2016.07.16 Sat UPDATE INTERVIEW

MJ INTERVIEW ROOM vol.04 
岡崎慎司『未到 奇跡の一年』

いわゆる“海外組”と呼ばれる日本代表選手の中で、昨季もっとも華々しい活躍を見せた岡崎慎司。彼の視線は、プレミアリーグ優勝という歴史的偉業の、さらにその先へ向かっていた。

 

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優勝後に見えた、自らが目指すべき道とは?

プレミアリーグ史に残る優勝とその後にこみ上げた内なる声
 5月に幕を閉じた2015―16シーズンのヨーロッパのサッカーリーグで最も大きな話題となったのが、レスター・シティのイングランド・プレミアリーグ優勝だった。
 前シーズンには2部降格の危機すらあった地方クラブの戴冠は、「100年に一度の奇跡」として称えられた。
 そんな「ミラクル・レスター」において大きな役割を演じたのが、日本代表のストライカー、岡崎慎司だ。
 筋骨隆々とした選手たちが肉弾戦を繰り広げ、「世界一タフなリーグ」と言われるプレミアリーグで、岡崎は挑戦1年目にしてリーグ戦38試合中36試合に出場。そのハードワークや献身性は、目の肥えたサッカーの母国のメディアから高く評価された。
 ところが、奇跡のシーズンを終えたとき、当の本人が抱いたのは、満足感でも達成感でもなかった。
「優勝が決まった瞬間は、頭の中が真っ白になるぐらいうれしかったんです。でも、幸せな気分に浸れたのはしばらくの間だけ。最終節が終わったときにこみ上げてきたのは、『悔しさ』や『怒り』といった感情でした」
 11年から4シーズン半、ドイツ・ブンデスリーガでプレーした岡崎は、「世界一のストライカーになる」という野望を胸に、15年夏にプレミアリーグに飛び込んだ。ドイツで2シーズン連続二桁得点を記録して確立した“ストライカー・オカザキ”としての地位を捨てて、である。
「もう一度ゼロから築き上げるつもりで移籍しました。簡単な挑戦でないことはよく分かっていたけれど、契約期間は4年。焦らず、まずはチームとリーグに慣れて、4年間で一度どこかで二桁得点をマークできればいい、という気持ちでいました」
 実際、岡崎はチームに必要なこと、監督が望んでいることを察知して“守備で頑張るストライカー”に生きる道を見出し、開幕スタメンを勝ち取った。
「でも、振り返れば、試合に出たいという気持ちが強くて、自分で自分の役割を限定してしまっていた。すると、しばらくしてチーム内で“守備的な選手”というレッテルを張られてしまったんです」
 転機が訪れたのは、リーグ17節を2日後に控えた12月17日の練習中だった。何の気なしにダイビングヘッドを決めると、チームメイトから「そんなゴールを決められるのか」と驚かれたのだ。
「本来ダイビングヘッドは得意の形なのに、これまでは、それを見せる機会がほとんどなかった。相手にとって脅威となるプレーは自分の真骨頂だったのに、チーム内での役割を考えるあまり、それが抜け落ちてしまっていたんです」
 ゴールに直結するプレーを心がけるようになった岡崎は、さらに年末年始にじっくり思考を整理し、考え方を180度変えた。それまではチームのため、自分が起用されるためにしていたハードワークを、“自分がゴールを奪うため”に敢行するようになる。
「目指す道がはっきり見えました。チームメイトの(ジェイミー・)ヴァーディや(リヤド・)マフレズが、なぜ点を取れるのか。それは無心でゴールを目指すから。答えは、シンプルだったんです」
 そこからは、自分がどれだけゴールに飢えているかを表に出し、チームメイトにボールを要求し、ゴールだけを狙って無心でプレーした。3月14日のニューカッスル戦では美しいオーバーヘッドキックも決めた。
 だが、ゴール数は思うように伸びず、36試合で5ゴール。目指す頂ははっきりと見えたのに、ゴールは取れそうで取れなかった。
「優勝して『凄い』と言われたけれど、チームやヴァーディ、マフレズが凄いわけで、僕が何かを成し遂げたわけではない。僕が目指しているのは、自分がゴールを奪って、チームを勝たせる選手になること。だからシーズンが終わったとき、僕は未到―未だ到達せず、という心境だったんです」
 この度岡崎は、その『未到』をタイトルに掲げた著書を上梓した。本を作るにあたって1年間を振り返った岡崎は、さらに思考を深めたという。
「シーズン終了時の悔しさや怒りをエネルギーに変えて、僕も次に向かいたいし、僕の考え方が、この本を読んでくれた人にとって、何かを乗り越えようとするときのヒントになったらうれしいです」
 8月には前シーズン王者として迎える新シーズンがスタートする。さらに、ヨーロッパ各国の上位チームが集うチャンピオンズリーグへの参戦は、チームにとっても岡崎にとっても初めてのチャレンジで、未知の世界となる。
 「昨季にやれたことをまずはぶつけてみる。そうすれば、新たに見えてくるものがあると思うんです。絶対に決めるという強い自信がないと、ゴールは入らない。ここに入れば絶対に決められるというポイントを掴んで、確固たる居場所を築きたいですね。新しいチャレンジがまた始まると思うと、ワクワクします」

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SHINJI OKAZAKI
1986年4月16日生まれ、兵庫県出身。滝川第二高校を経てJリーグ清水エスパルスに加入。チームの中心選手として活躍し、2011年にブンデスリーガの名門・シュツットガルトへ移籍を果たす。2013年からはマインツでプレーし二年連続二桁得点の実績を引っさげて、2015年プレミアリーグ・レスターシティに加入。日本代表では通算100試合・48得点。

 

 

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『未到 奇跡の一年』

「世紀の番狂わせ」として世界中から注目を集めたレスター・シティ奇跡の優勝劇。その立役者である著者が、プレミアリーグへの挑戦から優勝、その先までを語った渾身の一冊。著者/岡崎慎司 KKベストセラーズ刊 780円

 

 

図2

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