチさんが作曲した「愛しいものたちへ」は、珍しくバラード曲で、曲名に人名しばりのルールがあるカンパネラとしても異例でしたね?
コムアイ「そう、人名しばりじゃないのはこれが初めてですね。でも、そろそろ人名しばりはなくしてもいいかなって。この曲でタイチさんの曲を歌ってみて、これまで歌に関しては甘えていたんだなって思いました。ケンモチさんは私が辛そうだと、歌いやすいように曲のキーを下げてくれていて。もちろんタイチさんもそうしてくれましたが、聴き直したら満足いくように歌えていなくて。タイチさんのところで録ったんだけど、東京に戻ってきてから、もっと自分がリラックスした状態でチャレンジしたくて、zAkさんのスタジオで録り直しました。曲中のメロディの下から上までの音域をしっかりと出すことができなかったけど、諦めずに、声が細くなっても、気持ちでいけると思って歌いました」
ーー他にもコムアイさんにとって、この作品で挑戦だったと思える曲は何ですか?
コムアイ「“かぐや姫”ですね。これは市川崑さんの“竹取物語”という映画に影響を受けていて、この映画はかぐや姫は宇宙から来たという設定のSFストーリーで、私はかぐや姫は恐竜から人間そしてAIへと繋がっていく命の螺旋だと思い、この歌詞を書きました。でも、この詞が手がかかって、何度も泣きそうになりました。今聞いても、細く願うような気持ちを込めて歌っているなって思いますね。この詞って、笑えるわけでもなくて、思ったことをマジメにやっているだけなんです。今までそういうことやるのに恥じらいがあったので、そういう意味でも私にとって、この曲は冒険でした」
ーー最近のコムアイさんのファッション的なトピックだと、最近『エレッセ ヘリテージ(ellesse HERITAGE)』のクリエイティブ・ディレクターを担当していますよね。スポーツ・ブランドではあるのに“競争のない こんにちは”というコピーが印象的でした。
コムアイ「あれは永戸鉄也さんと一緒に原宿図書館に行って、本のタイトルとかでいいものを1時間後に持ち寄って、“これとかどう?”とか言って集めて、永戸さんがその中から選ぶみたいな感じで作っていきました。私はクリエイティブ・ディレクターの経験もないので、自分の好みとか、なんかこういうのが、キャンペーンとしてあったら面白いよねとかっていうのを、形にしていってもらったというか…。そう、ゼミの先生みたいな役割をしてくれた永戸さんに感謝しています」
ーーこのキャンペーンはディレクションとデザインがコムアイさんと永戸さん、スタイリングが山田陵太さん、写真は三部正博さんですね。
コムアイ「そうです。メンズのスタイリストの方って、スタイリングで雰囲気とか、人の持ち味が出ているかどうかとかってよく見ているから。女の人みたいに “かわいいから、絶対これがいい”みたいに、アイテム1つのかわいさに負けないっていうか、バランスがいいんですよね」
ーー理屈で構築していく男の視点というか。
コムアイ「うん、構築する感じ。だから、今回は映画的なスタイリングでしたね。おじいちゃんやおばあちゃんたちを駒沢公園や世田谷公園、あとは上野公園の不忍池あたりでハントしました。やっぱり場所によって人のタイプが全然違うんですよ。モデル・ハンティングは2日間みっちりかけたので、私たちもおじいちゃん、おばあちゃんのさまざまなタイプが見分けられるようになったんです。だいたい8タイプぐらいに分けられるんですよ」
ーー面白いですね。
コムアイ「30代の人でもキャラクターってみんな分かれているじゃないですか? 音楽という区切りだと似たタイプが集まってくるかもしれないけど、例えば、同窓会っていう区切りで集まったとしたら、やっぱり全然違うタイプが集まってきますよね。で、おじいちゃん、おばあちゃんとなると、さらに深く分かれている感じがして。服とか髪型とか雰囲気に、その人が体験してきた文化度的なものがにじみ出ていて、すごく深みがあるんですね。エレッセというブランドには、スポーツ・ブランドのファッションだけじゃないって言い切れちゃう強さみたいなものがあって、深みがあって。私はエレッセのそこが好き。お洒落すぎるのはあんまり好きじゃないけど、ここをテーマにすれば、お洒落って何だろうという投げかけに対して、私が思っている答えに近づける感じもあるなと…」
ーーなぜ、そういうメッセージ性を選び、発信したかったのですか?
コムアイ「スポーツウエアの世界って、特定のオリンピック選手に着てもらうという戦略がありますよね。で、サポートする選手に勝ってもらうことが何より大事という…。でも、私はオリンピックとかを観てもグッとこないタイプだから、今この瞬間に1位になることに感動できない。だから“競争のない~”っていうイメージが出てきて」
ーーなるほど。確かに、自分が共感できない価値観に寄せていってもしょうがないですよね。
コムアイ「あとね、“競争のない~”のほかに、もうひとつ私が気に入っていたコピーがあったんです。“渓谷に住む人々”っていうコピーで、なんか映画みたいなドラマ感があっていいなって。実はこれ、今回のエレッセ ヘリテージのヴィジュアルコンセプトにもなっているんです。写真に登場する人たちは家族なのかもしれないし、もしかしたらたまたま公民館で居合わせた人なのかもしれない…っていう風に、いわゆる家族写真からズラしたかったんですよ。よく見たら“あれ、お父さんとお母さん、いなくない?”って。で、人数構成がちょっとおかしくて、“私と永戸ジュニア君”がいて、少年と私の年齢差もちょっと変みたいな。“じゃ、これ、何? なんかコミューンなの?” みたいな感じも狙ってみました」
ーー今のコムアイさんの言葉を聞いてから写真を観ると、“ああ、なるほど”って、腑に落ちました。
コムアイ「何か、生活が見えるみたいな感じに“落としたいな”って。そこは繊細にこだわって詰めていきました。例えば、膝を折って立ったらどんな風に見え方が変わるかなとか、あとは全員の立ち位置でもイメージは変わるし、もちろん表情や全員の目線とか。何か“ストーン”としているじゃないですか?」
ーー確かにストーンと感じますね。なるほど、今回のEP『ガラパゴス』で冒険されたように、スポーツ・ブランドとして、このビジュアルもある意味、冒険的ですよね?
