フィルムメーカー“齊藤 工”名義で手掛けた自身の長編初監督作を引っさげ、世界の名だたる映画祭へ参加。世界各国の映画祭で絶賛された斎藤 工が今また俳優業に忙しい。そんな中、大ヒット公開中の映画『去年の冬、きみと別れ』。“罠”をテーマにした本作で彼はどんな姿を見せるのか? そして、その全貌とは…? 『Men’s JOKER』4月号では同映画についてのインタビュー記事を掲載したが、スペースの都合上、割愛せざるをえなかった内容を含めた完全版を特別公開する!
――芥川賞作家・中村文則(『教団X』ほか)のサスペンス最高傑作にして、その驚がくの仕掛けから「映像化不可能」と言われてきた『去年の冬、きみと別れ』が、EXILE/三代目 J Soul Brothersの岩田剛典さんを主演に迎えて映画化。主人公を翻ろうする狂気のカメラマンを演じたわけですが、完成作をご覧になった感想はいかがでしたか?
鑑賞後に複雑な後味が残る…と言いますか。(観客を)あざむいてはいるものの、同時に共感も宿る…それは(瀧本智行)監督、そして原作者の意図的な試みだと思いますが、言葉では簡単に説明できない映画だなと。「誰かとシェアして感想を語り合う」というよりは、「いいショックを共有したい」と思えるような映画だと思いました。
――原作者の中村氏は、文体、物語性、分量の3つを意識。
映画も、原作者の緻密な題材を監督がロジカルに、ダイナミックに描こうとした素晴らしい現場で。エンターテインメントでありながら物語性も両立している。’60~’70年代には、そうしたエンタメでありながら“波動”のようなものを感じるサスペンスがたくさんあったと思うんですけど、近年はありそうでなくて…決して奇をてらい過ぎていない。ものすごくバランスがよく、なおかつ震える映画になった思いますね。
――また、「再読できる小説」を目指したそうです。
そのへんのバランスがいいので、映画も何度でも観たくなると思います。今朝(取材時)試写を観たばかりなんですけど、すでにもう一度観たいです。
――監督は、『星守る犬』(2011年)、『はやぶさ 遥かなる帰還』(2012年)、『脳男』(2013年)、『グラスホッパー』(2015年)と、硬軟自在に撮りわける瀧本智行監督。ほぼ順撮りだったとお聞きしました。
その時点で“何を大事にしているか”が明確ですよね。岩田さんが演じる記者の耶雲(やくも)の心情を丁寧に描いていく。だから、すごく大事にシーンを紡いでいく現場に関しては信頼しかなかったです。複雑に考えると時間軸とかわからなくなってしまうところですが、監督の脳内には俯瞰した、精密な設計図があったので安心できました。それでいて、陣頭指揮はとっていながらも不安や迷いを隠さない。いい意味で、監督ご自身も本当にいろんなことを考えられながら…まず緻密な原作があり、考え抜いた脚本があり、入念にご準備をされた上で、さらに現場で苦悩される姿が僕の目には美しくも映りました。
――そもそも斎藤さん演じるカメラマンの木原坂は、なぜ事件を起こしたのか? それは本当に殺人だったのか? そこが物語の焦点に。木原坂像をどう捉えました?
闇雲に何かに向かって走れるということは、人間として“活きる”…本来の能力や、あるいは才能が発揮されている瞬間だと思います。ただ、そのエネルギーを犯罪に用いてしまうと、とんでもない力にもなり得る。木原坂などは、まさにそのタイプですが、この作品に出てくる登場人物は自分では歯止めが利かない、従来の能力以上のものが沸き出てくる“何か”を、よくも悪くも見つけてしまった人たち。観るたびに、それぞれの人物の視点で楽しめるんじゃないでしょうか。
――確かに。何かを隠し続ける容疑者、そして彼に飲み込まれていく主人公…〈何らかに狂っている人間は、果たして是か非か?〉。ラストの仕掛けを目の当たりにすると、ふとそんなことを考えてしまいます。
木原坂の生業である写真でもお芝居でも同じだと思いますが、最初に頭の中に浮かんだものだけだと伸びしろがないから、それを覆すようなことが起きるのを期待して現場に立っている。そういう意味では、役とリンクしていたかなと感じます。僕もある種、映画というものに狂っていますから、良い悪いは別として彼のことを否定できない。耶雲も、ある対象に誠実であろうとするがゆえに狂気をはらんでいく。そんな耶雲のひたむきな姿は嫌いではないし、うらやましくもあります。
――耶雲を演じた岩田さんは、前回の同インタビュー記事に登場。「僕は映画の“罠”に関わる役。ちょっとした目の動きや芝居でそれが伝わったり、伝わらなかったりする。緊張感のある現場だった」と。
撮影期間中に岩田さんがいろんなものを犠牲にして…いろんなものに蓋をしながら、ご自身と真剣に向き合っている様がフィルムに焼き付いていて。そのある種の従順さと、作品が持つ大胆な展開にちょっと打ちのめされてしまいました。一般的にみなさんが持つ岩田さんのイメージみたいなものもどこかに残しながらひっくり返す――そこにやられた。岩田さんの俳優としてのターニングポイントに、確実になる作品に立ち会えたことがうれしかったですし、いち映画ファンとして恋愛感情に近い喜びがありましたね。みなさんも見たことのない岩田さんが見られると思います。
――斎藤さんは監督もされますが、役者・岩田剛典の印象は?
