明石家さんま、赤塚不二夫、そして桂小五郎(木戸孝允)。彼ら3人の共通点が分かるだろうか? 答えは連続ドラマ。ある俳優が、この夏に演じる人物の名前だ。Netflixの『Jimmy~アホみたいなホンマの話~』、NHK土曜ドラマ『バカボンのパパよりバカなパパ』、同大河ドラマ『西郷どん』。
『メンズジョーカー7月号』では「こんなに短期間で実在の人物を演じるのは、役者人生の中でも最初で最後なんじゃないかな」と、その苦労を語った玉山鉄二。原作もののキャラクターを演じる時とはまた違った緊張感、プレッシャーに襲われる中、感じたもの。伝えたいもの。そしてキャリア20年を迎える彼が掲げる目標とは…? この『メンズジョーカー プレミアム』では、さらなる深い話を聞いていく。
【過去のインタビュー記事はこちら】
主演ドラマは“セックス依存症”がテーマ!「玉山鉄二」ロングインタビュー(2017年10月公開)
話題の人物を直撃! スペシャルインタビュー「玉山鉄二」(2016年8月公開)
――昨年は東海テレビ×WOWOW共同製作連続ドラマ『犯罪症候群』に『奥様は、取り扱い注意』、映画『亜人』に出演。息つく間もなく『Jimmy~アホみたいなホンマの話~』の撮影に入り、『バカボンのパパよりバカなパパ』『西郷どん』。今年に入っても大忙しですね。
玉山鉄二(以下:玉山) 昨今の働き方改革とは真逆の忙しさで(笑)。とりわけ『Jimmy』は本当に時間の少ない中、進んでいったので、ほとんど覚えていないです。しかも(かつて玉山が出演した)『離婚弁護士』シリーズ(’04、’05年)、『BOSS』シリーズ(’09、’11年)のチームだったんですけど、とにかく撮影が早いから(笑)。勝手知ったる仲だったのはいいものの、噛みしめることなく終わった感じでしたね。
――ご存じの方も多いと思いますが、諸般の事情により一部、撮り直しとなり。
玉山 チームとしては2回目ですからね。なおのこと早いという。で、初めて撮影する僕だけがあわあわと(笑)。ただ、時間が少なかったことが幸いして…と言いますか。次から次へと慌ただしく撮ったことで、さんまさんに近い会話のスピード感が出せたかなと。役回り的にツッコミのセリフが多かったんですけど、そこも上手い具合にいったかなと思います。関西弁も、僕自身が京都の出身なので問題なかったですし。むしろ、普段あまり使う機会がないので楽しんでツッコミんでました(笑)
――Jimmyことジミー大西さん役に、中尾明慶さん。兄弟役をやられた『ブラザー☆ビート』(’05年)以来の共演に、胸を熱くしたファンも多いんじゃないかと。
玉山 13年…ぶりですか。お互いに家族を持って、父親となって。僕ら自身も胸アツでしたよ。「懐かしい」じゃなく、「お互いがんばったね、よく生き残ったね」みたいな。同士的な感情が込み上げてきました。
――NHK連続テレビ小説『マッサン』をはじめ、実在の人物、歴史上の人物を演じたことは多々あるものの、こうも立て続けに…となると、おそらく前人未到。前代未聞の挑戦と言っていいかと思います。演じてみて、何か見えたものはありますか?
玉山 人間誰しもが少なからず自分の中に闇…と言いますか、陰の部分を抱えているのかなと思うんですよ。それは、よくも悪くも。他人からすれば“闇”どころか光に見えるかもしれませんが、あえて明るく見せていることもあるだろうし。そして、当の本人も、陰と陽、もはやどちらが本当の自分かわからないくらいになっていることもあるんじゃないかなと。それは生い立ちなのか、キャラなのかその時々のポジションなのか、職業柄なのか…わからないですけど。
――でも確かに、さんまさんも過去に家族にご不幸があり、赤塚先生も複雑な家庭環境にあったり。明るく見える人にも陰の部分は必ずありますよね。
玉山 日常のふとした瞬間に見える、陰の部分をどう演じるのか。桂小五郎は幕末の人物ですから本当のところを知る術はありませんが、さんまさんはご存命ですし、10年前に亡くなられた赤塚先生の場合、資料なり映像なり、たくさんありますからね。そういうものに目を通し、勉強する中で、スパイスとしてお芝居の中に入れていくか考えられたことは大きな収穫で。桂にしても、想像の範囲ですが、そうした内なる部分も見え隠れするようなお芝居を心がけたいと思っています。
――海外に拠点を移す際、ジミーが岡本太郎にもらった「キャンパスからはみ出せ」という言葉しかり。赤塚語録に刻まれる「バカっていうのは、自分がハダカになることなんだよ(後略)」との名言しかり。桂小五郎が遺した「大道行くべし、又何ぞ防げん」との金言もしかり。一見共通点のない3つのドラマの根底には普遍的なメッセージがありますが、どんなことを伝えたいですか?