コムアイ「そう、エレッセのスタッフとも話していても、もっとリバイバル的に若い子に着てもらいたいって感じだったんですけど、だからといってデザインを変えるのは、違うんだろうなと思っていて。私たちが求めているのはそうじゃなくて、’80年代にエレッセを着ていた人の真似をするようにエレッセを着たいんだから。そう、むしろ変わらないでいてもらわないとそれができなくなっちゃう。なので、まず変わらないことを最初の前提としていましたし、その“変わらないエレッセ”が伝わるといいなと思っていました。今回のプロジェクトは、見た人が攻めているなって感じるキャンペーンでもあるんだけど、このコンセプト自体が新しいし、エレッセはずっと変わらないし、すり寄ってもいない。だから、おじいちゃんやおばあちゃん、それに私たちがモデルとなって、私がおばあちゃんになった頃の写真としても見えたりしてもいいし、数十年前に買ったエレッセを、今でも着ているおじいちゃん、おばあちゃんがいて…、みたいに感じとってくれてもいいし、そんなことを表現したかったんです。こういう“変わらなさ”を出すために、おじいちゃん、おばあちゃんを被写体に選びました」
ーーなるほど。そういった世代を超えた普遍性を押し出すことで、エレッセ ヘリテージというブランド価値を再提示したのですね。そして本質をしっかり捉えているとも感じました。エレッセ ヘリテージ=クラシックポップスタイルなのに、流行りものだけに合わせていってしまったら、果たして“クラシック”の意味ってどこにあるの? って、なってしまうかもしれないですからね。今のコムアイさんの話を聞いて、ちゃんと考え抜かれたコピーであり、キャンペーンなんだということも分かりました。
コムアイ「そうです。実際にかなりの回数の打ち合わせをして、こういう流れになりました」
ーーでも、エレッセ ヘリテージのこのキャンペーンの制作秘話って、まだ情報としてそれほど出ていないですよね?
コムアイ「その意味でもこのキャンぺーンの趣旨というか、私たちが込めた思いをもっと知ってほしいなって」
ーーでは、ここで包み隠さず発信していきましょう。
コムアイ「お願いします」
ーー話は多少変わりますけど、コムアイさんってファッションアイコンとして、時代の流れの中に突然現れてきたような感じもあって。
コムアイ「突然変異的な?」
ーーええ。でも、なぜそうやって出てこれたんだろうかと。
コムアイ「私は“何か気持ちいいもの”って突然変異っぽいものなのかなって思います。なぜこの時代にこの人が生まれたのかって、私もよく思いますよ。でも、それはもう何万年って生き物がそういうふうにしている気がするんです。自分がどうしたいとかっていうより、マンネリしてくると新しいものを生もうと、全体的に何か働きかけるような動きがあるのかもしれない。種としての意みたいな」
ーーああ、なるほど。
コムアイ「それって、アリでも20%の個体しかマジメに働かないのと同じで、自然の陰陽のバランスみたいなものですよね。だから、私も時代の流れの中で次の動きとして出てくるもののひとつだったのかもしれないし…だから、好きに表現できたのかもしれないです。でもね、私、そんなに頭が良くないから、そういう“体系”的な感覚は、あんまりピンとこないんですよ。単純に本能で選んだ服を着て、飽きたら過ぎていくみたいな感じ。あと、流行の文脈を気にしすぎて、今こういうのが流行っているって何となく分かってしまうのもちょっと怖くて…。でも、もともとそういう流行系の人があまり身の回りにはいないから、気にせずにただ“あ、これかわいいなあ”とか、ぽわーっと思いながら、服を着ているというのが常で、今はもっとどんどん本能的になっているかも(笑)」
PROFILE
コムアイ、ケンモチヒデフミ、Dir.Fの3人によって2013年より活動を開始。ダンス・ミュージックの最新トレンドを織り交ぜたケンモチによるエレクトロ・サウンド、マニアックな歌詞世界、そして浮遊感のあるコムアイの声が一体となったオリジナリティに溢れる音楽は、世代を問わず多くの人々を惹きつける。
http://www.wed-camp.com/
NEW EP
『ガラパゴス』
通常版(CD)2500円(ワーナーミュージック・ジャパン)6/27発売
https://wmg.jp/wedcamp/
2017年にデジタル・リリースされたJRA日本ダービーのタイアップ「メロス」をはじめ、新曲6曲を収録したEP。チルアウトでオーガニックなサウンドに加えて、コムアイも飾り気を捨て、素朴に感情を表現する歌を披露した意欲作。
Photo:MUTSUHIRO YUKUTAKE(S-14)
Hair&Make:「TORI.」
Text:DAISUKE ITO
Special Thanks:SAYURI MIZUNARA