根の部分が誠実で清らかで、なおかつ遊びがあって。不思議なのは、あれだけライブなどでスポットが似合う方なのに、今回のように、漆黒の路地裏に消えていくような役もできてしまう方だなと。岩田さんが放つ波動が同時に映画のピッチになっているんですけど、岩田さんが作るそのピッチがブレないので、僕ら周りの俳優はすごくやりやすかった。素晴らしいアーティストであり俳優さんだと、改めて思いました。
――斎藤さんご自身は、音楽を心から憎む警察官を演じた映画『サラバ静寂』、自身の長編映画初監督作品となり、出演もされた『blank13』、木村拓哉さんと共演した『BG~身辺警護人~』、ドキュメンタリードラマ『MASKMEN』…と、役者道に精力的で。揃って〈人間とは何か〉を描いた作品が続いていますが、何を魅力に演じていらっしゃるんでしょうか?
人間って、最初の設定からはなかなか変わらない生き物だと思うんです。だから、僕は人が変わる瞬間を見たいし、立ち会いたいし、演じてみたい。これは自分で映画を撮ってわかったことですが、その瞬間を求めているんですね。それは表情とか態度とか、表面的なことではなく。そういう意味で岩田さんは、“人間が変わる”ものすごい瞬間を、観客に見せてくれると思いますし、それを監督が作為的ではなく、繊細な生ものとして取り出してくれた。そんな瞬間を間近に、特等席で見られて幸せでした。また僕も、そうありたいと思いました。
――岩田さん、斎藤さんが出演するため“女性向け”と見られる向きもあると思いますが、できるだけ多くの男性に観ていただきたい作品です。
人間の変わる瞬間…放電が心地よく、内側に響く映画。伏線やトリックと、ラストにすべてが集約していく展開に震えてください。いいショックを劇場全体で共有していただければと思います。ちょっとわからない部分があったり、ビターな部分のある映画って、後々まで心に残るもの。ぜひ、ご覧ください。
□斎藤 工 プロフィール
1981年8月22日生まれ、東京都出身。’01年に俳優デビュー。’18年は日仏シンガポール合作の主演映画『ラーメン・テー』、長編初監督作『blank13』が公開。『blank13』は、上海国際映画祭をはじめ国内外の数々の映画祭で高い評価を得た。また近年は、移動映画館『cinēma bird』の活動も話題に。現在、映画『去年の冬、きみと別れ』が公開中。また5月18日[金]には『のみとり侍』が公開。
映画『去年の冬、きみと別れ』 絶賛公開中!
芥川賞作家・中村文則による美しくも切ない傑作サスペンス、遂に映画化! 彼女との結婚を間近に控えた記者耶雲恭介は、本の出版を目指して、盲目の美女が巻き込まれた不可解な猟奇事件と、容疑者の天才カメラマン・木原坂雄大について調べはじめる。しかしその真相に近づくにつれ、いつしか彼は抜け出せない深みに飲み込まれていくことに――。
監督:瀧本智行/原作:中村文則『去年の冬、きみと別れ』(幻冬舎文庫)/出演:岩田剛典、山本美月、斎藤 工、浅見れいな、北村一輝ほか。
(C)2018映画「去年の冬、きみと別れ」製作委員会
公式サイト
http://wwws.warnerbros.co.jp/fuyu-kimi/
Interview&Text:TATSUNORI HASHIMOTO
Photo:HIRO KIMURA[W]
Styling:KAZ IJIMA[Balance]
Hair&Make:SHUJI AKATSUKA[MAKE-UP ROOM]