玉山 子どもを持ってから、この手の言葉の意味をすごく考えるようになりまして。例えば岡本太郎さんの言葉であれば、ある景色を絵にする時に「この色をここに塗ると大人は喜んでくれる」とか「“普通”はこれが正しい」とか考える子どもになってほしくないな、とか思うんですよね。子どもならではの発想を活かしてほしい。赤塚先生もそういう方針の父親で、それもあって親子喧嘩が絶えなかったそうなんですけど、(現代美術家で)娘さんのりえ子さんは、そのおかげで美術に興味が持てたとおっしゃっていて。枠からはみ出してもいいんだよ、ということ…難しいことは抜きにしても、何か感じてもらえたら。バカボンのパパじゃないですけど、最後に「これでいいのだ」と思ってもらえたらと。
――ただ「このドラマを観て楽しいかった」「明日もがんばろう」でもいいんだから。
玉山 そうですね。そうしたメッセージを、肩の凝らないエンターテインメントの作品でいかにして伝えられるか――そこが台本を超えた役者の仕事だと思いますし、メッセージをお伝えするフィルターになっていかなければいけないなと、ここ最近はより強く思っています。『バカボンのパパ』でも、観た子どもたちが真意まではわからないくても、僕の変な動きだとか口調、テンションで笑ってくれたらいいなと。ご両親、おじいさんおばあさんとも観られるドラマなので、まずは笑って、ご家族でその意味なりを一緒に考えてもらえたらいいなと思って演じたつもりです。
――「バカになる」。何かと窮屈ですし、出る杭は打たれるような過ごし辛い時代だからこそ大事な気がします。
玉山 そうですよね。雑誌も同じだと思いますが、表現を生業とする仕事をする者の一人としては、今かなり危機感を持っていて。抗ってばかりではなく、寄り添いながら、でも決してあきらめずに。「僕の表現の根底にはこんな思いがある」という気概は持ちながらやっていこう、やっていかなきゃと思ってる。セオリーも大事ですが、セオリーどおりに進むことに安心せず、そういう場所に安住せずにいたい。先生の境地まで辿り着けるかわからないけど、自分のやれる範囲でやっていきたいです。
――’99年のデビューから20年目となる来年には、30代最後の歳を迎えます。
玉山 もう実在の人物はいいかな…というのは冗談ですけど(笑)、これまでどおり、いただいた役を誠実に演じていきたいですね。
――今回のさんまさん、赤塚先生役を見ても思うのですが、コメディはいかがです? ダイハツ工業『ウェイク』のCMにしても、すごく楽しまれているのが伝わってきて。
玉山 (笑)。ぶっちゃけ好きですね、やはり関西出身者ですから。動画サイトでは僕のことを知らない海外の方がCMを見て喜んでくれているようですし。それって役者冥利に尽きるじゃないですか? 泣かせるより笑わせる方が何倍も難しいと言いますからね、役者としてはやはり挑戦したいジャンルではあります。
――『奥様は、取り扱い注意』『亜人』とヒールが続いた後だけに、ちょっと笑える役も楽しみにしています。
玉山 あまり意識せず、来るものは拒まずに。ともあれ、2020年の東京五輪には休みを取って息子を連れて行きたいので、来年もよりいっそう働かせてもらいますよ(笑)
□玉山鉄二 プロフィール
1980年生まれ。京都府出身。’99年、ドラマ『ナオミ』で俳優デビュー。以後、さまざまなドラマや映画の話題作に出演。’05年『逆境ナイン』で映画初主演を果たす。’09年には映画『ハゲタカ』にて第33回日本アカデミー賞助演男優賞を受賞。以降も映画、ドラマなどで活躍。Netflixオリジナルドラマ『Jimmy~アホみたいなホンマの話~』が7月20日[金]より配信、NHK土曜ドラマ『バカボンのパパよりバカなパパ』が6月30日[土]午後7時30分スタート。現在は、今後出番を控えるNHK大河ドラマ『西郷どん』を絶賛撮影中!
Interview&Text:TATSUNORI HASHIMOTO
Photo:KAZUTAKA NAKAMURA[makiura office]
Styling:YOSHIO HAKAMADA[juice]
Hair&Make:TAKE[3rd]