2016.06.25 Sat UPDATE INTERVIEW

MJ INTERVIEW ROOM vol.03 
有村架純『夏美のホタル』

今年はすでに『僕だけがいない街』『アイアムアヒーロー』が公開。『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』では主演を飾るなど、飛躍を遂げた有村架純。そんな彼女が信頼を寄せる廣木隆一監督の最新作『夏美のホタル』で繊細かつ大胆な演技を見せる。

 

01

大切な誰かに会いたい。そう思ってもらえたら

彼女といっしょに私自身も成長する必要があった
映画、ドラマと出演作が続き、エンタテインメントシーンを牽引する女優のひとりとなった有村架純がヒロインを演じる『夏美のホタル』。昨年の8月、2週間にわたり千葉県の大多喜町に泊まり込んで本作の撮影に臨んだ彼女は「お芝居をしている感覚はあまりなくて。本当に田舎に遊びに行った。そんな気持ちでした(笑)」。そう、まるで実際の夏休みの思い出を振り返るかのようにロケの様子を語ってくれた。
「子供のころは映画に出てくるような山や川によく行っていました。キャンプも好きで、川遊びやセミ採りもしょっちゅう。(演じる)夏美と同じく懐かしい気持ちになりました」
ただ、折からの猛暑に加えて山奥でのロケ。何かと不自由なことも…。
「携帯の電波は届きにくいし、川辺の撮影が多かったので、虫やヒルもたくさん。最後の方は慣れましたが、実際にそういう(スタジオではない)場所にいることが大事だったと思います」
照りつける夏の太陽、木漏れ日が差す清流、花火にスイカ、そしてタイトルにもあるホタル…。これらのディテールが、本作では重要な意味を持っていたと、冒頭の楽しげな顔から一転、真剣な表情で続ける。
「夏美にとって大事な場所でひと夏を過ごす間に、ずっと引っかかっていた父親の死に対する答えを見つけていく物語。彼女といっしょに私自身も成長する必要があるだろうなって」
本作は、とある田舎の町で「地蔵さん」と呼ばれる店主(光石 研)とその母親(吉行和子)が営むよろず屋が舞台。写真学校の同級生が評価されていく中、やり場のない焦燥感を抱える夏美が、現実から逃れるように父親の形見のバイクで旅立つところから始まる。
「台本を読んだ時に親子の絆だったり、人と人とのつながりに涙が出てきて…。だから夏美と同じ場所で同じ空気を吸って、お芝居をすることが必要だと思いました。そこで、彼女が自分なりの“答え”を出すその瞬間の気持ちを大事にしながら現場に臨みました」
ひと夏の物語…などと聞くと、甘酸っぱい恋の話や汗がまぶしい青春ストーリーを想像するかもしれない。しかし、本作はそれとは少し趣が異なる。劇中では恋も青春も描かれてはいるが、人生の岐路に立たされた20代ならではの悩みや葛藤、恋人(工藤阿須加)との将来といった心の揺れと成長が物語の核となっているからだ。
「でも実は最初、その時々の夏美の感情を読み取るのが難しくて。今まで以上に心の機微を表現しなくてはならない役に戸惑いがあったんです」
こうした主人公とシンクロする心の揺れを、瑞々しく活写したのは、『ストロボ・エッジ』以来、2度目のタッグとなる廣木隆一監督。
「そんな時、廣木さんから『何も考えなくていいよ』と。それもあって先ほども言ったように、彼女とともにひと夏を過ごして、いっしょにいろんなことを感じられればいいなと思ったんです。とはいえ“何も考えない”ということを考えていたりするんですけど(笑)」
また原作は、近年『虹の岬の喫茶店』などの作品が映画化された注目の作家、森沢明夫の同名小説。3年ほど前、同作を読んで感激し、映画化を熱望していたそうだ。
「当時、森沢さんとお会いして“いつか映画にできたらいいね”と話していたんです。私も、この温かくて優しいお話が映画になったらなって。だから、本当にビックリしました」
劇中さながらの出会いと、人と人とのつながり。映画化の話を聞いた際のエピソードも出会いの大切さ、つながりの奇跡に驚かされる。
「“監督は廣木さんがいいな”ってなんとなく思っていたら(昨年の)私の誕生日に『廣木さんに決まったよ』と教えられたんです! 出会いやつながりって大事だなと改めて気づかされました。今年放送された『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』の役も、この映画を先に撮っていなければきっとできなかっただろうと思います」
ひょんなことから始まった田舎暮らし。やがて、よろず屋の親子や地蔵さんの友人で、一見、気難しい仏師(小林 薫)らとの触れ合いが夏美の心を解きほぐしていく。
「夏美と同じ20代の方はもちろん、あらゆる世代の方に観ていただきたいです。親と子、友人、恋人…いろんな目線、いろんな角度で。その中で、人と人のつながりが人を優しくすること。愛情は、例えささやかであっても幸せを連れてきてくれること。そんな日常の中に当たり前にあるけど見落としがちな何かを感じていただけたらなって」
ほかにも自分の名前の由来や仏師の言う才能とは? 仕事とは? そうした普段は改まって考えない大切な何かをそっと教えてくれるはずだ。
「私の本名は“架澄”なんですが、その名前の由来を今度ちゃんと聞いてみたいと思いました。みなさんにも大切な誰かに会いたい、話を聞いてみたい、そう思ってもらえたらうれしいですね」
先の主演ドラマ『いつかこの恋を〜』をはじめ『僕だけがいない街』『アイアムアヒーロー』といった話題作が立て続けに公開。多忙を極める毎日だが、次なる出会い、つながりに向けてすでに動き出している。
「今、身体を鍛えているんです。この先、例えばアクションのお仕事が届いた場合、できないよりは少しでもできた方がいいかなって。自分でも予期しない出会いやつながりがあった時、それに応えたい。この映画を通して気持ちを新たにしています」

02

KASUMI ARIMURA
1993年2月13日生まれ。兵庫県出身。2010年に女優デビュー。昨年は映画『ビリギャル』で日本アカデミー賞優秀主演女優賞、新人俳優賞。同作と『ストロボ・エッジ』でブルーリボン賞主演女優賞を受賞した。今年も映画『僕だけがいない街』『アイアムアヒーロー』と公開が続き、10月に公開予定の『何者』が待機中。

 

 

03
『夏美のホタル』

悩みを抱え、亡き父との思い出の場所へと向かった夏美。そこで知り合った老親子が営む“たけ屋”で始めたひと夏の居候。親子、夫婦、友だち…人とのつながりが心に沁みる逸作。

監督:廣木隆一、出演:有村架純、工藤阿須加ほか。
6月11日[土]より全国ロードショー

(C)2016「夏美のホタル」製作委員会

 

 

図2

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